第34話 相談と、ある情報
「おはよー蓮!」
「ああ、おはよう可憐。相変わらず元気だな」
片腕を上げて、元気よく挨拶をする可憐に蓮もいつも通りの挨拶を交わす。
「うちは元気が取り柄なんでねぇ。……って、蓮は少し元気無くない? 薄っすらとクマが出来てるし。もしかしなくても寝不足だね?」
「あー、昨日はいろいろあってな。眠れなかったんだ」
蓮にとって、昨日は忘れなれない日に、寝られない日になるのは当然であった。
ーー異性に手を繋がれたり、腕を組まれたりと、そんな体験は初めてだったのだから。
「ほぅ……。いろいろとな? それはえっちぃことかね?」
「……いっつも可憐はそっちの方向に持っていくよな。まぁ、そんなんだから話しやすいんだろうが」
「女の子がこんな話題を振ってくるってなかなか新鮮でしょー?」
「そうかもしれないな。…………んで、今日はどうしたんだよ」
「え……?」
蓮はなんの前触れもなく、いきなりそう切り返した。
「教室に入って来る前、可憐の表情が硬かった。思い詰めたようなそんな感じだな。……俺に話し掛ける前に切り替えたようだが、見てれば普通に分かるぞ」
蓮は偶然、教室に入ってくる前の可憐を捉えていたのだ。
表情が硬いということは蓮にしか気付かないものだったが、可憐の違和感に気付いたのは、蓮以外にたくさんいたはずである。
「へ、へぇ……。蓮はうちが教室に入って来るトコ見てたんだねぇ……。そんなにうちのことが好きなのかい?」
「好きだな。友達として」
「……あはは、一瞬びっくりしたよ」
躊躇いもなく堂々と言う蓮に、可憐の頰はうっすらと赤みが差した。こんなことを平気で言えるのは蓮以外にいないであろう。
「……って、そんな質問をするぐらいなら、少しぐらいは相談してくれても良いと思うんだが?」
「そ、そうだね。……じゃあさ、うちの悩みを相談する代わりに、蓮が寝不足の理由をうちが聞くって条件でどうかな? 寝不足の理由を話すだけでもまだ気が楽になるかもだし、お互いにウィンウィンな関係になると思わない?」
「……分かった。それでいい」
蓮にとって、寝不足の理由を聞いてくれることは正直助かるものであった。何故ならそれは、一人ではどうも解決出来そうにないからだ。
「それじゃあ交渉成立ってことで。……実はさ、この相談はうちじゃなくて、ましろんの相談でもあるの……」
そこに、いつも発しているような明るい声音の可憐はいない。神妙な顔付きを無意識に作った可憐は、その悩みを蓮に相談する。
「ましろんに告白した翔先輩って人が居るんだけどさ、ましろんに振られた腹いせに、先輩と仲の良い女子とかにありもしないましろんの悪い噂を振り撒いてるの……。それだけじゃなくて、ましろんと仲良くしてる男子に圧力をかけたりとかさ……」
「面倒臭い相手だなそれ……」
可憐の話を聞くだけで、真白がどれほどの苦労を重ねているのかなんとなく理解出来た。……それだけでなく、この被害が蓮に向く可能性が高いことも知らされる結果になる。
「うん、その影響もあってか、ましろんがかなり陰口とか言われてるみたいで……」
「だからあんな話をしてたのか……」
「えっ、何か心当たりがあるの?」
「俺が通学途中に、真白の悪口を言ってる女子生徒がいたんだよ。会話は上手く聞き取れなかったんだが、『男子に告白されるのが迷惑なんだって』みたいな感じの内容を話していたと思う」
「はぁっ!? なにそれ!? 完璧に女子を敵に回す内容じゃん!」
可憐は勢いのままに立ち上がった。ありもしないそんな内容を言われているのだから、幼馴染として親友として許せるものではないのだろう。
「憤るのは分かるが、とりあえず座ってくれ」
「う……ごめん……」
蓮に諭された可憐は、肩を落としながらゆっくりと腰を下ろす。
「……もしかしたら俺の聞き間違いかもしれないが、この会話が本当だったらかなりヤバイな。真白は一年だし、二、三年からちょっかいを出される可能性がある。内容もかなりアレだし」
「真白って、悪口とか本気で気にしちゃう人だから本当にマズイかも……」
「その翔先輩ってのは三年生だよな?」
二年である可憐が、翔
「うん、三年……。だから一番厄介なの……」
「相手は三年だし、男……。可憐は真白の相談を聞く以外になにも出来そうにないな」
「……」
蓮の言葉に、可憐は悔しそうに唇を噛んだ。事実を否定出来ないのがまた悔しいのだろう。
特に可憐は女性で歳も一つ下だ。何かをしようにも行動が起こせないのが現状なのである。
「それで俺にどうして欲しいんだ? どちらかと言うと、ここからが本題なんだろ?」
「……察しが良くて助かるよ……。こんな悪口が出続けたらましろんは絶対に身体を壊すと思うの……。だから、このことに蓮も協力して欲しい。ましろんからの相談に乗るだけでも良いから……さ」
「本当にそれだけで良いのか?」
「……」
確信を突いたような蓮の言葉に、可憐は言葉を失った。
「翔先輩の圧力に屈しないでほしい。裏切らないでほしい。可憐はこの言葉を言うべきだと思うんだが?」
「…………はぁ。流石だね、蓮は。ほんと、似てるだけあるよ……」
降参、と言うように両手をひらひらさせる可憐は、どこか遠い目をしながため息を吐いた。
「似てる……? まぁいいや。それよりさっきの言葉、少し心外だぞ」
「な、なにがさ……?」
「そんな悩みがあるのに、友達に協力しないわけないだろって話。仮に、先輩から圧力かけられたって俺はそんなの気にしないし」
「……だ、だってさ、一応あるじゃん……。転入生の蓮にこんなこと頼んで良いのかって。こんなにマズイ状況になってるとは思ってなかったし……」
「こんな時こそ遠慮せずに話すもんだぞ。って言うか、それが友達ってやつだろ? 普通に協力するって」
「ん。ありがと、蓮」
頭を下げて礼を言う可憐は、右拳を蓮に向けてくる。
「どういたしまして」
可憐の右拳に蓮も右拳を作り、ゴツンと互いの拳を合わせる。
「……それで、蓮が寝不足だって理由はなにさ? 蓮は一人暮らしをしてるんだから寝不足はマズイでしょ」
可憐は言いたいことを言えたからか、いつもの明るい表情に戻り、約束通りにそんな事を聞いてくる。
「寝不足の理由は既に分かってるんだよ……」
「ほうほう、それは?」
興味ありげに聞き返す可憐に、蓮は少しの間を開けて小声で伝えた。
「……き、気になる相手が出来たかもしれない」
「……ぷっ、あははははは! なにそれ、超面白いんだけど。うちの相談の後にするするもんじゃないでしょ」
予想もしなかった寝不足の原因だったのか、可憐は腹を抱えながらバシバシと机を叩いている。
かなり勇気のある告白をした蓮だったが、こうも笑われると急に恥ずかしさが襲いかかってくる。
「わ、笑うなよ。そんなこと分かってるんだから」
「それでそれで、相手は一体誰なのさ?」
ここまで言ったからにはもう引くことは出来ない。蓮はコホンと咳払いをした後に情報を公開していく。
「……VRゲームのプレイヤーなんだが……、可憐はその手の話題に付いていけるか?」
「うん、普通について行けるよ。念の為に聞いておくんだけど、蓮がしてるVRゲームの名称ってなんなの?」
(なるほどねぇ……。VRの相手が好きだなんて、ましろんと一緒のタイプなか……)
なんて思いながら、可憐は何気ない質問をする。しかしーーこの質問が、ある者の正体バレに繋がるとは誰も思ってはいなかった。
「
「ほうほう……って、はぁ!?」
蓮からその名称を聞いた瞬間、可憐は大きく目を見開いた。
何故ならそれは、可憐と真白がしているVRゲームでもあったからだ……。
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