第4話 side、可憐と幼馴染の真白その2
「ましろん、今日VRログインする?」
『たくさんの彼氏がいる』という誤解を無事に解いた可憐は、平穏な話題に戻ることが出来た。
「うんっ、昨日レオくんと約束したから……えへへ」
言い終わったその一瞬で、だらしなく顔を緩ませる真白。
「ましろん、かーお、顔」
「……はっ、ふ、普通だしっ!」
昨日、久しぶりにレオと再会し、まだまだ話し足りないのであろう真白が蕩けた表情になるのは仕方がない。それだけ好きな相手を待ち侘びていたのだから。
「へー。今ふにゃーってした顔になってましたケド?」
「な、なってないからっ!」
「ふぅん、そっかそっか。うちにウソ付いちゃうんだ」
そこで、いつものようにいたずらっ子の笑みを見せる可憐。
「す、すみ、ません……。な、なっていたと、思います……」
「なっていたと思いますー?」
「……ぅ。な、なってました……よぅ」
“好きな相手”という弱みを握られている以上、真白は可憐に逆らうことは出来ない。
しかし、真白はこうしたイジリが嫌いではなく好きな方だった。可憐もそれは分かっているために、何度も弄ってくるのだ。
「よろしい。じゃあこれあげる」
そして、可憐は再びミルク味のアメ玉を真白に手渡す。
「……あ、ありがとうっ!」
その瞬間、にっこりと嬉笑を浮かべた真白はアメ玉を両手で受け取った。
好物を見てのこの切り替えの速さは何度見ても面白いものである。
「はぁ。こんな調子だと真白はすぐに彼氏に餌付けされそうだよ」
「なっ!? そ、そんなことないよっ! わたしは餌付けなんてされないよっ!? こ、これだって可憐があげるって言ったから、わたしが
餌付けという言葉を掛けられたくなかった真白は、光の速さで反論をする。
「ほぇー、そうかぁ。まーたそんなこと言っちゃうんだ」
「な、なに……ですか?」
可憐の悪戯っ子の笑みに対し、真白は引きつった顔になる。ーー可憐がこの表情になった時、良いことなど一つもないのだ。
「じゃあもう、このアメ欲しくないんだねぇ?」
そうして可憐はもう一つポケットからアメ玉を取り出す。
「あ……うぅ……」
「唸らない」
「……ほ、欲しくない……じゃない、です」
「なんだって?」
「…………ほ、欲しい、です……」
今、可憐が持つアメ玉を真白がこうも欲しがっている理由。
真白はこのアメ玉が売っているお店を見つけ出すことが出来ないからだ。また、アメ玉がどこに売っているのかを可憐に聞いても教えてくれないため、素直になる他ない。……アメ玉をもらうために。
「よしよーし、じゃあもう一個あげる」
まるで子どもをあやすかのように、追加のアメ玉を真白の机上に置く。
「む……」
「お? どしたんましろん?」
しかし、今度の真白はすぐに受け取らずにむくれた面様を見せた。
「お、おい……お前ら、今の真白ちゃん見てみろ!」
「おぉ、むすってしてるな……」
「頰も少し膨らんでるぞ……」
「お、俺的にもう少し膨らませてほしいな……」
「やっぱ可愛いな……。今日、学校に来て良かったぜ……」
「真白さんには悪いけど、ナイスだぜ! 可憐先輩!」
と、その矢先ーーそんなクラスメイトの話し声が外野から聞こえ漏れてくるが、今の状態の真白には聞こえていなかった。
「だ、だって、可憐がわたしを餌付けしようとしてるもん……」
「さあ、どうだろうねぇ。……じゃあこのアメは要らないのかな?」
「……」
小首を傾げ、白く細い人差し指をアメ玉に差す可憐に、真白は何も言葉を発することなく……机上に置かれたアメ玉をゆっくりと掴み……、
「ふーー」
そしてなにやら達成感を得たような息を吐いた真白は、何事もなかったように視線を窓外に向ける。
「えっ、なにその誤魔化しみたいなの。ましろんがアメ取ったの、うちバッチリ見てたんだけど」
「……可憐、今日は快晴だよ」
「か、快晴? う、うん。確かにそうだね……って、話題逸らすのヘタ過ぎるでしょ!」
隠す気もないような露骨な話題逸らしに、ツッコミを入れながら可憐は頰を掻く。
「あ、あっ! 可憐は今日VRログインする?」
下手くそな話題逸らしの二段重ね。仕方がないなぁ、と可憐は話を戻す事を諦めた。
「んー、今日どうしようかねぇ……。正直、レオっちとましろんのお熱い空気を邪魔したくないんだよねぇ。……ほら、そんな雰囲気に当てられると茶化したくなっちゃうし。まぁ、今日はバイトがあるから出来ないかもだけど」
可憐の性格上、からかってしまうのは仕方がない。
それだけではなくVR内で密かに囁かれている噂ーー、『レオ』と真白である『モカ』がカップルとしてデキているというものだ。
この噂はまだ小さく本人の耳には届いていない。しかし、その噂を耳にしている可憐だからこそ更にからかいたくなってしまうのである。
「お、お熱いだなんて……そ、そんな照れること言わないでよ……」
「……はぁ。ましろんってば、ほんとウブなんだから」
この言葉一つで、顔に赤みが差すのは真白以外になかなかいないだろう。
「でも、いつまでも奥手のままだとレオっちを誰かに取られちゃうよ?」
ーーだからこそ、忠告しておく必要があった。
「えっ!?」
「ましろんとレオっちは知らないと思うけど、最近レオっちの人気が上昇してるんだよねぇ〜」
「なっ!? ど、どういうことっ!?」
「レオっちって、誰ともチームを組まないソロプレイヤーじゃん? それなのに色んなプレイヤーと仲良いでしょ? 特に有名なプレイヤーと」
「う、うん。イベントで上位150人しかもらえなかった衣服も持ってるもんね……」
「ソロプレイヤーでそのくらいの実力があって、有名プレイヤーとの繋がりがあるレオっちだから、VRの女性プレイヤーからの人気がじわじわぁーと、ねぇ」
「そ、そんなぁ……」
「それに、レオっちは優しいし、変なところで気が利くじゃん? VR内の性格が
「そ、それは…………」
真白はすっかり失念していた。レオがモテる可能性。
VRのレオの性格がリアルと一緒なら既に彼女が居るという可能性を捨てられるものではなかった。
「ど、どうしよう、可憐……」
「まぁ、なんとなく現段階ではいないと思うけど……レオっちがログインしなくなった一ヶ月ってのがどうしても気になるんだよねぇ」
「今までは毎日ログインしてたもんね、レオくん……」
「レオっちに彼女が居るか直接聞いてみても良いんだけど、
「う、うん……」
可憐も真白もこれだけは確実に言えることがある。それは、『
「もういっそのことバラしてみたら? 『モカ』こと真白は、現実世界でアイドルをしている真白なんです! って。アイドルって聞いたら流石のレオっちでも目の色が変わるでしょ」
「そ、そんなこと言えるはずないよっ! ……そ、それにレオくんにそんなこと言っても、『おお、頑張ってな』で終わるはずだもん」
「なんでだろう……全く否定が出来ない。あぁ……転入生の蓮もそんなこと言ってたっけ」
可憐がその一言を言い終えた瞬間だった。
『キーンコーン』
と、朝礼の予鈴が鳴る。
「やばっ、もうこんな時間じゃん! そろそろ教室に戻るね!」
「う、うんっ! 昼休みにまた会おうね」
「もちろん!」
「あっ、走ってコケちゃダメだよ?」
「うちそんなドジじゃないしっ! って、その言葉を掛けられたの二度目なんだけど!」
なんて言葉を言い残した可憐は急いだように教室を後にする。可憐が去ってしばしの間、真白の教室には笑い声が栄えていた。
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