TRANGATE

meru.

第1話

2年生の夏。

 部活終わりに、中庭でクラスメイトの男の子を見つけた。

 普段ならスルーするのに今回はなぜか気になって仕方がない。人見知りで語彙力もなかったから、自分が知っている言葉を必死に探した。


 私が見つけた男の子は木にとまっている小鳥をカメラで撮っている。いつも教室で騒いでいる雰囲気とは全然違う。そんな姿に思わずドキッて、しただけだ。それ以上のものなんてない。きっと。


「あれ、泉さん?」


 クラスは同じだけど話したことはなかった。それなのに私の名前知ってるんだって関心。残念ながら私は男の子の名前を知らない。クラス同じなのに。


「あ、ごめん…邪魔したよね」

「全然。よかったら座る?」


 思ったよりも優しい人だな。

 私はお言葉に甘えてベンチに座る。男の子はまた小鳥写真を撮り始めた。小鳥は飛び立つ様子もなく、撮ってと言わんばかりな態度だ。


「写真撮るの好きなの?」

「好きっていうか父親の影響かな。小さい時から身近にカメラがあって、物心ついた時にはカメラ触ってたから」


 集中してるところを邪魔するのは悪いと思ったけど、ただ座ってるだけも辛くて声をかけてしまう。注意されるのを覚悟で話しかけたのに、写真撮りながら質問に答えてくれてキョトンとした。

 教室で見る姿とあまりにも違いすぎる。どっちが素なの?まず同じ人物?この男の子がわからなくなってきた。もともと何も知らないんだけど。


「泉さんは好きなことないの?」

「……特にないかな」


 わざわざ話を振ってくれたのに、これといったものがなくて申し訳ない。でも好きなことや趣味というものがないのが事実。そもそも1つのことをずっと続けることが出来くて、すぐに飽きてしまう。


「バスケ部なんだからバスケ好きなんじゃないの?」


 なんで所属している部までしってるんだろう。凄いを通り越して怖くなってきた。

 そんなことを考えてるうちに、男の子は写真を撮り終えて横に座ってる。木にとまっていた小鳥の姿ももうない。ここのベンチはあまり長くない。そのため…男の子との距離が近い。


「ち、近くない?」

「そうだね。でもベンチ1つしかないからごめんね」

「いや別に謝らなくても」

「そうだ、自己紹介するね。水瀬陽翔。太陽の陽に櫻井翔の翔で『はると』。見ての通り写真を撮ることが趣味です。よろしくね泉ありさちゃん。それでさ、」


 勝手に自己紹介が始まって、男の子の名前と趣味を知ることができた。私とは正反対でフレンドリーだな。

 そしてもう凄いなんて思わず、ただただ怖い。下の名前まで把握されてるの?私。だって話したことないよ。1年生のときはクラスは違ったし。クラスメイト以外の共通点なんてないし。今日まで関わってことなんてなかったのに。


「あれ、聞いてる?泉さん?いい?」

「ごめん、ちょっと考え事してた。いいよ?」

「やったありがとう!じゃあ毎週金曜日の部活終わりに中庭集合ね?それじゃバイバイ」


 話なんて聞いてなくて、なんとなくで返事しちゃった。いつの間にか毎週会う約束できてるし。自分が話を聞いていなかったから自業自得なんだけど、正直言ってめんどくさい……人と話すような性格じゃないし。1人が楽だから。


 私の週末はこれからどうなっちゃうの……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る