ねえ、和。
いろどり
第1話 寝言
(…和、…和……)
微睡みの向こうで、俺を呼ぶ声がする。
「…悠、生…?」
薄く目を開け、隣に眠る彼の顔を見ると、
「…か、ず」
ん、と寝返りを打つ。目は閉じられたままだった。
(…寝言、かよ)
…可愛すぎるわ。思わず口元が緩んだ。
「…悠生」
もう一度優しく呼び掛けると、
「…ふふ、」
声に応えるように微笑む。
そっと手を伸ばし、彼の髪を撫でる。いつもはされる側だけど、今だけの特権。
(ほんっと、さらさらだよなあ…)
撫で続けていると、んん、と彼が擽ったそうに軽く身を捩った。眉間に小さな皺が寄る。そんな姿まで、どうしようもない程愛しい。
「……、」
身じろぎをした拍子に、彼の左肩が目の前に露になった。
痛々しい痣。
…俺が、つけた傷。
さっきまでの愛しい気持ちが、一瞬で雲に覆われる。
今までは、意図的に見ないようにしていた。初めて目の当たりにしたその傷は、薄暗いのもあるが想像していたよりは目立たなかった。
そっと、その肩に触れようと手を伸ばしかけ、…止めた。
改めて、罪悪感に襲われる。
こいつの肩をこんなにした俺が、愛を注がれ、それを何にも邪魔されることなく享受しているなんて。
そんな、…そんなの、許されていいのか。
気づけば、伸ばしていたはずの手を強く握っていた。
「…っ、」
そのまま俯き、拳をベットに軽く叩きつける。
「…ん、…ん…?」
悠生が薄く目を開けていた。
まずい、起こしちゃったか。
慌てて背を向け、布団に潜り込む。
「………」
しばらくおとなしくしていると、背後は静かになった。ほっと息をついて、そっと布団から顔を出した途端、
「うわ!」
ガバッ、と抱きつかれた。突然すぎて固まっていると、尚もきつく抱き締めてくる。
「ちょ、苦し、」
悠生の胸を軽く叩くと、少し力が緩んだが身動きがとれないことに変わりはない。
「…んー、かず…?ふふ…」
…まさか、寝惚けてんのかこいつ。
「勘弁してくれよ…」
思わず呟く。また、口元が緩んでしまった。
同時に、この幸せを手放すことなど、もうできないと思った。やっぱ俺、こいつなしじゃ生きてけないわ。
そっと、背中に腕を回す。軽く抱き締め返すと、
「…んー、…好き…」
…もう、そういうの反則。
「…俺も、…好きだよ、悠生」
「…んふふ」
抱き締め合いながら、ゆっくりと眠りに落ちていった。
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