第17話 「成長は大事」

 押しの強い女性達との会合からこれまた数日。

 俺はあの日のストレスを発散させるかのようにモンスターを狩って狩って狩りまくった。

 ロングソードも壊して壊して壊しまくったよ。これまでよりも消費量が増えたからムラマサの人懐っこい笑顔に怒気入ってたけどね。

 それでもちゃんと売ってくれるあたり、あやつは良き俺の理解者よ。

 その甲斐もあって現在のレベルは18。

 愛剣となった始剣【黒耀】のおかげでブレイカーせずとも敵を楽に倒せることが多くなり、金銭面も潤ったので装備を一新した。

 その代表格が今装備している《ウイングコート・ワイバーンプロト》だ。

 これはワイバーンベビィからドロップする素材で作れる防具で防御力以外にも敏捷性に補正が掛かる。

 まあ素材としているのは翼竜の幼体ということもあり、補正としては微々たるものだが。しかし、これまで使っていたそのへんの店で買った安物のコートより格段に性能は高い。

 本音を言えば、次の街に移動してからでもいいかと考えたが……。

 実と言うと、俺はソロでワイバーンベビィ狩りしてたら途中で増援のワイバーンベビィが来て一度死んでしまった。

 基本的に単体でしか出ないし、始剣【黒耀】もあるから大丈夫だろうと慢心していたのだ。増援が来たのは、近くで他のプレイヤーが戦っていて死んでしまい、それが流れてきたのかと推測している。

 まあ何にせよ、死んでしまったことには変わりはない。

 祝福していた愛剣はドロップしなかったが、デスペナルティでいくつかのアイテムが手元から消失し、ゴールドも減ってしまった。

 あのとき防御力がもう少しあれば生き残れた可能性が高かっただけに防具を新調しようと決断したのだ。

 愛剣の強化に竜の素材が結構必要だから今のコートを作るかそれなりに迷ったがな。


「……まあ後悔はない」


 おかげで作ってからは安定して狩りを行えた。

 それだけに気分が乗ってポンポンとブレイカーする回数も増えたので、ムラマサの笑顔はおこから激おこに変わったがな。もう少しはっちゃけていたら激おこぷんぷん丸だったに違いない。

 ただ別に気分が乗ったってだけ理由じゃないぞ

 。俺は《長剣》以外にも《破撃》を取っているのだ。そのスキル上げのためにブレイカーするときはブレイカーしなければならない。

 ブレイカーブレイカー言い過ぎて説明すら壊している気がするが、そこはニュアンスで感じ取ってくれ。

 誰かも言っていただろ? 考えるな、感じろ……って。


「しかし……」


 少し散財してしまった気がしないでもない。

 コート以外にもあれこれと買ってしまっているし。まずはアイテム欄の上部10枠のアイテムを取り出すことが出来る《クイックポシェット》。

 これはレベル制限のない初心者用アイテムとして知られているものであるが、アイテム使用にかかるアクションが減少するのは大きな優位点だ。それ故に使い続けるプレイヤーは多いと聞く。

 俺もソロプレイがここ最近は多かったから買ってしまったのさ。……はいそこ、ぼっちだとか思わない。

 あいつらにはあいつらの都合があるんです。

 我が侭ばかり言ったらみんなから嫌われるでしょ。言わな過ぎるのもそれはそれは問題だけどな。

 続いて武器の取り出しが簡易になる《ウェポンキャリアー》。

 これは始剣【黒耀】用として買った。俺は合計で7本の剣を装備しているが《長剣》用1本、《破撃》用6本ってスタイルに今は落ち着いてるからね。俺は剣の抜き替えとか人よりも多いし、用意しといて損はないでしょ。

 その他にも部位防御力に補正がかかるポイントアーマーとか、悪路の走破性に優れたブーツとかも買おうかなって思ったんだけど……一度に使い過ぎるのも良くないからそれはまたの機会にした。

 鎧とかは買わないのか、と聞いてくる人間が居たとするなら俺はこう答えるよ。

 7本の剣も装備していたとしても俺は分類上は軽戦士。可能な限り重い装備は付けたくない、と。


「やあ我が盟友よ、こちらの世界では久しぶりだね……零次くん、その装備どうしたの!? うわぁ、はっきりとは見えないけど背中に翼竜の紋章があるよね。むむ? 背中の鞘が変わってるね。これは……そっか、武器の取り出しが簡単になるウェポンキャリアーにしたんだ。うん、良いよ、凄い良い。堕天に出てくる剣帝っぽくて非常にすんばらしいよ!」


 あぁうん、ありがとう。

 何かしら言われるとは思っていたが、予想の斜め上だった。

 素が出るだけでなく精神年齢が下がっている感じだし。そういう意味では斜め下かもしれない。

 ただ何ていうか、俺の気のせいかもしれないけど。若干この子さ……撫子化してない?

 まあこの子もオタクと言えばオタクなんだけど……早口でまくし立てるところとかテンションの上がった時の撫子さんにそっくり。

 中二病成分が抜けてもこれだとお兄さん困りますよ。

 この子の親御さんに何て説明すればいいのさ。まあその役目もあの女に押し付ければ良い気もするが。


「とりあえず落ち着け。剣帝が纏ってるのは白のコートだよね。俺は黒だからあまり重ねて見ないの。俺が剣帝とか剣帝に悪いでしょ?」


 あの剣帝様と比べたらまだまだ月とスッポンくらいの差があるわけだしさ。

 それに俺はあんなカッコ良い人間にはなれません。なろうと思っても時間が掛かります。あの人正義だけど悪だし、悪だけど正義なんだもん。

 意味が分からんだと?

 俺だってどう表現すればいいか分からん。それでもあえて言い換えるなら……英雄でもあり、ダークヒーローな面もあるってことさ。


「そんなことない! 零次くんならいつか剣帝にだってなれるよ。私が保証する!」


 その自信はどこから来るんだ?

 俺はヒーローでも何でもないんだが。それどころか、変なメンツが傍に居る以外は普通の高校生です。

 体育だって中の下から中の上までの成績した取れないし、学業だって得意教科は点数取れるけど苦手な英語は赤点ギリギリだったりするときもあるしね。

 いや~本当中学の時にちゃんと英語は勉強しとくんだった。何となく読めはするけど、書けないもん。だって文法が苦手だから。

 みんな、英語は学生の内はちゃんと勉強しておくべきだぞ。


「――はっ……あぁ保証するとも。ナグモくん、君は私の盟友であり私の剣帝だからね」

「ルシアさん、別に素のままでいいのよ?」

「…………」

「こらこら、人と話す時は目を見て話しなさい。あと私の剣帝って言葉は告白ですか?」

「~~~~~っ、それは言葉の綾だよ! 人の触れて欲しくないところばかり指摘しないでくれないかな。今日の君は一段と意地悪だぞ!」


 だって久しぶりに会ったんだもん。

 ここ最近……お前よりも相手にするのが面倒な奴が多かったからさ。何かその反動か今はお前の相手してても和む俺が居るんだ。今なら頭だって撫でられるよ。


「何で私の頭撫でてるの!?」

「うーん……俺の心がお前の言動を受け入れられるくらい逞しくなったからかな?」

「聞きたいのはこっちなんだから質問しないでくれるかな! こここういうのはこ、恋人とかになってからやることだよ!」


 まあ確かに。

 人によってはというか、関係性によっては付き合う前からでもやるだろうけど、一般的にはそうだな。まさか中二病から常識を言われる日が来るとは思わなかったぜ。

 それ以上に……お前って意外と純情なのな。

 あれこれ読んでるから割と耐性あると思ってたよ。いや、むしろあれこれ読んでいるから純情なのだろうか。なかなかに難問だ……。


「それにしても……そっちも大分見た目変わったな」


 ザ・召喚士って言わんばかりにローブやら纏ってるし。長年使っているかのようにダメージ加工してあるあたりが中二病チックだなとも思う。他にも現実でもトレードマークになっている眼帯まで装備してるしさ。あれこれ買いましたね。

 それとこれは声には出さないけど……眼帯したら距離感掴めなかったりして不便じゃない?

 大した防御力もないだろうし、正直もうオシャレアイテムだよね。いやまあオシャレも大事だけどさ、オシャレで視界を遮るのはどうなの? 凄く今更だとは思うけどさ。心の中でくらい言わせて。


「当然さ! ここ最近は色んなパーティーに引っ張りだこだったからね。《黒竜使い》とか《黒竜姫》なんて呼ぶ人もいるくらいさ!」

「ふーん」

「ねぇナグモくん……君がどんな人かは分かっているつもりだよ。つもりだけどさ、もう少し興味を持ってくれてもいいんじゃないかな?」


 いやだって……現役中二病に中二病みたいなあだ名が付いたところで大して何も思わないし。

 それにゲームの中って有名なプレイヤーとかレアアイテム持ってるプレイヤーにそういうのが付くもんじゃないですか。なので至ってまともな反応をしていると思うよ。


「じゃあ……何で今日俺に一緒にやろうって声掛けたの? 他のパーティーからお誘いあったんじゃない?」

「そういう興味の持たれ方しても嬉しくない! 君だって見ず知らずの相手と一緒に遊ぶことが、どれほどストレスがある行為か分かるだろう。ふとしたことで揉められたら精神がどんどん削られるんだぞ。私頑張ったんだから!」


 うん、ごめん今のは俺が悪かった。

 話すだけで素に戻るくらい大変な思いもしたのね。これ以上は何も言わないから機嫌直して。ルシアちゃん良い子だから。


「経緯は理解した。ただ俺以外に声は掛けてないのか? アリスはまあ別行動してたから分かるが、アイゼンは一緒に行動してただろ?」

「声は掛けているよ。アリスくんはアイテムの買出し、アイゼンさんは装備のメンテをしてくるそうだよ」

「なるほどな……ところで何でアイゼンだけさん付け?」

「それはほら……見た目的に年上だからね。それにあっちじゃアレなわけだし」


 アレなんて言い方してやるなよ。ゲーム内と現実で性別が違うだけじゃないか。アレなんて言い方したら変な奴みたいだろ。

 ……いや、あいつは変な奴か。

 良く言えば欲望に忠実な生き方してるわけだけど……これって良く言ってるのだろうか? あの手の人間には良い言葉なのかね。


「まあ……お前が少しずつ交流の輪を広げているようで俺は安心したよ」

「君には世話になってる自覚はあるけど……何で年上目線? 毎年のように同じクラスになってることから同い年なのは確定事項だよね?」

「事実なんて関係ない。俺の気分の問題だ」


 何やら下の方から温度の低いじと~とした視線を感じるが気にしない。

 あの黒きオーラを醸し出す女帝の相手をして更なる成長を遂げた俺には、その程度の攻撃なぞまるでそよ風だ。怯ませたければ別の手段でも取るんだな!

 あっでも、黒竜を召喚してドーン! とかはやめてね。

 あいつの攻撃力は洒落にならないから。安全圏内ならダメージは入らないけど、絶対凄まじい勢いで吹っ飛ばされて転がる羽目になるから。それだけはマジで勘弁してください。


「あいつらがいつまで掛かるか分からんし、どうせどこかで落ち合うことになるだろうから俺達もぶらつくか?」

「うん……でも君に迷惑を掛けるかも」

「視線程度なら気にせん」


 だって7本も剣を装備してるんだよ。

 これまで言葉にはしてなかったけど、多少なりとも他人の視線は受けてます。なので問題ありませんとも。


「お前を勧誘してくるプレイヤーが居たら……お前の判断に任せる」

「……そこからカッコ良くなくてもいいから今日は俺と組むことになってるからって言って欲しいんだけど」

「いやいや、こういうのは本人の意思が大切だから。相手からしても本人から断られる方が諦めもつくだろうし」

「そういうところさえ変われば、恋人のひとりやふたり出来そうなのにね……」

「自分を偽ってまで誰かと付き合おうとは思わん。後々我慢の限界が来て揉めるだけだから」

「まあ一理あるけど……彼女の居たことがない君が堂々と言うのもどうなんだろうね」



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