第15話 「買い物さえも一苦労?」
さてさて、今日は外に出ております。
何でかって?
高校生なんだからゲーム以外にもやることはありますよ。
僕はゲームばかりやってる人間じゃないんですから。まあ今日発売のラノベを買いに向かってるだけだが。
向かっているのは家から徒歩10分ほどの本屋、その名も《相沢書店》。
名前のイメージからして小さな店だと思われる方も多いだろうが……正にそのとおり!
1階がお店で2階が住居になってる個人経営のお店です。
家からの距離で考えれば、同じくらいの距離に大型の二次元専門店もあるんだけど。やっぱり昔から通ってるお店だし、今更大型店に乗り換えるのは何か罪悪感がね……。
ごめんなさい嘘です。
一応それもなくはないけど、あっても微々たるもの。ラノベとか以外を買うなら迷わずそっちに行っちゃいます。
でも本だけなら相沢なの。
だって客が少ないから。よほどのことがない限り人混みとかできないから。
俺、あんまり人の多いところに行きたくないの。どうしても成し遂げねばならない目的があれば嬉々として行くだろうけどね。
「しかし……」
今日はそれ以外にも理由がある。
それは……京華に少女漫画買ってきたと頼まれたのさ。
別に俺は少女漫画も読むし、買うのに抵抗ないけども……知り合いに買うところ見られたら面倒なことになったりするじゃん。撫子とか撫子とか撫子とか絶対に絡んできそうだし。
あと京華とは誰ぞ?
となっているかもしれない人のために補足しておこう。
京華とは我が家に居候している従妹である。従妹ではあるが、家庭内ヒエラルキーは俺よりも高いかもしれない。
だって京華さん、入りたい高校があるからということで親元を離れてうちに住んでるのよ。
今日も最後の大会が近いからってことで午前中から部活動を頑張ってるの。ちなみにソフトボール部だよ。
故に万年帰宅部の俺と京華、どっちを応援したくなるって聞かれたら間違いなく京華でしょ。俺だってそうだもの。
だから京華に何か頼まれたら大体引き受けてるわけだし。お金もちゃんと渡すからねあの子。先払いならともかく奢ってとか言ってきたら激おこだけど。お菓子くらいなら買ってやるが。
「……というわけで」
到着しました相沢書店。
地味に色あせてる看板が時の経過を感じさせますね。
いやはや、俺もあの頃は若かった。今も高校生だから世間一般で言えば若いけど。
でも小学生くらいからしたらさ、下手すればおっさん扱いだよね。
なんて悲しくなりそうなことは考えずに中に入ることにしよう。考えたところで誰も得しない。むしろ考えた分だけ俺が悲しくなる。俺以上に悲しくなる人も居るかもしれないけど。
なので中に入りましょう。店の前で停止してると変な人に思われるしね。待ち合わせするような場所でもないし。
「いらっしゃいませ……ありゃ? 誰かと思えば零くんじゃない。笑顔振り撒いて損した」
この失礼な人は
この店の一人娘にして看板娘、そして現役女子大生である。
セミロングで巨乳なお姉さんであり、客や大学ではファンが居るとか居ないとか。まあ見た目が良いので居る可能性が高いでしょう。
この人は基本的に明るく気さくな美人なのだが、俺のように昔から付き合いのある人間には毒を吐くというか黒い部分を見せる人である。
何でこんなことが言えるかというと、従妹の京華には今みたいな発言はしないから。そんなんだから彼氏が出来ないんだ。
「うん? ねぇ零くん、何か言いたいのなら言っていいんだよ? 私と君の仲じゃない」
その勘の鋭さはどこから来るんですかね。
あとその漫画とかなら影が入ってそうなイイ笑顔やめてもらっていいですか。俺、別に蔑まれて喜ぶ性癖とかないんで。
「どういう仲ですか……昔から店員と客って関係だと思うんですけど」
「ひっどーい。小さな君の面倒を何度も見たことあるのに。おむつだって変えてあげたのに」
いやいや、俺がおむつしてる頃ってあなたも幼稚園くらいだよね。
あなたにおむつ変えてもらった記憶とか俺にはないよ。物心つくの早かったから2歳くらいからの記憶あるし。
鮮明かと聞かれたら漠然だよって答えるけどな。濃い連中と付き合ってると昔のことなんて印象薄れていくし。
「勝手に人の過去を改ざんしないでもらえます? 面倒は何度か見てもらいましたけど。というか、俺と話してないで仕事に戻ってください」
「何言ってるの? 仕事ならしてるじゃない。今居るお客なんて君くらいだし」
笑顔で言うことじゃありません。
お店が潰れたらどうするつもりなんですか。大学だってあと何年か通わないといけないでしょ。もう少し危機感持って。
……でもこの店、なんだかんだで潰れないんだよな。俺が知らないだけで客足の多い時間帯があるのかもしれない。
「だからといって必要以上に話しかけないでもらえます? 買うもの買ったらすぐに帰るんで」
「ダーメ。しばらく私の相手をしてくれないと帰してあげません」
あなたにそんな権限はないんですけど。
晴乃さん、ただ店番が暇だから話し相手が欲しいだけだな。小父さん達は外に出ているか奥で何かしら作業でもしているのだろう。でも俺には俺の都合があるわけで、いつまでもここに居たくはない。
だって……さっさと帰って自室で買ったラノベを読みたいんだもの。仮想空間にダイブしたいんだもの。
「こらこら、こんな美人のお姉さんを無視して本を見に行くとは失礼だぞ」
「本屋に来ているのに本を見ない方がおかしいと思うんですが?」
本屋で本を見る以外に何を見ろと言うんでしょうね。
「私」
「……はい?」
「だからわ・た・し♪」
「……何でそういう言葉が出るんですか?」
「君が本以外に何を見ればいいかって聞きたそうにしてたから」
この人怖いんだけど!
何でもかんでも人の心読み過ぎじゃないですかね。何でひとつ屋根の下で暮らしてる家族よりも俺の考え読めるの?
多分だけど俺って普通の人よりも感情が表に出てないよ。考えとか読みにくいって言われちゃうタイプだよ。
「それより……ねぇ零くん、このあと時間ある?」
うん、何でそこで抱き着いてくるんですかね。背中に柔らかくて弾力のあるものが当たってるんですが。
「当ててるの」
「だから人の心読まないで。あとこういうことは彼氏とかにしてください」
年頃の男子高校生を弄ぶのはやめて。
男なんてすぐ勘違いする生き物なんだから。俺はしないけどね。だってこの人がどういう人間かそれなりに知ってるから。
「彼氏がいないから君にしてるの」
「答えになってないんですが」
「じゃあ君が私の彼氏になろう!」
何がじゃあなの?
彼氏彼女ってそんな軽く作るものじゃないよね。試しに付き合うってことはあるだろうけど、それでもどちらかは良いなとか好きって思ってるよね。こんな互いにそういう感情のない状態で付き合うとかおかしいにもほどがあるでしょ。
「そろそろ放してもらっていいますか? 晴乃さんの背丈に合わせるのきついんで」
「その言い方だと私がチビみたいじゃない。これでも170センチ近くはあるのに。君が180センチ近くあるのが悪い」
「勝手に伸びたものを悪いと言われても……」
「でも私くらいの女性からすると理想的かな。高めのヒールを履けるし、キスする時に背伸びっていう憧れのシチュエーションが実現できるしね」
「誰もそんな話はしてないから」
お願いだから人の話を聞いて。
あなた俺よりもお姉さんでしょ。すでに成人してる大人でしょ。大人なら子供の見本になるように努力しようよ。
「やれやれ……昔は私が抱き着くと顔を真っ赤にしてたのに。あの可愛かった零くんはどこに行ったのやら」
「あなたのせいで今の俺があると思うんですがね」
「それって……俺には晴乃が必要なんだ――ってこと? きゃ~~~っ!」
キリっとしたかと思えば、頬を染めながらクネクネしないで。
それ以上にその超解釈やめて。そんなこと一言も言ってないし、思ってもないから。
「……あっちに行くべきだったか」
「うん? 今何か言ったかな? お姉さんよく聞こえなかったぞ」
「いや何でもないです」
俺……いつになったら帰れるんだろう。
ラノベとかゲームがどうのって言わないから早めに帰りたい。神様、居るとか思ってないけど今だけは祈ります。どうか早めに解放されますように……。
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