第33話 留置所からの脱出
ガチャン!
貴族派のクソ共を皆殺しにしてから5分後、入り口の扉が開いて義兄さんが飛び込んで来た。
「レイ、無事か? うっ! 何だ、この血の臭いは……」
どうやらお出迎えが来たらしい。
振り向けば、義兄さんが留置所に漂う血の匂いに顔をしかめていた。
その義兄さんの後からジンとカタリーナが現れ、同じように血の匂いを嗅いで顔をしかめる。
「慌てなくても生きてるぜ。まあ、チョットだけネグレクトって奴が拗れて鬱な気分がハッピーになってラリッたけど、気分が良いから一発殴らせろ」
三人に声を掛けて立ち上がる。
「これは……一体何が起こったの?」
カタリーナが床の死体を見ながら眉をひそめる。
「ちょっとした乱交パーティーだ。そこに転がっているデブとか……貴族派のアホが一堂に会して何でもありのランチキ騒ぎで煩かったんでね。少しお仕置きしたら死体になってこのザマだ」
そう答えながら牢屋から出ると、俺の姿を見た三人がギョッとして固まっていた。
「レイ……その格好はどうした?」
「ああ、これ?」
義兄さんに問われて改めて自分の姿を見れば、デブから浴びた脂肪分多めのギトギトな血が全身を血まみれにしていた。
気分はスプラッター映画の殺人鬼。ムカつくクソ野郎をぶっ殺す事が、こんなに気持ちが良いとは思わなかった。
「少しキツメのお仕置きだったからな。お礼にぶっ掛けサービスを喰らっただけだ」
「……全部、お前が殺ったのか?」
「そうだと言ったら?」
逆に質問すると、義兄さんが首を左右に振った。
「……俺がレイの立場でも同じことをやっただろう。そう考えたら何も言えないな」
恐らく義兄さんは言葉と本音は違うのだろう。悲壮な表情を一瞬だけ浮かべていた。
「異邦の11人の実力は噂で知っていたけど、やはり君も『ニルヴァーナ』だったのね。ここまで強いとは……思わなかったわ」
「自慢じゃないが不意打ちなら誰にも負けねえぜ」
「それは自慢にならねえよ」
カタリーナに答えたら、義兄さんから突っ込まれる。
「まあいい。チョット待っててくれ」
コンソールを開いて服を全部鞄に入れると、パンツ一枚になる。
「カタリーナ、俺のヌードで股を濡らすなよ」
「いいから早く何か着なさい!」
冗談を言ったらカタリーナに怒られた。だけど、口とは裏腹に彼女の目は俺の裸をガン見していた。痴女二号ここに誕生。
コンソールからサハギンレーザーを選択して瞬時に着替えると、服に付いていた血の跡が消える。
「何だ、そんなことできたのか?」
「ああ、1000ガバスの裏技だ」
「ガバスか……まだあったのか」
義兄さんに答えると、彼は懐かしい通貨を思い出して苦笑いしていた。
着替えが終わると、後ろに居たジンが俺に近づいて紙を俺に渡した。
『怖かった』
「何が?」
そう答えると、また紙に何かを書いて俺に見せる。
『レイが居なくなるのが怖い』
「それって俺の心配じゃなくて自分の心配だよな。少しは俺の心配をしろよ」
そう答えるとジンが首を横に振る。どうやら違うらしい。
「まあ、お前の同性愛が酷すぎてケツにナニかを入れてないと落ち着かないのは知ってるから、もういいよ。それよりもショットガンは持ってきたか?」
ジンが微妙な顔をしながら背中のショットガンを俺に渡す。
受け取ったショットガンの先には魔石で明かりがつくライトが付いていた。
「ルイーダが銃剣を作ったとか言ってたから、てっきりそれを買うと思ってたけどライトにしたのか」
『それも貰った』
「買ったんじゃなくて貰ったのか。お前、詐欺が得意な良い商人になれるぜ。ただし喋れないからといって、ケツで支払うのだけは止めとけよ」
『『ヨツシー』の皆がくれた』
俺とジンの会話に義兄さんが割り込む。
「ローラの話だと、あの店の連中は本当に悪いと思っているらしいぞ。ジンの装備も殆ど原価に近い値段で売ってくれるらしい。それと、桃とルイーダがレイに謝りたいらしいから、店に来てくれだそうだ」
「クソ女がやっと自分のしでかした事を理解したのか。今度、嫌がらせに行ってやろう」
そう答えたら、義兄さんが苦笑いをしていた。
「まあいい、ショットガンはジンが持ってろ」
ショットガンを投げ返すと、受け取ったジンが首を傾げた。
「お前は接近よりも遠距離の方が向いている。もう一つが出来上がるまでは、それを貸してやるよ」
ジンが頷きショットガンを背中に背負った。
「そろそろここから出ましょう。血の匂いが体にこびりつきそうよ」
カタリーナが死体を見て嫌な顔をしながら全員に話し掛ける。
「そうだな。レイも無事だったし急いで戻ろう」
義兄さんに俺とジンも頷く。
「ところで、ここに来たのは三人だけなのか?」
「ああ、今ギルドハウスの前で貴族派の私兵と国王派の私兵がにらみ合って、皆はハウスの防衛についている」
「はぁ?」
義兄さんの話に状況が分からずポカンと口を開く。
「説明は移動しながらする。急いで戻るぞ」
それ以上の説明をするつもりはないのか、義兄さんが留置所から外に出た。
「ここの死体は?」
「後で下水道に捨てるわ。街の外に出た事にすればモンスターにやられて行方不明。それでお終い」
俺の質問にカタリーナが素っ気なく答える。
「こんなデケエ
クラ〇アン出番だぜ!
「貴族派がよくやるネタを真似するだけよ」
そう答えると、彼女も扉の先へと消えた。
「ジン、俺達も行くぞ」
頷くジンが俺のマントを掴む。
「それ、いい加減に卒業しろよ」
そう呟いてもジンが首を横に振るから諦めて、俺とジンも留置所から外に出た。
留置所から出て衛兵の詰め所に入ると、床に数人の男が倒れていた。
「風邪ひくぞ」
「大丈夫よ。こいつら馬鹿だから」
「ああ、馬鹿だからここで寝てるのか」
カタリーナの返答に納得すると、寝ている男達を避けながら外に出でてポータルゲートまで走り出す。
「で、あれも貴族派だったのか?」
「そうよ。カートさんが一人で倒したわ。さすが『ニルヴァーナ』のリーダーね。彼が結婚してなかったら求婚していたわ」
イケメンのクソが死んで豚に生まれ変われ、そしてトン汁になれ!
「あれ? カタリーナお嬢様はアサシンに惚れてなかったか」
「彼氏にするならアサシン、結婚するならカートさんって事よ」
俺の質問にしれっとカタリーナが答える。
そんな彼女に向かって笑顔でサムズアップ!
「ナイスビッチ!」
「ぶっ飛ばすわよ!」
俺の冗談にカタリーナが睨み走りながら俺の肩を軽く叩いた。
「ふざけてないで急げ!」
前を走る義兄さんに怒られて、俺とカタリーナはお互いの顔を見ながら軽く肩を竦めると彼の後を追った。
ポータルに向かう途中、カタリーナから俺が留置場に居た間の出来事について簡単に説明を受けた。
ジン? 走りながら紙に何か書けとでも?
義兄さん? ゲーム開始当初のチュートリアルを忘れたか? 彼の説明は「今のニルヴァーナに金はない」の一言で終わった。
俺は時々義兄さんの事を馬鹿とかアホとかの次元の問題ではなく、多細胞生物としての価値がないんじゃないかと疑っている。
それで仕方がなくカタリーナから聞いた話だと、俺が連れ去られた後でローラさんが急いで『ヨツシー』の店に向かったら、桃とルイーダが正座させられマリアからの説教を受けてる横でジンが困った様子で立ち尽くしていたらしい。
ローラさんはマリアから俺の行為とその原因について説明を聞くと、ジンの装備の値段を安くするのと引き換えに『ニルヴァーナ』は今回の事件を水に流す事にした。痴女なのに商売上手な女だと思う。
ルイーダからはジンのナイフと、ショットガンに取りつけられるナイフ型の銃剣とサーチライトを無料で提供。
桃はジンの装備の品質を上げる最大限の努力をすることを約束して、マリアも同じく最高のエンチャントを付けることを約束した。
交渉が終わるとローラさんはジンを連れてギルドハウスに戻ろうとしたが、その途中でイヴァンのおっさんがジンを見つけて声を掛けてきた。
彼は俺が置いていったジンの事が心配だったらしく、『ヨツシー』の店に向かって保護しようとしたらしい。
その話を聞いて、イヴァンのおっさんをジンの保護者候補としてリストアップした。32歳で独身のおっさんだけど……。
ローラさんは衛兵のイヴァンのおっさんがジンを捕まえるのと勘違いして、声を掛けただけの彼に向かって、痴女の癖にセクハラと叫んで追い返そうとしたらしい。
確かにジンは脱獄したばかりだし、ローラさんがジンを匿うためにおっさんを追い払おうとしたのは間違っていない。
だけど、その撃退法法が女の武器を使った社会的地位を潰す卑怯なやり方が酷いと思う。留置所でおっさんがセクハラと勘違いされて落ち込んでいた理由が分かった。
イヴァンのおっさんが何とかローラさんに誤解を解いて、俺の状況を説明したらしい。
それを聞いたローラさんは、俺を助けに衛兵の詰め所へ向かおうとして、それをイヴァンのおっさんが止めて言い争っていたら、『ニルヴァーナ』のギルドハウスに向かう途中だったカタリーナが彼等を見つけた。
そこでカタリーナはイヴァンのおっさんに俺への食事を持って行くように命じて、ローラさんには詳しい事情を話すという事で一緒にギルドハウスへと向った。
ギルドハウスに向かうと、既にローラさんからチャットで連絡を受けた不在のシャムロックさん以外の全員が集まっていて、カタリーナがブリトン国の事情と貴族派が俺をアサシンに仕立てようとしている計画がある事を説明する。
それを聞いた義兄さんを代表とする脳筋チームの全員が救出に向かおうと立ち上がったところを、姉さん、チンチラ、シリウスさんが制止した。
ちなみに、カタリーナはチンチラが『プチキャット・フロム・ヘル』だと知った途端、口をあんぐりと開けて信じられない様子で彼女をガン見したらしい。
三人が脳筋達を止めた理由は、俺が留置場で思いついたのと同じように、三人も貴族派の狙いが『ニルヴァーナ』の財産だという事に気が付いたから。
三人の説明を聞いて驚く脳筋連中とカタリーナに対して、姉さんとチンチラが作戦を立てた。
姉さんの作戦を簡単に言えば、「お金を奪おうとするなら、そのお金を全部失くせば奪われない」という実にシンプルな作戦だった。
方法は実に単純で、ローラさんが冒険者ギルドに行って全財産を引き下ろして、ほとぼりが冷めるまでログアウトしただけ。
ちなみに『ニルヴァーナ』の担当だった冒険者ギルドのクロミは、ローラさんから全額引き下ろすと聞いた時「ウニャーン!」とショックで気絶したらしい。
次にシリウスさんをブリトンの『ローズ商会』の支部へ向かわせて、『ニルヴァーナ』が持つ株の権利を一時期に『ローズ商会』に貸しだすことにした。
姉さん曰く、『ローズ商会』の本社はアース国にあるから、もし貴族派が『ローズ商会』の資金を奪おうとした場合、アース国が黙っていないと踏んだ作戦だった。
相変わらず我が姉は事件を大きく膨らませる事に関しては天才だと思う。
ところがシリウスさんが『ローズ商会』に行くと、偶然そこにアビゲイルが居たことで計画が崩れる。
シリウスさんがアビゲイルに状況を説明すると、彼女はその場で「今からローズ商会は国王派につく!」と大声で宣言した。
『ローズ商会』の運営管理をしているチョイ悪おやじは、アース国に居るからアビゲイルの宣言を聞いてないけど、もしその場に居たら発狂したと思う。
ちなみに、アビゲイルが宣言した場所が海運業者の溜まる酒場だったので、それを聞いた全員が一斉に国王派に付いた。
アビゲイルの宣言後、彼女はシリウスさんを連れて冒険者ギルドに行き、もし貴族派が『ローズ商会』の株と財産を差し押さえた場合は、ブリトンから出港する船の護衛は一切せず、アース国としてもそれなりの対応を取るぞと、対応したクロミを脅した。それでクロミが「ウニャニャーン!」と再び気絶したらしい。
以上の行動の結果、『ニルヴァーナ』の財産はコトカで手に入れた使う予定のないアイテムだけになった。
ちなみに、このギルドハウスの権利はまだブックスさんだから、財産には入らない。
これで貴族派が冒険者ギルドに圧力をかけて『ニルヴァーナ』の金を奪おうとしても奪えなくなった。
姉さんの「お金を取ろうとしても無いよ。ブギャー」戦略の次はチンチラが今後の戦術を提案した。
チンチラの立てた作戦は、「お金が欲しかったら手伝ってね」と、これまたシンプルな作戦だった。
チンチラは姉さんにお願いして、今すぐブックスさんの家に向かってアルドゥス爺さんに会うように言った。
カタリーナがその理由を尋ねると、チンチラがにっこりと笑って「国王派の代表はアルドゥスさんでしょ」と言った瞬間、全員が驚き固まった。
どうやらチンチラもアルドゥス爺さんの正体を薄々気付いていたらしい。
しかも俺と違って、彼が国王派の代表であることも見抜いていた。プチキャット・フロム・ヘルは伊達じゃない。
カタリーナがチンチラに、何故その事を知っているのかを問いただすと……。
「彼ほどの人がブックスさんの護衛に留まっているのっておかしいですよね。それとアルドゥスさんがアース国に居たのって、クララちゃんの護衛を口実にした国王派の資金繰りだと先ほどの話で分かりました。
だけど帰る時に船が難破してその計画が失敗したけど、偶然、私達に出会い、コトカの財宝を見つけることができた。恐らくその時点でアルドゥスさんは、『ニルヴァーナ』を国王派に入れようと計画していたはずです。
ここからは憶測ですが、当初、アルドゥスさんはコトカに居た時点で、私達を国王派に誘おうとしたのだと思います。ところが、財宝の使い道が既に『ローズ商会』を作る事が決まっていたので、資金を提供してほしいとも言えない。
そこで『ローズ商会』が大きくなるのを期待して、私達がブリトンに来た時にブックスさん経由で、私達のスポンサーになったんですよね。
だからこのギルドハウスも、すんなりと私達に譲ってくれたと思いましたが違いましたか?」
そう答えると、カタリーナは天を仰いで全部正解と呟いた後、チンチラを尊敬の眼差しで見ていた。
チンチラの作戦を聞いた姉さんはシャルロット邸へ向かうと、クララとじゃれながらアルドゥス爺さんに会って『ニルヴァーナ』の支援が欲しかったら、国王派の貴族を動かすように依頼する。
突然やって来て自分正体すらバレていることにアルドゥス爺さんは驚いたらしいが、今が好機と判断して了承した。
姉さんはアルドゥス爺さんに国王派ですぐに動ける私兵をギルド前に行かせて貴族派からの襲撃に備える様にお願いすると、アルドゥスさんも分かったと頷いて館から飛び出ていった。
そして、チンチラはロビン経由でフリーギルド『萩の湯』の繁蔵のおっさんと一時的な同盟を組むことに成功。
ヨシュアさんにギルドハウスの防衛の指揮を頼んで、貴族派からの強制捜査に対抗する手段を手に入れた。
最後に義兄さんとカタリーナに俺の救出を依頼すると、ジンがそれに付いて行こうとした。
チンチラがまだ脱獄したばかりで捕まるから駄目と言っても、頑なに首を横に振って付いて行こうとしたのを見て、義兄さんが自分の身は自分で守るならという条件でジンも一緒に俺への救出に向かった。
「……って状況だけど……話、聞いてた?」
カタリーナの説明がどうやら終わったらしい。
「え? まだ話してたの? ちょっと話が長すぎて、装備の確認をしてた」
「君ねぇ……走りながら説明して息が苦しいのにそういう事するわけ?」
息が切れ切れなカタリーナが俺を睨む。
「だから、アンタ説明が下手なんだって、男を捕まえるならもっと直球勝負でイケや! 美人が台無しだぞ」
「ウルサイ。これでも騎士団の中じゃモテる方なのよ!」
「男子校の女教師的な立場か? エロビデオでよくあるシチュエーションだな」
「意味分からないけど、何となく碌でもない事は確かね」
カタリーナが呆れた様子で溜息を吐く。
「お前等うるさいぞ」
「「説明すらできない男が文句を言うな!」」
「うっ!」
前を走る義兄さんに、俺とカタリーナが同時に言い返す。
後ろに居るジンも俺達と同意見だったらしく、頷いたのが気配で分かった。
「それで、こんな国が二分する状況でも騎士団は動かないのか?」
カタリーナに質問すると、残念な表情を浮かべて頷いた。
「ええ、騎士団はあくまでも中立。モンスターの襲撃以外は動いてはいけないと法で決まっているの」
「それ、中立って言わないで日和見って言わないか?」
俺の言い返しにカタリーナが肩を竦める。
「悔しいけど、言い返せないわね」
「で、なんでカタリーナは騎士団なのに動いている訳?」
その質問にカタリーナが笑顔になる。
「今日は生理で非番って事になってるわ」
「実際は?」
「危険日よ」
それを聞いて心の中で興奮する。
「貴族派に捕まって、妊娠しちゃう~中は止めてプレイだけは気を付けろよ」
「君、本当に変態ね」
カタリーナから褒め言葉を受けている間に、俺達はポータルゲートまで到着した。
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