第17話 荒ぶる女子レスラー

◇◆◇◆老剣のアドバイス(Aチームの戦い)◇◆◇◆


 俺達が広場に出るのと同時に、レイとロビンが抜き出て先に走り始めた。

 しかも走りながら会話をする余裕さえもある様子だった。

 止めようとしたが、その前に二人があり得ない速度でトロールへ向かう。

 そして、トロールの攻撃をアクロバットな動きで躱してボストロールへ突っ込んで行った。

 その行動が常識を超えていて、思考が追い付かない。


「カート!」

「おう、スマン」


 驚いて動きを止めた俺にベイブが声を掛け、意識を目の前のトロールへと向けた。




 トロールの前に立ち、剣で盾を叩き音を鳴らして挑発をする。

 レイ達の後を追いかけようとしたトロールの二体が音に反応して、こちらを振り向いた。


「一体、貰ってくぞ」

「ああ、頑張れよ!」

「カートさんこそ!」


 さらに、ヨシュアがトロールの一体を『挑発』して、自分のパーティへと誘導して行った。


「さあ、来い!」


 俺も残った一体に対して再び『挑発』を仕掛けるのと同時にBuffの実行を開始。


『ライトプロテクション』


『ホーリーマイト』


『シャイニングソニック』


『マジックリカバー』


『フィジカルリカバー』


 ブリトンに着いて落ち着き始めた頃、街を一人で散策していた時にNPCの老人を助けた事がある。それがきっかけで、その老人と何度か交流しているうちに彼からスキルを貰う事ができた。

 その老人は元聖騎士だったらしく、彼から授かったのは聖騎士専用の光魔法だった。

 レイやコートニーもこうやって、NPCからスキルを授与されたのだろうか。いや、コートニーは途中で面倒くさくなって、バックレたらしいが……。

 老人から貰ったスキルは俺が使っていた光補助魔法と殆ど同じだった。ただし、自分専用になった代わりに詠唱が不要で、魔法を解除しても3分間は効果が維持されていた。

 さらに『マジックリカバー』と『フィジカルリカバー』の魔法が追加されて、体力とMPも僅かだが回復もできるようになった。

 それを30秒置きに繰り返し詠唱することで永続的に身体能力が上がり、尚且つ、敵のヘイトも以前と比べて維持できた。




 トロールがこん棒を振り降ろして俺に攻撃してくる。

 盾を斜めにしてこん棒を滑らせ、体を横にシフトして攻撃を躱した。

 俺がトロールと対峙している間に、ベイブとジョーディーがトロールの後方へ移動、チンチラのゴンが遅れて俺の横に立つ。


「チンチラ! ゴンを右へ寄せてくれ。俺は左前側に立ってコイツの攻撃を受ける」

「ハイ!」


 トロールに対して『挑発』を続ける。

 その間にベイブの攻撃がトロールの脚を切り裂くが、すぐに傷が回復していった。


「カート、攻撃が効かないよ!」

「弱点は必ずある! 探せ!」


 ジョーディーに指示を出しながら攻撃を躱しつつ挑発して、Buff回しをする。

 Buff、挑発、防御と、3つの事を同時進行でやるため、スキルを貰った当時はかなり手間取ったが、最近はこの戦闘方法に慣れ始めている。


 ヒュン!


 俺の顔の真横を彩、いや、コートニーの『アイスバレット』が通り過ぎて、トロールの腹に命中した。

 相変わらずドコから飛んでくるのか分からない魔法に冷や汗が出た。しかもトリガーハッピーだから質が悪い。


「魔法もダメっぽいよー」


 コートニーの魔法はトロールの腹に命中して中に食い込んだが、見る見るうちに回復していった。

 その直後にチンチラの『コンスト・ポイズン』がトロールの体を包む。


「ダメです。効いてはいるんですが、それ以上に体力の回復の方が早いみたいです」


 チンチラの報告を聞いて心の中で舌打ちをする。

 隣のゴンはトロールを殴っているが、こちらもあまり効果がなさそうだった。

 トロールの攻撃を俺が全て受け止め、他の皆は攻撃を強めていたが一向にトロールが倒れる様子はなかった。




 何度目かのトロールの攻撃を盾で防いだ時、盾に当たった衝撃でこん棒が跳ね上がり、そのこん棒に偶然コートニーの『アイスバレット』が直撃する。

 そして、バレットの勢いでこん棒がトロールの頭に直撃した。


「グガ!?」


 それでトロールの動きが止まった。どうやらこん棒で頭を叩いて痛かったらしい。


「一斉攻撃だ!」


 全員でトロールを攻撃する。俺も防御に徹していたのを止めて、王国の剣でトロールの脚を切った。


「グオオオオ!!」


 トロールが叫び声を上げると再び攻撃を開始。

 防御に徹しようと盾を構えて、ふと俺が切った部分を見れば、そこだけ回復していなかった。


「どうしてだ?」

(ふぉふぉふぉ、トロールは光魔法に弱いんじゃよ。だから光属性の儂が切ったところだけ回復が遅いんじゃ)


 突然、頭の中で王国の剣の声が聞こえた。


「そうなのか?」

(うむ、トロールは再生能力は高いが光魔法に弱い。それが無理なら胴体と頭を切り離せば死ぬぞい)

「すまない、恩に着る」


『こいつ等は光魔法か頭を飛ばせば死ぬぞ!!』


 すぐに爺さんのアドバイスを大声で他のパーティへ伝えた。




「ジョーディー、光魔法だ! トロールの頭に魔法をしてくれ」

「…………」

「ジョーディー?」

「……控えに入れちゃった。テヘ」


 ズコッ!


 それを聞いて全員がズッコケる。


「ジョーディー!!」

「だってずっと使わなかったし、カートがスキル上げとか言ってダメージ喰らいまくるから、MPがもったいなかったんだもん!!」

「俺のせいかよ!!」

「そうよ! 少しはその脳筋頭を止めたらどう?」


 魔法を控えに入れるぐらいなら料理スキルを控えに入れて永遠に封印しろと言いたい。

 前からジョーディーの料理にはひどい目に遭ったが、あれで喫茶店を経営しているから驚きだ。もっとも会計士として店に関わるだけで、ジョーディーが店頭に出ようとするとベイブが慌てて止めている。

 ベイブ曰く「あいつの入れるコーヒーはぞうきんの味がする」らしい。死んでも飲みたいとは思わない。


「ベイブ、何とかできないか?」

「……5秒だ、5秒間トロールの動きを止めてくれ。それとチンチラ、ゴンを後ろに回してしゃがませてくれ」


 どうやらベイブに考えがあるらしい。


「はい」


 チンチラが答えてゴンがトロールの背後に回った。


『私は本能のままに生きて、自由に戦う!!』


 その時、レイとロビンが戦っている方からロビンの声が聞こえた。

 ダメだ、あいつ等、作戦を無視して正面から戦っている。早く応援に行かないとマズイ。


「コートニー!」

「任せて、『アイスルート』!」


 コートニーの魔法でトロールの足が氷に覆われる。


「喰らえ!!」


 凍り付いた足を見て驚いているトロールの隙を付き、トロールの膝に乗って飛び上がる。

 そして、王国の剣をで胸から腹を斜めに切りつけた。


「ゴン、行くぞ!」


 トロールの背後でベイブの声が聞こえるのと同時に、ベイブがゴンの背中に乗った。

 ベイブは何時もの二刀流を止めて一本の剣を上段に構えた後、ゴンの背中から飛ぶ。


「キエェェェェェ!!」


 奇声を上げるのと同時に背中からトロールの肩目がけて切り降ろした。




 ベイブが地面に着地する。

 トロールはピクリとも動かずに止まっていたが、肩口から斜めにずり落ちる様に体が二つに割れて地面に倒れた。


「示現流も久々だな……」


 確か以前、喫茶店の常連客から習った事があると聞いたことがあるが、凄まじい威力に味方の俺でもゾッとした。


「キャーあなた素敵~」


 ジョーディーがベイブに抱き着いて、キャッキャッと叫ぶ。それをベイブがまんざらでもない様子でジョーディーの頭を撫でていた。

 普段、あの二人の行動はおかしいが、実は夫婦間の仲は良い。


「カートさん!」

「ヨシュアそっちも終わったか?」


 別の場所で戦っていたヨシュア達がこちらに向かってきていた。


「ええ、すぐに向こうの応援に行こう」


 ヨシュアに頷いてボストロールが居る方向を振り向く前に、先にその方向を見ていた他のメンバーから驚きの声が上がる。


「なっ!」

「マジか?」

「速っ!」


 ボストロールはレイとロビンが飛び上がって、頭と胴体を切り離しているところだった。


「さすが『ワン・ウーマン・アーミ』ね……」


 コートニーの声を聞きながら、俺は二人を呆然と見ていた。




◇◆◇◆下着タンク(Bチームの戦い)◇◆◇◆


 広場に出ると同時に、レイ君とロビンさんが全速力で走り出した。


「あれ、スタミナが持つのか?」


 後ろでシャムロックが呟くが、彼等は途中から地面を滑るように高速で移動を始めた。


「あれは何?」

「『軽業スキル』だと思いますが……あんな動きは見た事ありません」


 ローラの質問にシリウスが答えるが、その言葉には驚きの感情が含まれていた。

 そして、Aチームの方を見れば、カートさんがトロール二体を盾を叩いて挑発していた。


「どうやらカートさんがトロールの気を引いたらしい、一体連れてくる」


 私も自分の仕事をするために、カートさんの方へと向かった。




「一体、貰ってくぞ」

「ああ、頑張れよ!」

「カートさんこそ!」


 カートさんに一言断ってからトロールの一体を『挑発』する。

 トロールが私に気付いて向かってくるのを、後方に逃げながら『挑発』を繰り返した。


「さあ、始めるぞ」

『はい』

「おう」


 シャムロックがトロールの背後へ、他のメンバーは少し離れた場所へと移動して攻撃を開始する。

 ベータテストの時、私は魔法使いのロールをしていた。

 ある時、レイドの誘いを受けて挑戦したが、その時の相手は私達プレイヤーレベルの倍近くあるオーガだった。

 戦う前から全滅の覚悟をしていたのだが、その時のタンクがカートさんだった。

 彼の戦いは凄まじく、オーガ三体を引き連れて防御に徹しながら『挑発』を繰り返す事で、攻撃する味方にターゲットが一度も向くことがなく、一人の死亡も出さずにクエストを終わらせた。

 その時からだろう、私がタンクというクラスに憬れるようになったのは……。




「シャムロック、こいつに打撃はあまり効いていない。いい加減に武器を使え!」

「チッ! 分かった」


 後ろからパンチとキックをひたすら打っていたシャムロックが、鞄からシャベルを取り出してトロールの足を刺し始める。前から疑問なのだが、なぜシャベルなのだろう。

 一度だけ尋ねたことがあるが「赤軍パルチザンを舐めるな」と言われた。意味が分からない。

 しかし、シャムロックの馬鹿力でシャベルを使うと、打撃、突き刺し、切裂きと臨機応変に敵を倒すので止めろとは言えなかった。


「ヨシュアさん、こいつ再生するよ」


 後ろで弓を放っていたステラの報告を聞いてトロールを見ると、確かに矢が突き刺さった部分の肉が再生して、元に戻り矢が地面に落ちていた。


「魔法もダメらしいです」


 シリウスからも報告が入る。

 彼の放った『ウィンドカッター』で切裂いた部分もすぐに回復していた。


「ヨシュアどうする?」


 シャムロックに問われて、トロールの攻撃を防ぎながら悩んでいると、遠くからカートさんの声が聞こえた。


『こいつ等は光魔法か頭を飛ばせば死ぬぞ!!』


 どうやら向こうは弱点を見つけたらしい。


「ローラ! 光魔法だ」

「でも、そうするとヨシュアさんに回復する魔法が間に合わないわ」


 ローラに指示すると彼女は私の心配をして迷っていた。


「分かった。シャムロック、暫らくこいつの動きを止めてくれ」

「ん? 了解した」


 シャムロックが鞄からロープを取り出してトロールの腰にロープを掛けた後、自分の腕にもロープを結ぶ。なぜ自分の腕にもロープを結ぶ? 時々あいつの行動が理解できない。


「いっちょ、インディアン・ストラップ・デスマッチといこうぜ」


 私が後ろに下がると、ヘイトを取っていた私へトロールが追いかけようとする。


「ぬおおおお!!」


 それをシャムロックがロープを引っ張り、自分の何倍もあるトロールの動きを止めた。

 距離を取った私はコンソールを開いて、装備の欄を弄り鎧を脱ぎ下着姿になる。


「「「ヨシュアさん!」」」


 私を見てシャムロック以外から悲鳴に近い声が上がった。


「このトロールの動きは単調だ、鎧がない方が躱しやすい。ローラ、魔法を撃て!」

「はい」


 私の捨て身の行動を見たローラが魔法の詠唱を始めようとした時、シリウスがローラを止めた。


「待って、ローラの魔法だけじゃ倒せないかもしれない。ステラはローラと連携を取って」

「了解!」

「シャムロックこのまま足を抑えてくれ、僕が片方の足を攻撃する。それでそいつを地面に倒そう。ヨシュアさんはトロールが倒れたら『シールドバッシュ』をしてください。頭に直接叩けば効果がある筈です」

「分かった」


 『デモリッションズ』に居た頃から私の参謀役だったシリウスが全員に指示を出す。




 その時、遠くから大声が聞こえた。


『私は本能のままに生きて、自由に戦う!!』


 あの声はロビンさんが自分を奮い立たせる時に叫ぶ鼓舞言語か!?

 あのセリフを言った後、先ほど語ったクエストでオーガのボスを一刀両断にした記憶がある。という事は、レイ君とロビンさんは逃げずに戦っている?

 私は焦りを感じながらトロールへと向かった。




「さあ、私はここだ!」


 再びトロールに近づいて下着姿のまま、盾を構えて『挑発』する。

 トロールは動きを封じているシャムロックに攻撃しようとした手を止めて、こん棒を私に振り下ろした。


「遅い!」


 横にステップして攻撃を躱す。

 さらに追い打ちで来る横なぎのこん棒を、アルドゥスさんから授与された盾回避スキルで跳ね飛ばした。


「今だ!」

「『ウィンドカッター』!」

「うおおおおお!!」


 シリウスが右足を魔法で二つに切裂いて、それと同時にシャムロックがタックルで左足を跳ね飛ばした。


「ガアアアアア!」


 トロールが大声を上げながら私の方へ向かって地面に倒れる。


「喰らえ!」


 盾でトロールの頭を殴り『シールドバッシュ』を発動させる。

 今まで効果のなかった『シールドバッシュ』が頭に直撃したことで、初めてトロールがスタン状態になった。


「撃てー!」

「『シャイニング』!!」

「『ラビットファイアー』!」


 私が離れるのを待っていたローラとステラが、トロールの頭を目がけて同時に魔法と弓スキルを放つ。

 二人の攻撃を頭に受けたトロールの頭は爆発するように弾けて、動かなくなった。




「終わったか?」

「再生する動きもないみたいなので、大丈夫だと思います」


 私の呟きにシリウスが後ろから答える。

 次にローラが私に近づいて自分が着ていたマントを私の肩に掛けた。

 その横ではステラが私を見て溜息を吐く。


「でもブラッドが居なくて良かったわ」

「ん? 何でだ?」


 ステラの言葉に首を傾げる。


「だってヨシュアさんの下着姿を見たら、きっとあいつ鼻血を出していたと思うし」


 それを聞いてシャムロックが笑う。


「はははっ。下着と言ってもスパッツにスポーツブラじゃないか。MMAの女子選手なら普通の格好だから気にするな」


 シャムロックのセリフに呆れながら、コンソールを開いて鎧を身につけた。


「カートさん達も終わったらしい」


 シリウスの言葉にカートさんの方向を振り向くと、トロールを肩口から切裂くように倒していた。

 いったいどうやったらあんな風に切れるのか疑問だ。




「カートさん!」

「ヨシュアそっちも終わったか?」


 カートさんに近づくと、彼は私達に気が付いて手を振る。


「ええ、すぐに向こうの応援に行こう」


 そう言ってからボストロールの方を向くと、レイ君とロビンさんが高速でボストロールに接近していた。


「なっ!」

「マジか?」

「速っ!」


 私の他にも二人を見ていた他のメンバーから驚きの声が上がる。

 二人はボストロールに接近すると、飛び上がって頭と胴体を切り落とした。


「さすが『ワン・ウーマン・アーミ』ね……」


 コートニーさんの声を聞きながら、レイ君でもロビンさんを抑えるのは無理だったかと溜息を吐いた。




◇◆◇◆神速のコンビネーション(Cチームの暴走馬鹿二人)◇◆◇◆


 他を置き去りにしてロビンと俺が走りだす。


「行くぞ、ついて来れるか?」

「まかせろ、本物のケツを見ながら追いかけてやるよ。そのヒップから下のラインがたまらねえぜ!」

「ははっ。だったらついて来い『ホップ』!」


 そう言うと、ロビンが俺と同じ軽業スキルを使ってスピードを上げた。

 それを見て軽く驚いたが、俺だってそのスキルは持っている!


「上等だ『ホップ』!」


 同じようにスキルを発動する。俺の『ホップ』の声を聞き、ロビンがチラッと後ろ見て一瞬驚くが、ニヤリと笑ってさらに『ステップ』を発動してトロールに急接近した。

 もちろん俺もスキルを発動して、ロビンのすぐ後を追い駆ける。


「『ジャンプ』!」


 手前のトロールがこん棒を横なぎに振るのを見たロビンが『ジャンプ』を発動、高く飛ぶ空中で側転してこん棒の上を軽々と躱した。

 そして、そのこん棒がロビンの後ろに居た俺に迫る。


「『ジャンプ』!」


 同じように軽業スキルを発動、飛んで躱すには間に合わないと、地面を這うようにスライディングでこん棒の真下を潜った後、背中をスピンさせて起き上がった。


「やるじゃないか!」

ファッ○ユー物凄いベリーマッチクソ女!」


 ボストロールの前に立つと、ロビンが背中から大剣を取り出す。

 ロビンの大剣はゴブリンを虐待した時にも見たが、長さは持ち主の背丈とほぼ同じでかなり大きかった。


「近くで見るとデカいな」

「ああ、そびえ立つクソだな」


 俺は目の前の敵を言ったのではなく、お前が持ってる剣の事を言ったんだがな。


「AGI特化じゃないのか」


 ロビンに質問しながら、俺も背中からクロスボウを取り出しセットする。


「惜しいな、私はAGIとSTR特化だ。いくぞ!」

「オーケー、レディーお嬢ちゃん

「ゴー!」




 俺とロビンがボストロールに接近する。


「右だ」

「じゃあ右の反対」


 ボストロールに接近してロビンが右へ俺が左へと分かれて背後に回った。

 ボストロールが振り向きざまにこん棒を振り下ろす。

 同時に『バックステップ』を発動、二人同時にバク転で攻撃を躱して距離を取る。俺はさらに下がって、ロビンの後ろの位置を確保した。


「ほら、かかって来いよ」


 ロビンが大剣をブンブンと右手で振り回し、左手でボストロールに向かって手招きをする。

 ボストロールの先を見れば義兄さん達が他のトロールとの戦闘を始めていた。

 ボストロールがこん棒を高く上げて、ロビンに叩きつけようと振り下ろす。


「遅い!」


 一瞬で体を回しながら懐に入ると、こん棒を持つ腕を目がけて大剣を振り下ろした。


 ズサッ!


 たったの一撃でボストロールの腕が切り落とされて地面に落ちる。


「「グオオオオオ!」」


 ボストロールの両方の頭が叫び声を上げてロビンを睨みつけると、残った方の腕で彼女を殴り掛かる。


「よっと!」


 ロビンは軽く飛び上がると、サーフィンをする様に大剣の平な部分の上に乗り、ボストロールのぶん殴り攻撃を大剣の反対側で受け止めた。

 そのまま勢いよく飛ばされて、空中でバランスを取ると地面に着地する。


「どうだ?」

「すげえな、人生の大半を破壊行動で生きてるのか?」

「かもな! だけど向こうもしぶといらしいぞ」


 ロビンがボストロールの方を顎でしゃくると、切り落とされた腕をつけた後、何事もなかったかの様に腕を回していた。


「どうやら自己再生能力が高いらしいな」

「実に素晴らしい、チ○コを切れば極太ディ〇ドが量産できるぞ」


 ロビンが片方の肩を竦める。


「そんなの使いたいとも思わないね。自分のケツにでも刺してな」

「残念だけど、俺のケツは繊細な上にナイーブでね。あんな汚くてデカいのは、お断りしている」

「繊細でナイーブ? どっちも意味が同じじゃないか」

「それぐらい繊細って事だろ。とりあえずヒデエツラに一本ぶち込んどくよ」


 冗談を言い合っている間にボストロールが動き始める。それに合わせて、クロスボウを構えて片方の顔に放った。

 ボルトが顔面に突き刺さるが、ボストロールは片手でボルト引き抜いて、視線を俺に向けた。

 その隙にロビンが近づいて足を切り裂くが、すぐに傷が治って逆にロビンにこん棒を振り下ろす。

 それを斜めに大剣を構えてからパリィで勢いを反らし地面に落とした後、一閃。左足を骨ごと切り落として、後ろへと下がった。

 ボストロールはその攻撃で地面に倒れた。




「うは、ガードしたのに一発で体力が減った感じがするぞ。さすがアースの敵とは違うな」


 いや、いや、いや、今の攻撃で死なない方がおかしいから。


「えっと、回復しようか?」

「できるのか?」


 ボストロールに視線を向けたまま会話をする。

 ロビンの疑問に鞄からポーションを取り出した。


「ポーションか……苦手なんだよな」

「あんたに苦手な物があるのが驚きだよ。だけど安心しな、ジョーディーさんの料理よりマシだ」

「あれは料理じゃない、食べれるC4爆弾だ!」


 実際にC4爆弾は食べれるらしい、毒だけど……あ、まさにあのドチビの料理そのものじゃないか!!


「違いないな」


 納得した後、ポーションのコルクを抜いてロビンに投げる。

 不味いのを覚悟したロビンが俺の特製ポーションの味に驚き、一瞬だけ振り向くと再び正面を向いた。


「あはははっ。イイね。やっぱりお前を選んで正解だった!」

「男を見る目があって実に結構!」


 足を付けて立ち上がったボストロールに向けて、ロビンが両手を上げて大剣を横に構える。


「行くぞ、でくの坊! この攻撃に耐えられるか試してみろ!」

「……どっちがボスか分からねえ!」


 ロビンがボストロール目がけて走り出す。


「『ホップ』!」


 ロビンは助走を付けて勢いに乗ると軽業スキルを発動させて、さらにその勢いが増す。

 スキルを発動中に地面を蹴って体を左右に動かしフェイントを入れた。その高速の動きによる残像でロビンの姿が二重に見える。


「マジかよ……」


 その動きを見て攻撃をするのを忘れるぐらい見入った。

 なぜなら、軽業スキルの移動は基本固定の筈なのだが、ロビンは移動をスキルに任せて、起動中に地面を蹴る事で自在に移動をしていた。


「『ステップ』!」


 フェイントでボストロールの攻撃を躱すと、地面を蹴って『ステップ』を発動、フェイントの移動が一直線に変わって、高速で低空を飛びながら体を一回転して勢いをつけボストロールの右足を真っ二つに切裂いた。


「「ガアアアア!」」


 その攻撃でボストロールが大声で叫ぶ。


「『ジャンプ』!!」


 ロビンが地面を滑りながら軽業スキル三段目の『ジャンプ』を起動、3mの高さを飛ぶとボストロールの右側の頭に大剣を振り下ろした。


「ガッ!」


 大剣は頭に食い込んでボストロールが呻き声を上げる。


「『バックステップ』!」


 敵の頭を蹴飛ばすのと同時に『バックステップ』を発動、ボストロールから離れた地面に着地した。

 その直後、右足を失ったボストロールが地面に倒れる。




「どうだ?」

「イカれてるな」

「イカしてるって言うんだよ。それにイカれてるのは、あっちの方らしい」


 そう言ってボストロールの方を見ると、あれだけの攻撃を喰らいながらも徐々に再生されつつある様だった。


「あれ、死ぬの?」

「さあ? 頭でもぶっ飛ばせば死ぬんじゃないか?」


『こいつ等は光魔法か頭を飛ばせば死ぬぞ!!』


 相談していたら、遠くから義兄さんが大声を出してトロールの弱点を知らせた。

 どうやら向こう側もトロールの再生能力に苦戦しているらしい。


「どうやら当たっていたらしい」

「でも、その頭が二つあるからなぁ……」


 再生しつつあるボストロールを見て首を横に振る。


「そうだな、だったらお前も攻撃に参加しろ」

「分かった、クロスボ……」

「いや、クロスボウは効果がない。接近武器を使え」

「マジで?」

「マジで」

「真正面から戦うのは馬鹿って教わったんだけど」


 そう言うと、ロビンがニヤリと笑った。


「それは正解だな。だけどな……馬鹿で結構!」


 言葉を途中で止めてから、ロビンが息を吸って大声で叫ぶ。


『私は本能のままに生きて、自由に戦う!!』


 大声で宣言するとロビンの雰囲気が豹変して、全身から湧き出る気迫で押し潰されそうになった。


「ヒール系の女子プロレスラーを想像していたら、それよりずっと怖い女が現れた」

「そっちだって見た目で女々しい野郎だと思っていたが、想像より遥かにイカれてるぞ」

「あんたの方がイカれてるって!」

「ゴチャゴチャうるさい! 行くぞ、付いてこい!!」

「もう、この人ヤダ! 無茶苦茶過ぎる!!」


 クロスボウを背中に背負うと、テクノブレイカーを抜いて走り出したロビンの後を追った。




「行ってこーい!」

(待ってましたー!!)


 走りながらテクノブレイカーをボストロールへぶん投げる。

 テクノブレイカーは一直線にボストロールへ勢いよく飛ぶと、顔の周りをうろつきながら嫌がらせの攻撃を始めた。


「おおー。まだそんな便利なのを隠していたのか」


 それを見てロビンが笑った後、ボストロールの方を見て真剣な表情に変わる。


「さあ、ショーの始まりた!」

「ストリップなら大歓迎!」

「「『ホップ』!!」」


 俺とロビンが同時に軽業スキルを発動。

 ロビンが地面を蹴ってフェイントを入れるのを見て、俺も同じ様に地面を蹴り、フェイントでジグザグに移動する。

 ぐは! これ足の負担が半端ねぇ!


「「『ステップ』!!」」


 ボストロールの横薙ぎの攻撃をロビンが飛んで躱し、俺は地面をスライディングで滑って攻撃を避け、そのままボストロールの股を潜り抜けた。


「「『ジャンプ』!!」」


 ロビンがボストロールの腕に足を乗せると高く飛び跳ねて、ボストロールの上空に舞い上がる。

 俺はボストロールがロビンを見ている間に、背後からボストロールに飛び掛かった。


「ブレイカー!」

(ほーい!)


 左にスティレット、右に飛んできたテクノブレイカーを捕まえて、スキル『腕力UP(小)』を発動。これで5秒だけ筋力が倍増する。


「喰らいな!」


 ボストロールの左右の延髄目がけて同時に剣をブッ刺すと、ボストロールの動きが止まった。

 前方から沸き上がる殺気を感じ取り、とっさに両手の剣を掴んだ状態で空中で逆立ちになり剣に体重を載せると、ボストロールの頭が上を向いて首がむき出しになった。


「うおぉぉぉ!!」


 その直後、ロビンが声を荒らげながら舞い降りて、大剣を横に一閃、ボストロールの左右の頭を一気にはね飛ばした。

 オイ! 逆立ちしてなかったら俺ごと切ってたじゃねえか! 殺す気か!?


「「『バックステップ』!!」」


 ロビンと同時にボストロールの胴体を蹴り飛ばして地面に着地する。

 ボストロールの胴体はしばらく立っていたが、ゆっくりと前に傾くと地面に倒れて動かなくなった。

 そして、テクノブレイカーとスティレットにはボストロールの生首が刺さったままだったりする。

 『腕力UP(小)』の効果が切れて重いから、地面に落として放置。


(取って、取って! 気持ち悪い、チョー気持ち悪いし、怖い!!)


 テクノブレイカーが叫ぶけど、復活したら面倒だから、ヤダ!


「やったかな?」

「これで死んでなきゃ、逃げよう」


 俺が首を傾げて、ロビンが肩を竦めた。

 義兄さん達の様子はどうなったか気になって確認すると、向こうも戦闘が終わったらしく、俺とロビンをただ茫然と見ていた。

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