第14話 オースチンはかく語りき
義兄さんとヨシュアさんの試合はギルドハウスの裏庭で戦うことになった。
準備ができたヨシュアさんが館から現れると、全員から歓声が上がった。
次に義兄さんが現れると、全員が「勇作」と叫び始める。ちなみに、英語読みだと、「
最初、義兄さんが使えるBuffの使用を開始前に許可するかで揉めたが、漢気のあるヨシュアさんが構わないと言って有効になった。
それで観戦している全員から義兄さんがブーイングを喰らう。
「ヨシュアさんが負けたら暴動を起こす!!」
俺もどさくさに紛れて大声で叫んだら、タイミングが悪く全員が口を閉じた後だったため目立った。それで義兄さんに睨まれる。
試合内容はガチだった。互いに防御がメインのスタイルだから武器よりも盾でお互いを殴り合っていた。盾の使い方が何か違う気がするのは俺だけか?
白熱の試合を見て全員が「
次第に白熱してきて声援が「
そして、最後には「
最後はヨシュアさんが繰り広げた『シールドラッシュ』による盾攻撃三連発を耐えた義兄さんが、硬直状態のヨシュアさんに剣をブッ刺して勝利を収めた。
それで全員が再びブーイング。
剣を手に入れた義兄さんは嬉しそうだったが、その様子はヒールレスラーが人気のベビーフェイスを破ってベルトを手に入れた様子に似ていた。
話は変わって、処刑が決まってむせび泣くブラッドが俺の胸ぐらを掴み……。
「例の! 例の薬は!?」
必死な形相で迫って来たから、鞄から例のハイポーションの素材入り胃腸薬を取り出す。
「あ、ああ、一応できている。だけど……」
薬について説明しようとしたが、その前にブラッドが胃腸薬を奪うと一気飲みして、そのまま一気に吐いた。
「おえぇぇぇぇぇ!!」
俺の目の前でブラッドが倒れて、ゲロの床の上で気絶する。
「…………」
やっぱり失敗作だったか……。
「ハンバーグができたよー!」
そして運ばれてくるマッドシリーズ。
今回の処刑道具は肉の塊らしい。何の肉を使っているかは不明。
だけど、どんな高級な肉ですら殺しの道具にするこの女は最強の殺し屋と言えるだろう。
ジョーディーさんは気絶しているブラッドを蹴飛ばして仰向けにすると、アツアツのハンバーグを口の中に放り込んだ。
いや、ちょっと待って、さすがにそれは酷すぎね?
「熱っちーー!」
口の中に火傷しそうなアツアツのハンバーグを入れられて、気絶から目が覚めたブラッドがガバッと起き上がり、その勢いで口の中のハンバーグを飲み込んだ。
「……ガハッ!」
その瞬間、ブラッドの穴という穴から煙が出て再び床に倒れて気絶した。
「効果はなかったか……」
どうやら俺の胃腸薬はジョーディーさんの料理に勝てなかったらしい。合掌。
「それじゃ行くか」
義兄さんの号令で全員が揃ってギルドハウスを出る。
年少組の試験も終わりブリトンで全員が揃うのも初めてという事で、血に飢えたシャムロックさんが何かクエストでもやろうぜという提案から、全員でクエスト依頼所へと向かう事になった。
ちなみに、ブックスさんとアルドゥス爺さんは既に帰っている。これから俺が持ち帰った書類を見て今後の方針を決めるらしい。
ブラッド? パンツ一枚の姿になってシャムロックさんが肩に担いでるけど、何か? ついでに言うと、シャムロックさんがブラッドを担いでいるのは、脳筋担当だからではなく筋トレらしい。そう本人が言ってた。
俺も皆と一緒に大通りを歩く。
今の俺はド派手なフード付きのギルドマントを深めに被って顔を隠し、背中にクロスボウを背負って最後尾を歩いていた。
軽戦士の俺のステータスは以下の通り。それじゃステータス、ドーン!
-------------------
Lv22
テクノブレイカーSTR+3、AGI+6、痛覚倍増付与付
サバギンレーザーVIT+10
Sub スティレットAGI+6
・筋力(STR)7+3=10
・体力(VIT)2+10=12
・瞬発(AGI)8+6=14
・知力(INT)5
・器用(DEX)0
取得スキル
スキル増加の指輪(+3)
狙撃のクロスボウ(遠距離命中スキル+20)
軽業スキルのフード付きギルドマント(軽業スキル+3)
【生存術<Lv.23> INT+2】【危険感知<Lv.23> INT+2】【戦闘スキル<Lv.22> VIT+2】【盗賊戦闘回避スキル<Lv.10> AGI+1】【突刺剣スキル<Lv.21> AGI+4】【打撃スキル<Lv.18> STR+3】【格闘技スキル<Lv.17> STR+3】【軽業スキル<Lv.17(+3)20> AGI+3】【サバイバルスキル<Lv.10> INT+1】【ボルダリング<Lv.10> STR+1】【クロスボウ攻撃スキル<Lv.5>】【クロスボウスキル<Lv.5>】【遠距離命中スキル<Lv.5(+20)25>】
控え
【生産スキル<Lv.18> INT+1】【調合士スキル<Lv.21> INT+2】【毒作成スキル<Lv.21> INT+2】【薬草学スキル<Lv.21> INT+2】【乗馬スキル<Lv.5>】【盗賊攻撃スキル<Lv.22> AGI+2】【盗賊隠密スキル<Lv.20> DEX+2】【盗賊窃盗スキル<Lv.14> DEX+1】
アクション
生存術・危険感知・ステルス・目くらまし(唾吐き)・バックステップ×2・バックアタック・死んだふり・足蹴り・薬作成・毒作成・バランス崩し・ホップ・ステップ・ジャンプ・落下ダメージ減少・早打ち・影縫い・腕力UP(小)
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ボルダリングスキルが上がってアクションを一つ覚えた。
腕力UP(小)……5秒間だけ腕の筋力を倍に上げる。
クールタイムは30分。確かに頻繁に使っていたら腕が疲れるから納得。ボルダリングの競技で使用したら失格判定を喰らうと思う。
スキルを入れ替えた結果、ステータスがごっそりと減った。
クロスボウ関係のスキルが伸びれば上がるとは思うけど、暫らくは我慢するしかない。
それと、接近武器のサブウェポンにスティレットを装備した。ちなみに、サブウェポンはステータスに反映しない。このスティレットはテクノブレイカーが暴走したら使う予定。
下町に入ると貴族街では見かけなかったプレイヤー達から「ニルヴァーナ」だ「異邦の11人」だと囁かれる。
異邦の11人と言われても実際は十二人なのだが、ブラッドがパンツ一枚の姿だったので、やはり11人と言われた。
観衆の一番の視線はシャムロックさんに担がれたパンツ姿のブラッドだった。
確かに街中をパンツ一枚にされて担がれているのを見たら誰でも驚くし、俺なら二度見した後SNSで晒す。
もし俺がブラッドの立場だったら、恥ずかしくて一生のトラウマになるね。だけど常に目立ちたがりのブラッドは、夢の中で喜んでいるに違いない。
クエスト依頼所の前まで行くと、俺達の前に行く手を塞ぐプレイヤーの集団が現れた。
その集団を見て先頭を歩く義兄さんとヨシュアさんが溜息を吐く。
「また、お前達か……」
「やっと姿を現したか、ご立派なギルドハウスに籠ってるだけの引きこもり集団だと思っていたが違ったらしいな」
「嫌味を言いたいだけならそこをどけ」
集団の一番前に立つ髑髏の兜を被った男が一歩前に出て、義兄さんに話し掛けてくるが、義兄さんは相手にしたくないらしく適当にあしらっていた。
「あれ何?」
義兄さんと髑髏の男の様子を見ながら、俺の前のベイブさんの背中を突いて質問する。
「『ラブ&ピース』だ。何故か俺達をライバル視して喧嘩を売っている」
「ああ、あれがそうなのか。でも一番前の髑髏ツラはどこかで見た事あるな……」
そう呟くと、チンチラが「え?」という表情で俺を見た。
「何、どうしたの?」
「忘れたの? 冒険者ギルドでレイ君がお金をスッた人だよ」
小声で教えてもらって、そういえばそんな奴も居たなと思い出した。
俺が後ろで相手を確認している間も、義兄さんと髑髏の男の会話はヒートアップしていた。
「それで、お前達は何時までアサシンを隠しているつもりだ? この泥棒ギルドが」
「アサシンなんて知らないし、隠してないとずっと言っているが、お前の耳は飾りか? それとも人の言葉を理解する頭がないだけか?」
「ふっ、どうせ財宝を手に入れたのも嘘だろ。本当はコトカの領主からアサシンが盗んだ金に決まっている」
「証拠もないのによくそんな事が言えるな。その俺達が盗んだという証拠を出してみろよ」
まあ、実際に盗んでいるんだけどね。
「それはこっちのセリフだ。お前達こそ十二人目を俺達に見せて、疑いを晴らして見せろ」
「分かった。レイ、こっちに来てくれ」
「あいよ」
義兄さんに呼ばれて前へ出た。
「こいつがお前達の言う12人目だ」
「……何だと?」
義兄さんが横に立つ俺を紹介すると、髑髏の男がジッと俺を見つめていた。
「お前がアサシンか?」
「…………」
「そのフードを取って顔を見せろ」
「…………」
「オイ、黙ってないで何か言え!」
無言の俺に痺れを切らした髑髏の男が大声で怒鳴る。
その様子を見ながら右耳をほじって溜息を一つ吐いた。
「汚ねえ兜だな。だけど……その、似合ってるぜ」
「は?」
髑髏の男がキョトンとし、義兄さんと遠巻きに見ていた観衆からプッと笑い声が聞こえた。
「あんたら『ラブ&ピース』の事は聞いてるぜ。風の噂じゃお前等、実は人間に化けたエロ収集が目的のロボット型AI軍団らしいじゃねえか。
変態プレイの見過ぎで発狂した結果、ゲーム世界の秩序を狙っているって本当か? エロゲに帰れ」
「あ? お前、ふざけてるのか?」
「なんだ怒ったのか? デリケートなクソだな、ズボンを降ろして汚ねえナニを見せろよ。まだ玉付いてるのか? 失くしたんなら目玉でもほじってぶら下げてろ。ああ、気持ち良いからと言って間違ってもケツに入れるなよ。クソする時に一緒に飛び出るからな」
俺の言い返しに観衆から笑い声が聞こえた。
「おい、コイツは一体何なんだ!」
髑髏の男が義兄さんに向かって怒鳴るが、義兄さんは口元に手を置いて笑いを堪えていた。
「うちの十二人目のメンバーだが? まあ、多少、口が悪いけどな」
「多少ってレベルじゃねえぞ!」
「おいおい、ドクロ巻きのクソ野郎、まだ話は終わってねえぞ。人前に出るのを嫌がる俺を無理やりに近い形で呼んだんだからもっと盛り上がろうぜ、まだ半立ちだろ、硬くしてみろよ」
「…………」
「どうした? 急に無口になったけど取集した変態プレイ動画でも思い出して妄想に浸ってるのか? さすがラブ&
右手を股間の上で上下に動かしてしごく仕草をする。
「ふざけんな、さっさとそのフードを取れ!」
「人にだけフードを取らせんじゃねえよ! 俺の顔が見たかったら、まずテメエの汚ねえツラを見せろ!」
怒鳴り返すと、髑髏の男が荒々しく兜を脱いだ。
「おら、これで良いだろ!」
髑髏の男の顔はごく普通の日本人顔だが、髪が金髪に目は青くしていた。
「ゴルァ、酷でえツラを見せんじゃねえ! その汚れた兜をとっとと被って顔を隠せ!!」
「なっ!」
『あはははははっ』
その瞬間、観衆の殆どが笑いだしてこの場が爆笑の渦に包まれた。
「……今の切り替えしは酷い」
後ろのヨシュアさんが、笑いを堪えながら小声で呟く。
髑髏の男はプルプルと体を震わせて、怒りを堪えている様子だった。
「いい加減にしろ! こっちは顔を見せたんだ、早くそのフードを脱いで頬の傷を見せろ!」
「ほらよ」
フードをバサッと捲って素顔を晒す。
「……え!」
『おおーー!』
髑髏の男が俺の顔を見た途端、あんぐりと口を開けて呆然としていた。
周りの観衆の一部から「キャーー!」と悲鳴が上がったけど、人の顔を見て悲鳴を上げるな。
「なんだそのマヌケなツラは、しゃぶりたそうなツラしやがって。ちゃんと俺の顔を見て傷を確認してみろよ。この顔のどこに傷があるんだ?」
そう言いながら、自分の頬をペシペシ叩く。
「それとも男のツラを見て発情したか? 残念だが俺はテメエ等みたいなホモじゃないんでな、ケツが欲しかったらとっとと帰って、後ろの全員と乱交でもして繋がってろ」
髑髏男に見せつける様に腰を前後にカクカク動かした。
「俺はホモじゃねえ! それに、き、傷なんてすぐに治る! そうだ、教会に行ったんだろ、そこで傷を治したに違いない!!」
正解。だけど、馬鹿正直に言う必要は全くないし、コイツには何を言っても無駄だと理解した。
「義兄さん、やっぱりコイツ駄目だな」
「だろ」
髑髏の男を無視して、義兄さんに話し掛ける。
「義兄さんもいつか子供が生まれても、過保護にだけは気を付けろよ」
「突然、何の話だ?」
義兄さんが首を傾げる。
「コイツ見てみろよ、可哀想に……親の愛情を受けすぎて性格も顔も下半身ですらひねくれてやがる。ここまで重症だと同情するね」
「全くだ、気を付けよう」
俺と義兄さんが髑髏の男を見て一緒に溜息を吐く。
「なあ、お前。一度心療内科に行ってセラピーを受けてみろよ。10分話しただけで医者が匙を投げ出して、「出てけ」って怒鳴りながら発狂するぜ」
「も……もう許さねえ!!」
「まて、ここで戦うのはマズイ! 衛兵が来る!!」
ガンガンに煽っていたら、髑髏の男がキレた。
腰の剣を抜こうとしたところで後ろに居た仲間が彼を羽交い絞めして、必死に止めさせようとする。
「離せ! コイツだけは許さねえ!!」
「許さねえのはこっちだ、ねじれクソ野郎。証拠もないのに人を散々アサシンと決めつけやがって。俺がアサシンだと最初に聞かされた時は驚いたぜ、その驚きをテメエの経験に例えて話をしてやる。いいか、良く聞け」
一度話を止めると、大声で一気にまくし立てる。
「最初の相手は学生力士の佐藤君、彼の得意はもろ手突き。
次の相手は柔道部の鈴木君、彼の寝技が最高です。
ラグビー部の水野君のタックルでイキまくり。
バレー部の小池君の後は、漫画研究会の越野君にゲーム研究会の藤原君をハシゴで3P。
シメは交換留学生のロドリゲス君。外人のデカマラは癖になる!
当然、地元じゃホモ専用ア○ル便座の公衆便所で有名人。
オラ! テメエがそんな噂立たれたら、どう思う? 何か言ってみろ!!」
最後まで言い切ると観衆から騒めきが消えた。どうやら全員ドン引きしているらしい。
「さすがね……ブラッドから話だけは聞いていたけど、口喧嘩をしたら誰も敵わないわ」
「うん。いつ見ても凄いね」
後ろからステラがとチンチラが小声で呟き、隣に居た義兄さんも「すげぇ」と同じように呟いていた。
「い、い、い……いい加減にその口を閉じろ!」
「What?」
聞こえない振りをして髑髏の男を煽る。
「ふざけんな、聞こえてるんだろ!」
「What?」
「決闘だ! 勝負を受けろ!!」
「What?」
目の前にコンソールが出て決闘の申し込みが出てきたが、速攻で「NO」を押してキャンセルする。
もう一度出た、またキャンセル。さらに出た、さらにキャンセル。
「逃げるのか、この野郎!!」
「What? What? What? What? ゴチャゴチャうるせえぞ、ねじクソ野郎。もうお前と付き合うのも飽きた。最後にテメエに送る言葉を一つくれてやる」
そう言って両方の中指を立てて前に突き出し……。
「Hell Yeah!!」
と叫んだ。
髑髏の男が羽交い絞めを振りほどき俺に向かって切り掛かる。
観衆からは悲鳴が後ろからは「危ない!」と声が聞こえた。
『バックステップ』
初手をスキルで後ろに下がりながら鞄に手を入れる。
髑髏の男がさらに袈裟斬りをしようと剣を振り下ろしてきた。
バン!
「はぁ!?」
俺が鞄から出したパイプ椅子で攻撃を防ぐと、相手は予想外の武器を見て驚き動きが止まる。
その隙にクルリと一回転して、勢いを付けたパイプ椅子を髑髏の男の頭に叩きつけた。
「ぐは!!」
椅子の攻撃を喰らった髑髏の男は「バーン!」という音と同時に、後ろへ吹っ飛んだ。
「ケイン! おい、しっかりしろ!」
ようやく名前が分かった髑髏の男に仲間が慌てて駆け寄る。
「オースチンはかく語りき、3章16節、『てめぇのケツをぶっ飛ばしたぜ』だ」
もう一度中指を立てると、パイプ椅子に跨ってケインという男を見下ろした。
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