第31話 柔らかいかりんとうはどう見てもアレ
翌日、リゾート地ラビアンローズに無事到着する。
アビゲイルの話だとしばらく滞在するらしいから、俺も適当にのんびり過ごす事に決めた。一人バカンス? 傷心旅行の気分で、心はセピア色さ。
前回ここに来た時はビーチだけで遊んだが、反対側の奥には少しだけ森が広がってい薬草などが取れるらしい。
財宝探しの時にポーションをガンガンに使って手持ちの在庫が1つしかないから、補給の為に森で薬の材料を採取する事にした。
それに『調合大全集』でスキルのレベルが足りなくて読めない箇所を、レベルを上げて読めるようにしたいという思いもある。
ラビアンローズの気候は、湿気が少ないけど日差しは強い。
いつものむさ苦しい陰気な厨二病スタイルは止めて、現地の人から借りた麦わら帽子にTシャツ、下はトランクス型の海水パンツと一体どこの田舎小僧だ? みたいな格好でブチブチと薬の材料を見つけては採取した。
ああ、一人は楽でいいな。自分だけに集中できるのが何より素晴らしい。
皆が一緒だと色々と会話が飛び交って各自で勝手な行動をするから、面倒臭さいし、正直ダルイ。
大体さ、気を使って均等に皆を見ていたのに、あの酒乱の馬鹿犬がチョット出番が少ないから増やせと酒の勢いで叫びやがって、仕方がないから出番を増やした結果、アホな行動しかしやしない。
酒乱にギャンブル好きとか、ただのロクデナシじゃねぇか! だけど、その相方も変態腐女子だからお似合いだよ、バカヤロウ。存在自体が公害レベルの夫婦だけどな。
それに、ベイブさんに焦点を当て過ぎたおかげで、他の皆の出番が減ったのも問題だ。
特にローラさんは現時点だとただの痴女だし……そろそろ何か言われそうだけど、彼女とは特に接点がないからこれまた難しい。
当分の間、ベイブさんは適当に放置しよう。なんて事を考えていたら、予定数の材料を採取したので戻る事にした。
ゲロポーションの作成は材料がないから今回はなし、毒霧もまだ在庫があるからこれもパス。
ポーション40個とマナポーション20個を作成。ついでに毒の補充も行う。ちなみに、作業は何時もと同じだから内容は割愛。
次に『調合大全集』で俺が作れる数少ないレシピから、ステータスアップの薬を作成する。
まだレベルが低いから微量だし効果時間も短いけど、地味にうれしい。だけど味が保障できないのは微妙。
まずレシピ通りに作ってみた結果、柔らかいかりんとうができた。
どうやらステータスアップの薬は固形物らしい。見た目はうんこ、どう見てもうんこ。
これは俺のセンスが悪いわけではなく、丸めたつもりなのに何時の間にかこの形になっていた。作った俺も意味が分からない。
しかもこのうんこ、各ステータスごとに色が異なっていて、筋力アップは茶色、体力アップは下痢気味の黄土色、敏捷アップは血便色の茶色い赤、知力アップは便秘気味の黒、器用アップはバリウムを飲んだ翌日の白。何これ、もうちょっとましな色にならなかったの? 正直、モザイクを掛けたい。
どうやら何時の間にか、ホモネタからス○トロネタへシフトしたらしいって、アホか!! ネタがどんどん下品な方向へ進んでいるじゃねぇか、タグにスカ○ロでも付けるつもりか?
今ならまだ間に合う、マジで軌道修正をしてくれ。スカ○ロ小説の主人公なんて死んでも嫌だ!!
だけど頭を抱えて散々唸っても、できた物はしょうがない。ため息を吐いて目の前のうんこを観察する…………これ食べるの? 俺、やだよ……。
散々悩んだ結果、本来あるべき場所へ戻す事に決めて、そのまま便器へ流した。
運営は調合でプレイヤーを強化する事に関しては拒否的なスタンスらしい。ポーションは不味さで、ステータスアップは見た目で使わせない方針なのか? 嫌がらせが下品だと思う。まあ、開発者が下品という事なのだろう。
ステータスアップの為にスカ○ロ耐性を上げるとか、こんなゲームは嫌だ……切実に嫌だと思う。という事でアレンジすることにした。
レシピ通りだと、リンカの実という見た目が茶色のきゅうりに似た果実の皮を剥き、実を潰してから粉砕した後、各ステータスアップの材料をぶち込んで固めるのだが、全部うんこの形になるという事はこの実が原因なのは間違いない。
色々と調べた結果、このリンカの実はどんな形にしても、時間が経つと自然に棒状になることが分かった。食べる前に排出する形にしましたって感じか? 気が早いにも程がある。
まずは色よりも棒状の形を何とかすることにした。
茹でてみた結果、棒状から巻き状に悪化した。
焼いてみた結果、爆破した。そのまま海に突入して体を洗った。海パンに着替えていて良かった。
乾燥してみたら、3日放置した乾燥状態の猫の糞に見えてきた。
何、このチャレンジ動画シリーズみたいな展開は、俺、全裸で腐った卵や毒きのこなんて食べないぞ。
これで手は尽くしたけど、どうするかな……。
いや、待てよ。最後の乾燥したやつは使えるんじゃないか? これを粉砕すれば粉薬として騙せ、いや、いける!!
干からびた猫の糞を粉々に砕いて、薬包紙は……ないから適当な紙に包んで完成。
粉末にしたら嫌だった色も気にならな……やっぱりちょっとだけ気になった。
さてこれを飲むわけだが……若干抵抗があるけど……薬と思って我慢した。
器用アップの白い粉末を水と一緒に飲むと、特に味はしなかった。
取りあえずうんこ味がしなくて安堵する。うんこの味なんて知らないけどね。
コンソールを開いてステータス画面を確認すると、器用に+5のボーナスが付いていた。
時間を計測すると10分ぐらいで効果が切れた。
次に効果が重複するかの実験を行う。
今度は敏捷アップの薬を二つ同時に飲んでみた。再びコンソールを開いて確認すると、残念ながら敏捷は+5のボーナスしかなかった。
重複はなしか……だったら、別のステータスアップはどうかな?
敏捷効果が継続している状態で筋力アップの薬を飲んで確認すると、敏捷のボーナスが消えて、代わりに筋力にボーナスが付与されていた。どうやら効果は一種類限定らしい。
これポーションに事前に入れとけば、回復と同時にステータスアップにもなるかも……。
という事で、ポーションを一つ取り出して体力アップ薬を入れると、普通のポーションが【ポーション+体力アップ】と表示されて変わっていた。恐らく俺の予想通り成功したのだろう。
飲んでコンソールで確認すると体力に+5が付いていた。
よし、イケる! 俺、天才じゃね?
タンク用にいくつか作ろうと、もう一つポーションを取り出して同じように薬を入れた後、蓋を閉めた処で今度はポーションが消えた……ふむ? 原因が分からずしばらく考えていたけど、何となく答えが見えてきた……。
錬金の瓶は一度開けたら捨てても消えるんだっけ……蓋を閉めても消えると考えれば辻褄が合う。
つまり、最初のポーション作成段階でステータスアップの薬を入れないと駄目ってことだ。
今回は既にポーションの作成は終わっているから、作成は次回からにしよう。本音を言えば、これ以上のポーション作成がだるくなっただけとも言う。
できた薬を見て現実と同じように薬漬けになっている気がしたが、気にしたら負けと思うことにした。
後は実験で出来上がった巻き状になっている、茹でたリンカの実を捨てようとしたところで……あれ? 俺が嫌だって事は敵も嫌がるんじゃね? と頭の中で閃いたけど、ゲロポーションの次は糞トラップか……正直言えば、こんな品のない発想ばかり思い浮かぶセンスに自分の知性を疑う。
本当、一度病院に行った方が良いかも。ああ、もう入院していたわ。
汚いと思いつつ、普通に作ったいくつもの筋力アップの薬を鞄に入れた。筋力アップにした理由は一番うんこに見えるから。ただそれだけ。
コンソールのアイテム欄を見ると、収納した筋力アップの名前が筋力糞になっていた。
ゲーム公認のうんこと思って良いのだろう……ああ、最低だな。
大量のうんこを作り終わったところで、気が付けばいつの間にか日が沈んで夜になっていた。長かったくそみそテクニックもこれで終了。
アビゲイルやヨッチ、レッドローズ号の船員達と一緒に夕食を食べていたら、義兄さんからメールが届いた。
どうやらわざわざ一度ログアウトして、ブラックリストに入っていない別のメールアドレスを使って送ったらしい。
メールを読むと冒頭に謝罪が書かれていた。その次に緊急事態が発生したから、至急、姉さんに連絡して欲しいという内容だった。パシリ乙。
謝罪はどうでも良いけど、緊急事態が気になる。ブラックリストを解除して姉さんに連絡を取った。
≪姉さん。義兄さんから連絡があったけどどうしたの?≫
≪あ、やっほー、レイちゃん。その……まだ怒ってる?≫
≪俺も遅れてログインしたし、そんなには怒ってないよ。だけど皆との溝は生まれたかな≫
皆と俺の信頼関係に深い亀裂が生っまれったよ~。
≪そう……こっちも配慮が足りなかったわ。ごめんね≫
≪もう良いよ。俺から溝を埋めるつもりはないから、姉さん達で時間をかけて埋めてね≫
≪了解。皆にも伝えとくわ≫
ずっと怒るのも面倒くせえ。姉さんを経由して皆にも反省してもらうことにした。
≪それで緊急事態とか書いてあったけど、何かあったの?≫
≪今日のお昼にスコットが来たの≫
スコット? 誰だっけ? …………ああ、盗賊ギルドのチョイ悪おやじか、久しぶりだから忘れていた。で、あのおっさん何しに出張って来たん?
≪あのおやじ、姉さんの手紙に金の匂いでも嗅ぎつけたか?≫
≪そうね。あの人が貸しだけで動くとは思えないし、コトカで一儲けするつもりだと思うわ≫
≪という事は……海賊の一掃が狙いかな?≫
≪さすがレイちゃん、話が早いわね。調合ギルドの時に関係を持った貴族がコトカの領主と別の派閥だったのも幸いして、事がスムーズに動いたわ。
スコットの工作で領主は孤立。後2、3日もしたらアーケインから来る騎士団に逮捕される予定よ。だけど、スコットが言うには領主にもアーケインでの行動がばれちゃったらしいわ≫
≪2,3日か……間に合うかな?≫
≪微妙な処ね。目の前に海という逃走手段があるのに使わない理由はないし、間違いなく船に乗って逃げるわ。そして逃亡する先は……≫
≪……片耳か≫
≪違うわ。ブリトンよ≫
あれ? ブリトン国は海流が乱れているせいで渡れない筈だったけど?
≪もしかして海流の異常ってもう治まってるのか?≫
≪まだよ。んーまず順に説明するわね。
まず片耳への逃亡だけど、レイちゃんがやった偽装工作から片耳の所へ行ったとしても彼は処分されるだけよ。
次にブリトン国への逃亡についてだけど、どうやら海が荒れた原因に領主が絡んでいるらしいのよね≫
≪何それ?≫
≪んーとね。シリウス君が掲示板を見て調べてくれたんだけど、領主が岬にある祠を荒らしたことが原因で、海流が乱れたと言ってたわ≫
≪現実でも、ゲームでも、欲の突っ張った爺って奴は碌でもない事しかしないな≫
≪ふふふ、仕方がないわよ。そうやってでしか生きてこられなかったんだから≫
≪それで、そのクソ爺を捕まえるのと緊急事態の繋がりが分からないんだけど、俺に何をやれと? 財宝の件で目立ったって聞いたから、正直言うとこれ以上は遠慮したいね≫
目立ってPKに襲われて死亡とか、洒落にならん。
≪目立ちたくないという意見には私も同意見よ≫
≪まあ、俺はこそこそ隠れて目立つのは異邦の11人に任せるけどね≫
≪何言ってるの? レイちゃんだって謎のアサシンとして有名よ≫
≪何それ怖い≫
≪だって最大6人パーティが二組なのに異邦の11人って、一人足りない時点で違和感あると思わない?≫
≪……まあね≫
≪残りの一枠に実はアサシンって噂が既に挙がっているわ。本当の事なんだけどね≫
≪俺、ギルド抜け……≫
≪却下よ。でも安心して、まだアサシンがレイちゃんなのは気づかれてないから≫
安心できねぇ……。
≪まあ、それは置いといて話を戻すわね≫
あれ? 俺にとって結構重要な問題なんだけど置きますか? そうですか……。
≪プレイヤーの皆も領主を捕まえようとしているらしいけど、まだコトカの実権を握っているのは領主だから近寄る事もできないの。取り敢えずコトカに居るプレイヤーが集まって彼を捕まえようと港は封じているわ。だけど海に出られると船がないのよ≫
≪船がない? 港に行けばそこらじゅうにプカプカ浮いてるじゃん≫
≪それがね、領主を恐れてどのNPCも貸してくれないの。無理やり奪おうとしたプレイヤーも居たんだけど町の衛兵に捕まったわ。だからアビーちゃんにお願いして船を出してもらいたいのよ≫
アビーちゃん? 誰だよ、それ……まあ、心当たりは一人しか居ないけど。二十歳過ぎてアビーちゃんはねーわ。
俺がアビーちゃん……似合わねぇ、アビゲイルを見ていると向こうも俺の視線に気が付いたのか、俺を見て首を傾げた。
「何だ?」
「アビーちゃん。やっほー♪」
『ブーーッ!!』
アビゲイルに向かって手を振ると、彼女を含めてその場に居た全員が口に含んでいた酒や食べ物を噴き出していた。
何か俺に対する抗議が聞えたけど無視して、姉さんと会話を続ける。
≪つまり纏めると、領主が逃亡する前に奴をとっ捕まえて、海が荒れた原因を何とかしないとゲームの進行が止まって、プレイヤーから不満が上がり、運営がクレームで困るって事かな? だったらなおの事ほっとけ≫
≪そうしたら他のプレイヤーからニルヴァーナが叩かれるわよ≫
≪何でだよ≫
≪だって
≪そもそもギルドが所有している船じゃないじゃん≫
≪そんなのは他のプレイヤーからしてみればどうでもいいのよ。いくら説明したって、私達が船を所有しているという認識しか持たないんだから≫
≪面倒臭いね≫
≪妬み、僻み、恨み。ネットゲームは人間の本質をむき出しにするわ。だけどそこが良いじゃない♪≫
本気で何が良いのか分からない。そして、姉さんの好みが完璧な性格より多少、屑な性格の方が好きなのだと分かった。
三段論法で言うと、姉さんは屑が好き、姉さんの夫は『藤代 良一』。つまり義兄さんは屑……納得である。
≪と言う訳で、レイちゃんはアビーちゃんを説得してレッドローズ号を出してね≫
そう言い残して姉さんがチャットを閉じた。
説得ね……まあ話してみるか……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます