第18話 ノンタイトル兄弟喧嘩マッチ

 皆が暴れている中、俺はステルスで身を隠して敵船へ忍び込もうとしていた。

 敵船の甲板に降りても姿を消しているおかげで誰にも見つからなかったが、姉さんの放ったアイスボールが顔の横をすり抜けた時は、正直言って死ぬかと思った。

 二回目に飛んで掠った時は、本当に俺が見えてないのか疑った。

 三回目に飛んで当たる寸前に躱した時は、俺の何が悪かったのかを後で聞こうと思った。

 戦場と姉さんの攻撃を避けて船内に入るのと同時に、本当にほっとした……特にあの魔女から逃げられたのは奇跡に近い。




 船内に入ると予想通り白兵戦で敵は出払っている様子だった。

 当初、船の火薬庫を目指して爆発させようと思ったけど、忍び込んでから「これって自爆じゃね?」と思って計画は止めた。さすがに自ら汚ねえ花火になるつもりはない。

 火薬が駄目ならと考えた結果、毒をばら撒こうと思い至った俺は、テロリストになれる資格があると思う。


 音を立てずに、人の気配をスキルを使って確認しながら奥へと進む。

 狙うは食堂と食糧庫。俺の作る毒は味がしないという婆さんから伝授されたオリジナルだから、飲み水と食べ物に混ぜても見つからない。

 戦闘が終われば疲れた後の渇きを癒やそうと水を飲む。そう考えて、飲み物への毒混入は確実にやりたい。

 ふっふっふっ。思考と手段がまさに外道。だけど、そんな卑怯がとっても大好き。




 狭い廊下を進んで、食堂と書かれた扉の前まで到着する。

 廊下から中の様子を伺うと、奥の厨房にコックらしきドワーフが一人居た。

 ドワーフが背中を向けている間に、扉を静かに開けて食堂へ侵入。近くにあったテーブルに向かって、前転しながら移動して少しずつ彼へと近づいて行った。


 前転の理由は特にない。

 しいて言うならば、前にやった別のゲームでキャラがスタイリッシュなアクションでスニークプレイをしていたから、そのマネをしたかっただけ。

 だけど、このアクションで静かに移動ができたから、ゲームと言えども役には立った。そして、ゲームが犯罪の促進につながるという世論にも納得した。


 テーブルの下からひょっこり顔だけを出して確認すると、中年のドワーフは甲板の戦闘を他所に何か料理を作っていた。

 ドワーフはボサボサの髪に無精髭。茶色ずんだ肌着の上から、いつ洗濯したのか分からないほど汚れたエプロンを身につけて鍋の中身を回していた。


 汚い身なりだけど、料理をしているという事は間違いなくコックだと思う。

 もしかしたら料理の味は良いかもしれないが、あんな不潔な格好をしたコックの料理なんて食べたくねえ。

 あれならまだジョーディーさんが作る料理の方が……いや、あのチビが作るのは料理じゃなく毒だった。


 食堂をしゃがみながらテーブルの間を抜けて、コックの背後へと近づく。

 厨房は汚い食器が乱雑に置かれて、食器の上で数匹のハエが飛んでいた。衛生管理がなってないけど、これって毒入れる必要なくね?

 だけど、汚い食器のまま食事はしないだろう。それに、海賊共は存在自体が不潔だから、既に免疫だってありそうだ。


 まずはコックを倒そうと、鞄からポーションを取り出して背後に忍び寄った。




 ゴン! と一発ポーションで高等部をぶん殴る。


「ぐは!」


 ん? 気絶しないな。

 ポーションを捨てて、近くにあった油のこびり付いたフライパンを手に持った。


 ガン! ガン! ガン! ガン! ガン!


「ぐほ! 痛て! やめ! ぐげ! …………」


 ドワーフだから体が頑丈だったらしい。一回で気絶しなかったから、何度もフライパンでぶん殴りドワーフを気絶させた。


 フライパンを捨ててポーションを拾う。

 次に、飲料水が入っている樽を見つけて蓋を開けた。取りあえず体力毒と筋力毒を入れとこう。

 魔力毒を入れてもアイツ等は猿並みの知能だから、魔法なんて使わないだろう。ウキッ?


 どぼどぼどぼ。


 これでよし。ついでに別の樽にも酒が入っていたから、こっちにも体力毒を御裾分け。


 気絶したドワーフの足を掴んで引き摺りながら食堂を出ると、近くにあったトイレにドワーフを捨てた。

 ついでに、トイレに糞とションベンが入ったバケツが三つあったから、蹴飛ばして床で気絶しているコックにぶち撒ける。


「あばよ、クソコック」


 名実共にクソコックなドワーフに別れを告げて、食糧庫へと向かった。




 ん? 一般人が居る。


 食糧庫を探していたら海賊とは違う生命反応が見つかった。なぜ分ったかというと、海賊は俺と敵対しているから危険感知スキルも反応して赤になる。

 だけど、今俺が感知しているのは生存術の青だけだった。

 海賊船に一般人。考えられるのは人質か、人質か、人質か……どう考えても人質しか居ねえよな。


 今忙しいんだけどなぁ……この後も財宝を見つけなきゃいけないし……よし、女だったら助ける。男だったら自分で何とかしろ!

 食糧庫に向かうのを後回しにして人質が居る部屋へと向かった。


 人質は爺と幼女でした。

 爺と幼女は船底の鉄格子のある部屋で、二人一緒に閉じ込められていた。

 幼女は3歳か4歳ぐらいの金髪美幼女。美幼女という単語があるかは知らないが、俺は幼女を強調したい。

 幼女が着ている服は豪華で貴族の娘っぽい感じがする。チョー可愛い!


 そして、爺は白髪でやたらと体付きが良かった。鎧を着たら老騎士になりそうだけど、今はズボンだけ履いるただの爺。

 爺だけだったら放置したのに、幼女だけ助けても爺が付いて来そうじゃねぇか。

 まあ、爺と幼女。天秤に掛けたら間違いなく幼女を優先という事で、二人を助ける事にした。


「誰だ!」


 部屋の入口で悩んでいたら爺が大声で叫んだ。

 ステルスを切ってないのに爺が俺をどうやって見つけたのかは知らない。もしかしたら、この爺は生存術のスキルを持っているのかも……。

 だけどその前に……そっと鉄格子に近づくと、小声で爺に話し掛ける。


「黙れ! 海賊に見つかる」

「うっ……すまん」


 注意すると爺もハッとして小声で謝った。

 ちなみに、以前もどこかで語ったが、俺のステルスはレベルが上がって小声なら解けなくなった。

 幼女の方は俺の姿が見えないのに声が聞こえて怯えている様子だった。怯えた姿もいいね。やべえ、エロおやじと化しているじゃねぇか。


「助けに来たのか?」

「いや、この船が襲って来たから逆に襲ってる。ここに来たのは偶然だ。助けが必要か?」


 俺が確認すると爺が頷いた。


「是非! 是非、頼む!」

「しっ、声が大きい」

「ぐぬぬ。すまぬ」


 幼女の「ぐぬぬ」は可愛いけど、爺の「ぐぬぬ」は若者にやり込められたクソ爺。

 この爺さんは強そうだし、俺が幼女を護衛する必要はなさそうだ。カギだけ開けて後は自分で何とかしろ。


「俺は他にも用がある。ここの鍵だけは開けてやるから甲板へ向かえ。そこで、俺の仲間が海賊と戦っているから、後はそいつらに頼むんだ」

「分かった」


 爺が俺の指示に頷く。

 交渉が成立すると、鉄格子の扉に近いて鍵穴にロックピックを入れる。

 作りが悪かったのかロックピックを入れて、チョット動かしただけで簡単に鉄格子の鍵は開いた。


「……良い腕だ」


 爺に褒められても嬉しくない。それ以前に犯罪を褒めるな。

 無言でステルスを解除して二人に姿を現すと、腰に下げているスティレットを爺に渡す。


「これを使え。突き刺し専用の武器だが、ないよりましだろう」

「何から何まで助かる。せめて名を聞かせて貰えぬか?」

「お互い無事に逃げたら教えるよ」

「うむ、分かった」




 爺が幼女を連れて部屋から出て行くのを見届けてから、義兄さんに連絡を入れる。


≪義兄さん、聞こえる?≫

≪ちょっ!! レイか!? 今戦闘中だぞ!≫


 うはははははっ。ザマァ、見ろ!

 俺だってクソ忙しい時に通信受けて大変だったんだ、少しは思い知れ!!


≪今、敵船の船底にいるんだけどさ≫

≪はぁ? 何でそんなところに居るんだ!? うお! チョット、タンマ!≫


 ああ、うん、待機していろと言ってたのに、敵の奥深くに居たら誰でも驚く。

 そして戦闘中にタンマはないと思う。


≪まあ、それは後で話すよ。それよりも海賊に囚われていた人質を救出したから、甲板に上がったら保護して≫

≪なんだと? 分かった。特徴は?≫

≪上半身裸で逞しい爺さんと、小っちゃい幼女の二人≫

≪分かった、保護すれば良いんだな。それで、レイは一緒に戻るんだろうな≫

≪あ、俺はもうちょっと後で行くから、それまで時間稼いでね≫

≪何? おい、待て、クソ! 邪魔するな!!≫


 最後のは海賊に向けたセリフか? 忙しそうだね。


≪よろしく~≫


 返信が来たら面倒だし、そのままブラックリストへポイッ!

 俺も部屋を後にして食糧庫へと移動。食糧庫は爺と娘が捉えられていた船底の別室にあった。

 そして、全ての樽に体力毒をどばどば入れて任務完了。

 後は逃げるだけだと、ステルスを解除して甲板へと向かった。




 途中で海賊に出会う事なく無事に甲板に出る。

 戦闘はまだ続いていたけど、敵の海賊の数は減っていた。どうやら、海に落とされたらしい。今日もスマッシュパイレーツは絶好調。


「ここにも敵が居るぞ!」


 おっと、様子を見ていたら敵に見つかった。

 海賊が俺に切り掛かろうとする。腰のスティレ……ああ、爺に貸したか。


「ちょっ、待て、待て! 俺は敵じゃない!」


 切りかかられる直前、両手を突き出して左右にぶるぶる振って命乞いをする。

 昔居たリック・フ〇アーというプロレスラーのものまね。

 俺が命乞いをすると、海賊が振り下ろそうとしたシミターを途中で止めた。


「……何だと?」

「考えてみろ、何で敵が船内から出て来るんだ」

「言われてみれば確かにそうだな……で、お前は誰だ?」


 目の前の海賊が武器を降ろす。相手が馬鹿で助かった。


「ジョン・スミスです」

「……誰?」


 海賊が首を傾げた瞬間、腹に蹴りを入れる。


「ぐふっ!」


 くの字に降り曲がった処を一歩踏み込み片足だけで半回転しつつ、肩に海賊の顎を乗せると同時に甲板へ尻餅を付いた。


「ぎゃっ!」


 高速スタナーを食らった海賊が仰け反って倒れ、顎を押さえて床を転がる。


 直ぐに起き上がり、レッドローズ号へ向かって走る。海賊の間を抜けて、ついでに敵と勘違いしたヨシュアさんのシールドバッシュをひらりと躱して、さらに敵と勘違いしたゴンちゃんのストレートパンチもギリギリ避けて……怖えぇよ……タラップを跳ねるように飛んでレッドローズ号に到着した。




「たっだいま~~」


 レッドローズ号に戻ると、爺と幼女はレッドローズ号に無事保護されていた。

 姉さんが勝手に飛び出した俺を怒ろうとしたけど、今は報告が先。


「姉御!」

「アビゲイルだ!」

「敵船に潜り込んで飲み水に毒を仕込んだ!」

「何だと!?」


 俺の報告にアビゲイルだけでなく、レッドローズ船に居た全員が驚く。


「水に入れて薄まったから効果は低いけど、このまま俺達を追いかけるのは不可能だ」

「分かった。こっちの被害が出る前に撤収するぞ!」


 報告を聞いてアビゲイルが命令すると、レッドローズ号から銅鑼が鳴り響く。

 そして、敵船に居た義兄さん達が銅鑼を聞き慌てて戻って来た。

 全員を回収すると、レッドローズ号はラムと鎖を切り離して、敵船から離れた。


「一体どうしたんだ? 全滅させないと追って来るんじゃなかったのか?」


 義兄さんがアビゲイルに向かって叫ぶと、彼女が落ち着けと宥める。


「アサシンがマークスの船の飲み水に毒を入れて来たらしい」

「本当か!?」


 義兄さんの質問に頷き返す。


「毒は体力毒。特別製だから無味無臭で気が付かれる可能性は低い。水で薄まったとしても、飲めば少しずつ体力が減ってくか、全員分の毒消しがなければ拠点に帰ると思う」


 俺の報告に、全員がえげつねえと顔を引き攣らせる。


「という事だ。戦況は有利でも被害はできるだけ抑えたい。追跡される心配もないから撤収した」

「分かった、それなら問題ないだろう」


 俺とアビゲイルの説明に義兄さん達が納得していた。


「だけど……ちょっと来い!!」

「え?」


 突然、義兄さんが俺を睨んで詰め寄ると、俺の襟を掴んで引き摺った。




 義兄さんは誰も居ない場所まで行くと掴んだ襟を乱暴に離し、その勢いで半分つまずく。


「レイ、何でこんな無茶をした! お前は自分の命を安く見過ぎている!!」


 迫力に怖気づいたけど、今従ったら何時まで立っても守られてばかりだと思う。

 それに、守られてばかりというのは気に入らねえ。


「俺は言ったはずだ。他人に命を預けるぐらいなら、血反吐を吐いても戦うって。俺は戦闘に特化していないけど、戦うことを止めるつもりはない!」


 捕まれた襟をパンパンと払い、負けじと義兄さんを睨み返す。


「……クソ! ……何で!! 何で、零だけこんな目に遭わなきゃいけないんだ!!」


 義兄さんの心配する気持ちが重く圧し掛かかる。


「……俺を守りたいという気持ちは知っているつもりだ」

「だったら何故!!」

「……最後まで話しを聞いてくれ!」


 穏便に済まそうと思っていたが、感情が高ぶりに意図せず大声で言い返す。


「俺は義兄さんが俺を守りたい様に俺も皆を守りたい! それが一番助かる道だからだ! だから義兄さん、生きるために俺を戦わせてくれ!!」

「お前は俺と綾、そして皆の気持ちが分ってない!!」


 話しに納得いかない義兄さんがいきなり俺に殴りかかってきた!


 はぁ? ざけんなよ!


「分ってないのはそっちだ!」

「何!?」


 首を傾けるだけで拳を躱すと、避けられると思わなかった義兄さんが目を見開く。

 反撃に躱した流れで体を半回転させて、背を向けてからカウンターのダイヤモンド・カッターを撃とうとしたが、背中を押されて前に押し出された。


「一度喰らった攻撃を、二度は喰わん!!」


 クソ、あの犬のせいで攻撃を防がれたじゃねえか!!

 二、三歩前へたたらを踏んで振り返ると、また義兄さんの拳が飛んできた。


「うおっと!」


 今度は体を低くして避けると、突き出された腕を掴んで関節を捻る。しかし、義兄さんは力任せに俺の体を振り払って強引に解いた。

 切れた義兄さんが反撃に、重心を下げて本格的に殴りかかってきた。

 駄目だ、コイツ怒りで我を忘れてやがる!! テメエは何処かの王蟲か?

 体をひねって避けつつ、『バックステップ』で義兄さんの横に飛ぶ。一旦離れて体勢を整えると、義兄さんの膝目掛けて低空ドロップキックを放った。


「無駄だ!!」


 義兄さんが盾をガンッと甲板に突き立て、膝をガードし低空ドロップキックが盾に防がれた。

 倒れて無防備になった俺にストンピング攻撃が飛んでくる。

 とっさに後転。起き上がってすぐ追撃の拳が飛んできたが、『バックステップ』を利用したバク転でかわす。

 義兄さんの拳が俺の鼻先を、バク転中に狙った俺の蹴りが義兄さんの顎をわずかに掠めた。


「凄い……」


 誰が誰に言ったのか知らないが、何時の間にかレッドローズ号に居た全員が俺と義兄さんの周りに集まって観戦していた。


 だけど、これが盗賊回避スキルの効果か……。

 義兄さんのガードともベイブさんのパリィとも違った、攻撃を避ける事に特化したスキル。

 体が自然と動き、義兄さんの攻撃をトリッキーな動きで全て躱していた。


「避けるな!!」

「スキルが勝手に発動するんだから、仕方がないだろ!」

「一発ぐらい殴らせろ、示しがつかん!」


 そう言うと同時に拳が飛んでくる。


「テメエの自己満足だけで殴られてたまるか、脳筋野郎!」

「黙れクソ野郎!」


 拳を避けてカウンターのエルボーを義兄さんの顔面に向けて放つが、盾で防がれる。


「クソ! ライノの野郎を思い出す避け方をしやがって……」


 その後も、殴りかかってくる義兄さんと、カウンターで返す俺の攻撃が繰り返されたけど、お互い有効打が出せないまま攻防が続いた。




 戦いがヒートアップし始めると、最初は面白そうに騒いでいた野次馬は、あまりの白熱ぶりに静まり返っていた。

 本気で理性がぶっ飛んだ義兄さんがソードを抜き、俺も左手にキコの実グミ、右手にサブウェポンのナイフを握る……。


「『アイスルート』」


 お互い飛び掛かろうとする寸前、俺と義兄さんの足元が凍り付いて身動きが取れなくなった。


「うわっ!?」

「何だ?」

「二人とも、いい加減にしなさい!」


 俺と義兄さんが振り向くと、姉さんが俺達を睨み付けていた。


「良ちゃん、当初の目的を忘れて、ただの喧嘩になっているわ!」

「うっ!」

「レイちゃんも勝手な行動を取ったんだから、怒られて当然よ!」

「……はい」


 姉さんの剣幕に押されて、俺と義兄さんは尻込みしていた。


「だけど!」

「良ちゃん、話を聞いて!」


 義兄さんが何かを言おうとするのを、姉さんが制止する。


「確かに私もレイちゃんの勝手な行動には腹が立ったわ。だけど、考えればレイちゃんがやったのは一番有効な手段なのよ。

 敵は私達が乗り込んで甲板に出ていたから、船内に敵は少なかったし、追って来ないように毒を入れる方法も有効だわ。そこまで計算して私達の為に忍び込んだの」


 ……姉さんゴメン。そこまで考えてなかった。だけど口には出さない、それが利口な生き方だから。


「……確かにそうだが。もし、レイに何かあったらどうするつもりだ?」

「もちろん考えているわよね」


 姉さんが俺の方を見る……えっと……。


「……普通に降参して捕まるよ。その後、隙を見てログアウトかな」


 その場の思いつきで適当に嘘をつく。


「ね。考えなしの行動じゃないでしょ。良ちゃんの守りたいという気持ちは私も嬉しいけど、レイちゃんの才能を殺しているわ」

「俺がレイの才能を殺している……?」

「そうよ。今までの事を思い出して。地下墓地カタコンベやゴブリンの洞窟、盗賊ギルドとの戦い。その全てでレイちゃんが機転を利かせなきゃ、私達は全滅していたはずよ」

「確かにそうだが……」

「レイちゃんには才能が有るの。それはスキルや能力とは関係ない、常人とは違った予想外の発想と閃き……天才と言っても過言じゃないわ」


 姉さんが俺の事を褒めると、ベイブさんやジョーディーさんも「うん、うん」と頷いたけどさ……凄く恥ずかしいんですけど、できれば人前でそんなに褒めないで。

 姉さんの説得に、義兄さんが武器をしまうって言うか、武器まで抜いて本当にどうするつもりだったんだ? ゲームで殺しても名探偵だって立証できないから、完全犯罪成立しちゃうけどさ、死んだらマジで祟るよ。


「……俺にはどうしたら良いか分らない……しばらく考えさせてくれ」


 そう言い残して義兄さんはこの場を去って行った。


「レイちゃん」


 義兄さんの後姿を見送っていると、姉さんが話し掛けてきた。


「今回の事は目をつぶるけど、次からはきちんと相談してから行動してね」

「姉さんはいいのか? 俺が勝手な行動をしても……」

「良くはないわ。でも生きて戻ってくるって信じることにしたの。レイちゃんは約束を破るマネはしないわよね」

「当然じゃん。俺だって死にたくないし」

「だったら良いわ」


 そう言って、姉さんもこの場を後にする。

 取り残された俺は野次馬が見ている中、一人佇んでいた。

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