第8話 三枚の地図

 『シーフ』の扉の前に立つ。

 ああ、姉さんに怒られるんだろうな。正座させられて小一時間ぐらい説教を食らうんだろうな。それを考えると、店に入らず、どこかに逃げたい、ログアウトしたい、アカウント消したい。


「入らないのか?」

「いや、入るよ」


 背後のアビゲイルに答えると店の扉を開けて中に入る。

 狭い『シーフ』中は人で溢れていて、店のマスターは定員オーバーの人数に困っている様子だった。


「……レイ!!」


 入ると同時に、店の中に居た全員が俺を見て大声を出す。


「お姉ちゃん!」

「リック!!」


 俺の横に居たリックが店の中で居心地が悪そうなフランを見つけると、走り出して彼女に抱きつき大声で泣いていた。リックに驚いたフランも彼の頭を撫でながら同じように泣く。

 求めるのは金でも名誉でもない。人の幸せを見る事が一番の報酬だと思う……今のセリフ良いだろ。ちょっと自分でも良い事言ったと思っている。




 フランとリックに近づいて二人の肩を叩くと、鞄からリックの指輪を取り出した。


「ほら、リック、約束の指輪だ。もう盗まれるなよ」


 リックの手のひらに指輪を置く。


「レイさん。ありがとうございました」

「レイ。本当にありがとう」


 お返しにリックの頭をぐりぐり撫でると、リックは嬉しそうに俺に笑みを向けた。


「……これが男の娘なのね。本物を初めて見たけど素晴らしいわ」

「早く本を完成させましょう!」


 変態チビ! 感動の場面なんだから自重しろ。そしてアルサ、お前も同意してんじゃねぇよ。


「レイちゃん」


 ドキッ! 恐る、恐る、姉さんに顔を向ける。姉さんは俺を睨んでいたけど、何かを諦めたように首を横に振った。


「いろいろ言いたい事はあるけど、この子達を助けるためにやったのね」


 そう言ってフランとリックを慈愛を込めた瞳で見ていた。俺は頭を上下にブンブン振って頷く。


「だったら仕方がないわ、許してあげる。だけど忘れないでね。私達もレイちゃんが心配なんだから」

「姉さん、ごめん」


 俺が謝ると姉さんが肩を竦めた。


「もういいわ」


 ヨッシャーー! 何の気まぐれか許してもらえたぞ、ラッキーー!! おっと、感情が漏れる。しょんぼりしとこう。


「あーーレイ、その……すまん」


 姉さんとの会話が終わると、義兄さんが謝ってきた。何をやらかした?

 心当たりが有りすぎるけど、彼はその全てを自覚していないから全く予想が付かない。


「レイがゲームで死ぬ事がバレた」


 は? お前ログインしてたった数時間でバレたのか?

 周りの様子を見れば皆が俺の事を心配そうに見ていた……チンチラなんて心配のし過ぎで顔が青ざめていた。

 その様子は、モデル撮影と聞いて撮影所に行ったら、エロ動画の撮影だと知った女優と同じ。


「俺は隠している心算つもりだったんだが、レイとのやり取りを見てすぐにバレたらしい……悪い……」


 早えーよ、早漏。挿入する前に一発出して持久力を上げるタイプか?

 どうやら、義兄さんに演技しろと言った俺が馬鹿だったらしい。ああ、馬鹿さ。考えてみろ脳筋に演技ができるか? できるわけがない!


「義兄さん、もういいよ。バレちゃったなら仕方がないし……」


 溜息を一つ吐いて許す事にした。叱っても無駄だから諦めたとも言う。


「それでこの人は誰だ?」


 ベイブさんがアビゲイルを見て俺に尋ねてきた。


「この人は海賊で姉……」

「アビゲイルだ」


 俺の返答をアビゲイルが被せて「姉御」に訂正を入れた。


「それでレイは何をしていたんだ? こいつに聞いても何も話さないから、全然わかんねーよ」


 ブラッドがフランを指差すと彼女が睨み返す。どっちも気が強いから馬が合わなそうだ。


「はっ! べらべら喋る女より、お淑やかな女の方が良いじゃねぇか。それともあれか? お前ってヒスな女が好みか?」


 俺が隠れてステラを見ながら茶化すと何人かが笑っていた。


「チョッ、馬鹿。そういう意味じゃねぇよ」


 ブラッドが顔を赤らめて騒ぐが無視。案の定、後でシャムロックさんに怒られていた。


「フラン、それにリックも聞いてくれ。リックがまた誘拐されないためにも、ここに居る全員に協力を得ようと思っている。今までのことを全部話すけど構わないか?」

「……レイが言うのなら信じるよ」

「レイさんの知っている人達だったら信じます。よろしくおねがいします」


 二人の同意が得られたから皆にも協力してもらおう。まあ、宝と言ったら飛びつく人達だから、拒否はないと思っている。


「姉御、権利書はちょっと待ってくれ。どうやら事情を説明する必要があるらしい」

「アビゲイルだ。ああ、構わない。ゆっくり酒でも飲んで待つさ」


 アビゲイルは唯一空いていたカウンターの椅子に座ると、マスターから酒を注文していた。

 そして、ベイブさんが酒を羨ましそうに見る。さらに、それを見てジョーディーさんがベイブさんの足を蹴とばす。何時ものコンボが入っていた。


 ……空いている席がねえ。

 仕方がないから、マスターの了解を得てカウンターに入ると、全員に昨日から起こった騒ぎを語った。




 初めは普通に聞いていた皆だったが、直ぐに笑い出した。ああ、そうさ、俺が女装した場面の話だよ。

 ブラッドが「嘘だ……あの美人が……」とか、ステラも「あんな美女、世界中のどこにも居ないわ」とぼやいていた。

 ブラッド! 何でお前はそんなにほっとした表情を浮かべている。抜こうとしたのか? 俺の女装を見て下半身をしごこうとしたのか?

 その二人の様子を見て、他の皆が俺の女装を見たいと言い始めて……。


「これがそうかな?」


 ネットをいじっていたシリウスさんが、一枚のスクリーンショットを全員に公開した。


 嫌ーーーー!!


 スクリーンショットには他のプレイヤーが撮った、リックを背負った俺がSNSで公開されていた。俺の肖像権はどこだーー!!


「わはははははははっ」


 そのスクリーンショットを見た全員が腹を抱えて笑い出す。

 アビゲイル、お前は自重しろ。やったのはてめぇの母ちゃんだろ!!


「さっきネットを調べていたら見つけてね。どこかで見たことがあるなと思ったら、やっぱりレイ君だったか。あはははははっ」


 シリウスさんが笑いながら俺にも写真を見せるが、お前、軽く公開処刑しているから、それ。

 スクリーンショットを見れば、凄い美人……俺がリックを背負って歩く、凄くシュールな一枚だった。




 女装について散々弄られた後、深夜の犯行について話す。何となく自白している気分。

 例のプール・・・・・の話をすると、それを知っている大人が顔を背けた。ちなみに、ブラッドも知っていたが、顔は背けず興奮していた。コイツの将来が不安になる。

 意外な人だと、ローラさんが顔を背けていた。俺の中の印象がお淑やかな女性から、隠れ痴女にランクアップした。

 そして、領主の寝室での話を終えると、アビゲイルが驚愕のあまり席から立って驚いた顔で俺を凝視していた。他の皆も……マスターまでもが驚いて俺を見ていた。


「アサシン……今の話は本当なのか?」

「今の話って残したメモの事?」


 アビゲイルが頭をぶんぶん振って頷く。


「本当だよ。おまけに、フランから貰ったシャークのダガーも添えたから、領主は片耳に裏切られたと思うんじゃないかな?」


 それを聞いたアビゲイルが震えだす。逝き過ぎで膣痙攣でも起こしたか?


「アサシン、良くやった! これで領主と片耳の関係も崩れる。船で聞いた話も喜んで受けよう」

「それはチョット待っててね。後で皆に説明するから」

「ああ、分かった」


 興奮が収まらないアビゲイルがマスターに酒を追加していた。嬉しくて飲まずには居られないようだ。

 他の皆の反応はさまざまだった。俺達のギルドの皆はまたかと溜息を吐いて、ヨシュアさん達は驚いている様子だった。

 アルサは俺の話はどうでも良いらしく、リックを腐った眼で見ていた。リックが汚れるから見るんじゃねえ。


「なあ、ステラ。お前だったら領主の館に忍びこめるか?」


 小声でブラッド(真っ黒)がステラ(白)に質問していたけど、彼女は首を横に振っていた。


「……無理だよ。まず、扉の鍵開けで5分以上は必要だし、階段の監視だって怖くて無理。鍵を取り出すなんてもっての外だわ」

「……だよな……やっぱりこいつ、どっかおかしいよ」


 お前が言うな。


「それだけじゃない……二階の鍵を一つ抜いて鍵をすり替える。鍵の束をわざと床に落として、守衛が落としたかのように見せかける。どれもやらなければ途中で発見されていた可能性が高い……レイ君はセンスが他人と比べて異常だと思う」


 ヨシュアさん(黒)があり得ないと頭を振り被りながら、ブラッドに説明したけどさ、泥棒のセンスが凄いと言われても微妙。


「レイ君は調合師がメインで、ローグはサブだと思っていたけど、逆だったのね」


 ローラさん(黒)も頬に手を添えて溜息を吐いた。

 ちなみに、先ほどから名前の後ろにある括弧は例のプール・・・・・で反応した人。


「んーだからかな? 今日の昼ぐらいから、町の衛兵が騒いでいた気がする」


 チンチラ(白)が思い出したかのように呟くと……。


「あーー、なんか柄が悪い人達を捕まえて、尋問していたね」


 ジョーディーさん(ギルティ! ギルティ! ギルティ!)も思い出して頷いていた。


「ところでレイちゃん、一体、いくら取って来たの?」


 んーー。姉さん(白だけど演技の可能性有)にはバレたか……。

 肩を竦めると、館から頂戴した品をカウンターにどんどんと積み上げ始めた。

 初めは笑っていた皆がだんだん驚き、最後には顔を引き攣らせて青ざめていた。


「一体、いくら持ってきたんだ?」

「さあ? 金だけで52Pプラチナ以上だね」


 義兄さん(黒)の質問に答えると、全員が瞳孔を開き「こいつ何を言っているんだ?」という目で俺を見た。

 やり過ぎたのは自覚しているし反省もしている。だって円にして計算すると5億2000万円だし。


「凄いな……」


 とはシャムロックさん(黒)。


「ああ、少しは盗むと思っていたけど予想以上だ……」


 ベイブさん(黒)。


「衛兵が騒ぐのも当然ですね……」


 最後にシリウスさん(黒)が呟いた。全員出たから例のプール・・・・・裁判は終了。


「それでマスター、忍び込む前に言っていた情報はこれで良かったか?」

「あ……ああ……十分過ぎる……というかこの量はまずい。盗賊ギルドがターゲットにされる可能性がある」

「いや、だから罪を片耳に押し付けて来たんだけど?」

「……なるほど。だけど手元に支払えるだけの額がない。清算はまた今度で良いか?」


 最初、手紙や資料の多さにマスターは顔を青ざめていたけど、片耳に罪を押し付けたと聞いて、少しだけ安心した様子だった。


「だったら一つ頼みがある。この権利書だけど、姉……」

「アビゲイルだ」

「……にただで売って欲しい」

「ああ、構わない。それでもこっちが支払う額の方が多いからな」


 俺がアビゲイルにウインクをすると、彼女も俺にウィンクを返して、大事そうに権利書を懐へしまった。




「それで、この金の使い道はどうする?」

「ギルドの資金にしちゃう?」

「いや、さすがにこの大金を手にしたら、他のプレイヤーの妬みの対象になるから止めといた方が良いだろう」

「ベイブの言うとおりだと思う。私は別にねたむ気など起きないが、全てのプレイヤーがそうだとは言えないからな」


 義兄さんの質問にジョーディーさんが提案するが、ベイブさんとヨシュアさんが駄目だと止めた。

 他人のねたみは面倒臭せえ。俺も健康を自慢する奴を見ると、時々殺したくなるから気持ちは分かる。例えば主治医とか……。


「だったら領主を潰しましょう」


 おい、今さらっと恐ろしい事を言った人が居るぞ。もちろん、我が姉だ。皆が魔女に注目する。


「潰すって言っても、どうやって潰すんだ?」


 アビゲイルが尋ねたが、別の方向から「分かった」と声がする。

 今度はチンチラが姉さんの代わりに話し始めた。


「今、コトカの領主は財産をレイ君に取られ、力も海賊との仲たがいのせいでそれほどありません。彼に残っているのは権力だけです。だったらその権力を潰せば良いんですね」

「正解。権力を潰すにはどうすればいいと思う?」

「もちろん、繋がり、コネとも言いますが、それをなくせばいいんです」


 チンチラと姉さんがお互いの顔を見て笑う。その笑顔が怖い。

 やべえ、チンチラが姉さんに似てきた。これは悪影響だ、間違いなく悪影響だ。義兄さんも俺と同じ考えなのか顔が青ざめていた。


「ここに領主との手紙があって、その相手に彼の資産がなくなった事を告げたら?」

「もちろん、金の切れ目が縁の切れ目です」

「そして、彼が海賊と繋がっている情報を王宮に知らせたら?」

「コネのなくなった彼を助ける人が居ないから、当然捕まります」


 ここまでの会話のやり取りを聞いて、この場に居た全員が「この二人は怖っかねえ」と気持ちが一つになっていた。


「さすがちーちゃん、全部正解よ。王宮を動かすにはお金が必要だけど、ここに資金があるわ。マスターさん」

「何だ?」

「スコットに動いてもらいたいから連絡して欲しいんだけど、良いかしら?」

「……ああ、問題ない」


 青ざめた顔をしたマスターの返答に、姉さんがありがとうと頷いた。哀れチョイ悪おやじ、過労死だけはするなよ。


「それでもまだ余るんじゃないかな」


 シリウスさんの呟きに、皆が金の使い道に悩む。

 だけど、俺だって使い道について考えていたし一つ案がある。


「この金さ、姉御……」

「アビゲイルだ」

「……に投資してみない?」

「どういうことだ?」


 義兄さんから質問されて、皆にアビゲイルが海賊になった理由を話した。


「……ってことでさ、このお金は元々姉御達……」

「アビゲイルだ」

「……から奪ったお金が基で増えたお金だし、奪われた人達に返すのが筋なのがひとつ。そして、姉御達……」

「だからアビゲイルだ!」

「……は、このお金を使って保険会社を作って欲しい」

「保険?」


 保険と聞いてアビゲイルが首を傾げた。どうやら、このゲームの世界には保険という概念がないらしい。

 保険会社だけどイメージは初期のロイズ。いきなり市場を作ることはできないから、最初はロイズと同じように貿易商や船員が集まる店を作って、海事ニュースを発行しよう。そこで、船舶保険を勧めれば市場は作れると思う。


「つまり一定の額を定期的に支払えば、沈没しても保障されるってことか……」

「そう、それなら海賊に襲われても、破産せずに済むからね」

「だけど、海賊が蔓延っていたら破産するんじゃないかな?」

「保険で集めたお金を使って海賊を討伐する自衛組織を作れば良い。名目が会社利益だから口実もできる」

「うーん、軍隊を持つと国から睨まれそうだな……」

「だったら利益の一部を孤児院に寄付すれば良いと思う。民の信用を得れば、国だって何も言えなくなるし」


 ね? っとフランとリックを見れば、二人は話を理解していない様子だったけど「孤児院に寄付」と聞いて 嬉しそうに頷いた。

 二人も頑張ったんだから当然報酬を貰う権利はある。子供だから直接じゃなくて間接的だけど、一番有効な使い道だと思っている。


「なるほど、それなら何とかなるか……だけど今度は資金が足りないな……」

「何言っているんだ、姉御。金はここにあるだけじゃないだろ」


 アビゲイルが俺の話を聞いて納得する。


「そのための財宝か!」

「正解!」

「あと、アビゲイルだ」


 財宝と聞いて全員が俺とアビゲイルを驚いた様子で見ていた。輝いた目をした皆を見回してニヤリと笑みを浮かべる。


「さあ、今から海賊王の話を始めよう」




「最初に言っとくけど、これは姉御……」

「アビゲイルだ」

「……から聞いた話と憶測だから、外れたらスマンコ」


 こうして、俺は全員に海賊王の財宝について話を始めた。


 元私掠船で海賊になったリックの祖父、名前はウィリアム・シルベスタン。

 彼が残した財宝がアース国とブリテン王国の海峡の何処かに隠されている話は昔から存在していた。何故財宝が在ると信じていたのか? それは、一人の監視官が話した内容が原因だった。


 ウィリアムはアース国に捕まると、財宝の在り処を吐かせるための拷問を受け続けていた。

 そして、ウィリアムが投獄されていた監獄に、一人の監視官が勤務していた。

 この世界では罪人を人として扱う人間は皆無だったが、彼は他の監視官と比べ人権を重視してウィリアムを人として丁寧に扱った。

 ウィリアムが財宝の在り処を話さないまま処刑される当日、彼を人として扱った監視官だけにウィリアムはこう告げた。


「私の屋敷に地図がある。それと聖なる誓いを手に入れろ。財宝はそこに眠る」


 その監視官はウィリアムが死んだ後、王国管理下になったウィリアムの家、つまり俺達がライノと戦った館へ忍び込み一枚の地図を手に入れた。

 聖なる誓いが何か分からなかったが地図が在れば問題ないと、全財産を使って財宝を取りに行くが、向かった島には財宝がなく無一文になって帰ってきた。

 無一文になった彼は唯一手に持っていた宝の地図を、ウィリアムの言葉を添えてある商人に売った。

 そして、彼はウィリアムへの恨み言を残しこの物語から消える。


 監視官から地図を買った商人は探しても見つからない財宝よりも、もっと簡単に金を稼ぐ方法を考えた。

 そして、地図を複写して言葉巧みに冒険者を騙し、地図を売って儲けた。

 しかし、冒険者が探しても結局財宝は見つからずに時が過ぎていく……一攫千金を狙い財宝を探しに行って、全財産をすった冒険者達は成れの果てに海賊となっていった。


 ある時、冒険者の一人が「もしかしてこの地図は偽物で、本物の地図はまだ屋敷にあるんじゃないか?」そう考えてウィリアムの屋敷へと忍び込み、別の地図を手に入れた。

 その冒険者は財宝を求め海に出たが、地図の示した島へ着く前に海賊に囚われる。冒険者は命の代わりに地図を渡して命からがら逃げ延びた。


 地図を手にしたのは、片方の耳がない海賊だった……。




「とまあ、ここまでは姉御……」

「アビゲイルだ」

「……から聞いたコトカの財宝物語なんだけど、これからは俺の予想ね」


 片耳は島に行き財宝を探す。

 金がなくなれば商船を襲い金品を奪って資金にすると、また財宝を探す。やがて、彼は財宝を手にすることを諦めた。

 しかし、普通の暮らしに戻るには彼の手は汚れきっていた。結局、彼の生きる道は、海賊以外どこにもなかった。

 片耳は生きるために金が好きな領主と手を組む。そして、手を組んだ証として、自分の過去の夢だった地図を領主に渡して忠誠を誓った。


 その後、片耳は奪った品の何割かを領主に差し出し、見返りに海軍の情報を入手して生き延びた。

 領主は地図を手に入れたが、地図よりもまず先にウィリアムが残した言葉「聖なる誓い」について調べ始める。

 調べた結果、ウィリアムには一人娘が居て、父から娘に送った唯一の形見である指輪の存在を知った。

 指輪こそ「聖なる誓い」と確信した領主は、指輪を探しているうちにリックと所持している形見の指輪を見つけ、海賊に指輪を盗むように命令した。


「ってことで、リック、指輪を貸して~~」

「はい」


 リックから指輪を受け取ると、今度は店のカーテンを閉めさせて蝋燭に火を灯すように指示する。

 そして、蝋燭に指輪を近づけると、指輪から一筋の光が伸びて壁に当った。


「おおっ!!」


 光が当たった壁を見て皆が驚く。壁には指輪から出ている文字が薄く浮かんでいた。


 『三つの島が示す大地に眠る竜の玉に我が血族の血を捧げろ。然すれば財宝、其処に在』


 壁の文字を既に一度見ているリックとアビゲイル以外の皆が、その内容を読んで興奮していた。


「そう、宝の地図は三枚そろって初めて財宝の場所を見つけることができるんだ。おそらく領主もこれを見てリックの血が必要と考えて、攫ったんだと思う」


 そして、鞄から宝の地図を出してカウンターに広げる。


「まずここが領主の館から手に入れた地図の場所ね」


 そこには既に一つの島に×が描かれていた。


「そして、物語の監視官が最初に見つけた場所は……今は海賊のアジトになっているから……ここ」


 皆が見ている中、新たに×を付けた。


「そして最後の場所は……ベイブさん、前に見つけた地図を出して」

「お、おう……」


 ベイブさんから地図を受け取って、×が付いてある島と同じ箇所に×を付ける。

 そして×同士を繋いで、それぞれの島から中央に向けて線を引くと……。


 そこには一つの島が存在していた。


「三つの島が示したこの島こそ、海賊王の財宝が眠る島だ!!」

「やったーーーー!!」


 俺が大声で宣言すると、この場に居た全員が歓声を上げた。

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