第29話 ズルして騙して盗み取れ!
俺達は急いでロビーへ向か……。
ガンッ!!
音を立てた奴は誰だ!?
「…………」
全員が振り返れば、召喚したばかりのゴンちゃんが部屋の入口に引っかかって出られず、頭を壁に押し付けながらその場で足踏みしていた。その様子にチンチラが顔を真っ赤にして恥ずかしそうに俯く。
チンチラはゴンちゃんをリリースしてから、廊下でゴンちゃんを召喚して部屋の外に出した。
改めて部屋を抜け出しロビーへ向かう。
騒音が大きくなるにつれて緊張も高まる中、俺達はロビーの手前へ到着した。
直ぐにロビーへ飛び出そうとする義兄さんを、ベイブさんが足を引っ掛けて転がし、俺が叫ぼうとする彼の口を塞ぐ。そして、女性3人が義兄さんの上に乗っかり抑えた。息の合った連携プレイだけど、相手は味方だ。
ちなみに、女性全員が義兄さんに乗ったと言っても、ゴンちゃんは不参加。
義兄さんは女性三人に乗っかられて4Pハーレム状態だけど、岩の力士が乗ったらハーレムから一転して拷問状態に変わり、怪我だけじゃ済まない。
口を塞がれた義兄さんが何かを叫んでいたけど、それをガン無視して全員がロビーの様子を伺う。
こちらから見る限りだと、一階のロビーから二階に上がる階段は途中で壊されていた。そして、二階ロビーの囲み廊下では数十人のライノの部下達が並んで、階下を見ながら嘲笑っていた。
二階の中央で踏ん反り返っているライノらしき人間は二十台前半でまだ若かった。ギルドマスターの話を聞いてムカつくツラを予想していたが、実際に見ると洋物エロ動画に出演している男優みたいな顔だった。
そんなエロ男優とここからだと見えないが、一階に居る筈のギルドマスターが大声でやり取りをしていた。
「スコット、もう諦めて武器を捨てろ。そうすれば命だけは助けてやる。まあ、薬漬けにはなるだろうがな」
スコット? ああ、ギルドマスターの名前か。初めて知ったがどうでもいい。
「ふざけんじゃねえぞ、糞ガキ!! 暗殺ギルドに踊らされているのがまだ分からねえのか?」
「踊らされる? はっ! 馬鹿言うんじゃねよ。これは俺の意思だ。俺はなぁ、麻薬を使ってこの国の裏を支配するんだよ。暗殺ギルドだって俺が持つ麻薬がなければギルド員を確保できずに解散するしかねえ。ぎゃはははは」
ライノが馬鹿にするように腹を抱えて笑いだす。
ああ、こいつはやばい。何がやばいって、瞳孔が開きっぱなしで目が逝っている。皆さん、サイコパスだと思わないか? え? いや、ただ専門家の意見を聞いただけです。
「そうだ、お前の彼女を見せてやるよ。おい、あの女を連れてこい!」
ライノの命令で部下の一人が奥へ消えると、一人の女性を引きずって戻ってきた。女性は……明らかに暴行された後で、呂律が回っていない笑い声を発していた。
ライノの部下が女性の髪を掴むと、汚い笑顔で階下のギルドマスターに女性を見せる。
「マリア!!」
直ぐに階下からギルドマスターの大声が聞こえた。
「残念だったな。もうコイツには何も聞こえねえよ。最初は嫌がっていたけど薬をやったらすぐに泣きながら腰を振ってたぞ。ひゃはははは、全員で楽しませてもらったぜ!」
「テメェ……」
ギルドマスターから発せられた唸り声には怒りが含まれていた。
俺も彼と同じように怒りで切れそうな自分に気が付く、いや、既に切れていた。例えゲームでもアイツだけは許せない。
そして、下からバ〇ブ振動がしたと思ったら義兄さんも怒りで震えていた。もちろんバ〇ブだけではなく、全員が歯を食いしばってライノを睨んでいた。特に女性三人の怒りは凄まじくて、凌辱プレイは相手の了解を得なければ厳禁なのを理解した。
「まだ、終わらないぜ。お前の仲間も返してやるよ」
ライノが指示を出すと下のロビーから苦しむ様な声が聞こえだした。
「マスター……マスター……あんたを殺すとまた薬が貰えるんですよ。死んでくれませんか?」
「俺を殺してくれ。もう無理だ。あいつ等……あいつ等の言うことを聞くしかねえんだ……」
「ジム……それにゴディ……お前等まで……」
耳を立てて会話を聞けば、ライノは捕まえたギルドマスターの部下を麻薬漬けにして、同士打ちを狙う魂胆らしかった。
「全員聞け、作戦だ!」
突然、足元から義兄さんが小声で俺達に指示を飛ばしてきた。どうやら彼は怒りが頂点に達したらしい。何時もと違って冷静、いや、冷酷な声だった。
「俺、ベイブ、ジョーディーであのクソ野郎をぶっ倒す。レイとチンチラは手前の通路に居る雑魚を倒せ。コートニー、スリープクラウドは覚えたな」
「ええ、覚えたわ。ただMPがきつくて一回が限界よ」
「マナポーションがある」
鞄からポーションとマナポーションを取り出して皆に配る。
受け取るときに姉さんが嫌そうな表情を浮かべたが、コイツはアレンジして味を変えたマナポーションだから飲んでからのお楽しみだ。
「よし、スリープクラウドを反対側の通路に居る奴らと、一階の麻薬患者に喰らわせて眠らせろ。その後はレイ達のフォローに回れ」
冷酷な義兄さんの口調は恐ろしいほどの鋭さがあった。人格が変わったか?
「皆、準備は良いか? そして、そろそろ俺の上からどいてくれ」
「「「「「あっ!」」」」」
ああ、そういえば、突撃しようとした義兄さんを全員で抑えていたんだっけ。
姉さん達が彼の体から離れると、義兄さんが立ち上がって俺達を睨むが、その視線を全員がそらした。
義兄さんは溜息を一つ吐くと、ロビーを振り向く。
「行くぞ!」
俺達は義兄さんの号令と同時にロビーへ飛び出した。
「何だ?」
ライノが物音に気がついて俺達の方へと振り向いた時には、ベイブさんとジョーディーさんが彼の居る中央へ突入していた。
ベイブさんが先陣を切り、手当たり次第に敵を切りつけながら突き進む。
ジョーディーさんもベイブさんの一歩後ろからメイスでぶん殴る、魔法の電撃を飛ばす、渋々とヒールでベイブさんを回復していた。
彼女はチビだから脇腹をメイスで全力フルスイング。一体どこの撲殺天使だ? どうやら彼女は俺の金で暴力嫁にジョブチェンジしたらしい。
そして、一番最初に突っ込むと思っていた脳筋は……。
「『ライトプロテクション』、『ホーリーマイト』、そして『シャイニングソニック』」
魔法を自分とベイブさんに詠唱した! 義兄さん、俺の金でバフ魔法を覚えたのか!! もう一度言う、俺の金で!!
魔法が発動すると、義兄さんとベイブさんが光に包まれて同時にベイブさんの攻撃力が増した。
いや、それだけじゃない。今までは単体にだけ攻撃していたベイブさんが範囲攻撃で敵を切り裂いていた。これも俺の金で得た力か!!
ベイブさんが空けた隙間を、義兄さんがライノに向かって『挑発』をしながら突っ込む。
「なんだ、テメエ等!!」
挑発に乗ったライノが義兄さんを見て叫ぶと、義兄さんは周りの雑魚を無視してライノに飛び掛かり、彼に負けじと大声で叫び返す。
「アサシンだ、馬鹿野郎!!」
叫ぶと同時に『シールドバッシュ』をライノにブチ噛ます。義兄さんは吹っ飛ぶライノを見下ろすと、彼に向かって『挑発』していた。
そんな脳筋なアサシンいねーよ! やはり脳筋は脳筋だった。
義兄さんの叫び声を切っ掛けに、ロビー中央で激しい戦闘が始まった。
姉さんはロビーに出ると同時に魔法の詠唱を始めていた。
「『スリープクラウド』!!」
長い詠唱を終えると杖を地面に突きつける。同時に俺達の反対側の渡り廊下に雲が発生して、雲の中の盗賊が次々と倒れて眠りに落ちた。
俺の貸した金で手に入れた強力な範囲睡眠攻撃だ。さすが山ガール、遭難者は眠らせて凍死が基本。
『スリープクラウド』は強力な魔法だが、姉さんが言っていた通り、この魔法はMPの消費が激しかった。姉さんは鞄からマナポーションを取り出して、しかめた表情でビンを見ていたが、喉をゴクリと鳴らすと覚悟を決めてマナポーションを口に含んだ。
一口飲んだ途端、姉さんが目を見開き、驚いた様子でマナポーションを口から離す。そして、自分が飲んでいるのがマナポーションであることを確認すると、一気に飲み干した。
「レイちゃん!!」
ポーションを飲み終えた姉さんが呼んだので、サムズアップで応じると姉さんは俺に向かって笑顔を見せた。そして、飲んだ瓶を捨ると、再びスリープクラウドのための詠唱を唱え始めていた。
俺とチンチラは背後で戦っている四人に敵を近づけさせないため、手前の渡り廊下の敵に突っ込んでいた。
今回、チンチラとは初めて組んで戦うから多少の不安はあったが、その不安は一瞬で吹っ飛んだ。
チンチラ、いや、正しく言えばゴンちゃんとチンチラのペアが凄かった。
盗賊が近づいたらゴンちゃんが腰から上を捻り一気に張り手を突き出す。敵は張り手を顔面に喰らって吹っ飛ばされていた。
ゴンちゃんが繰り出す張り手の速度と破壊力は凄かったけど、突き出すまでのモーションが遅いため、張り手を繰り出す前に盗賊から殴られてゴンちゃんがダメージを食らう。
「『ヒール・ゴーレム』」
ゴンちゃんがダメージを喰らうと、チンチラが魔法を詠唱。ゴーレム専用のヒールでゴンちゃんを回復させていた。さらに……。
「『コンスト・ポイズン』」
今度はチンチラが敵に魔法を唱えると、戦っている盗賊が黒いもやに包まれた。そして、しばらくすると盗賊が膝をガクッと落とす。
そこをゴンちゃんが殴って吹っ飛ばしていた……ポ、ポイズン……だと?
「チンチラ、今の魔法は何?」
「え? ただのDotだよ。召喚系の魔法使いは敵のヘイトを取らないように、徐々に体力を減らす魔法がメインなの」
チンチラがサクッと答えたけど、俺が苦労して手に入れた毒を詠唱一発で済ませやがった……。しかも、俺の毒は飲ませなきゃダメなのに、詠唱一発で済ませているよ。材料買って一日掛けて作った毒を……。
密かにへこんでいると、盗賊の一人がゴンちゃんの横をすり抜けて、チンチラに襲い掛かって来た。
「キャッ!」
盗賊がナイフを突き出してチンチラが叫ぶ。
俺が横から一歩前に出て盗賊の腕を掴むと、肩の関節を押さえて背中に捻り上げた。
「いててててっ!!」
「え?」
驚くチンチラと痛がる盗賊を余所に、腕を捻ったまま腰を掴む。
「俺の苦労は何だぁぁぁぁ!!」
「うわあぁぁぁ!」
大声で叫んで盗賊を二階の手摺りから一階へ落とす。
落とした後で手摺りから下を覗くと、一階に落ちた盗賊は腰を抑えて呻いていた。そして俺の鬱憤も少しだけ晴れた。
……あれ? ちょっと待て。アイツ、何でダメージを喰らっているの?
階下で呻いている盗賊を見て首を傾げる。
俺の攻撃は急所以外、殆ど効かない筈……もしかして、投げ捨てたのが俺だったとしても、落下のダメージは普通に喰らうのか? もしかして、俺も戦い方次第では普通に戦えるんじゃね?
確かに俺は皆と比べたら攻撃力はないし魔法も使えない。だったら俺は自分の戦い方をすればいい。
ズルして、騙して、盗み取れ!
俺が尊敬する今は亡きプロレスラーが残した戦い方だが、ローグの俺には理想の戦い方だった。
「ありがとう」
礼を言うチンチラを振り返らずに手をひらひら振って応じた後、俺は敵に向かって歩き始めた。
ゆっくりと歩けば、目の前のゴンちゃんが道を塞ぐ。
「ゴン、交代だ」
俺が背後から声を掛けてもゴンちゃんは道を譲らない。
「ゴン、ポーションだ」
サツ!
俺の嘘にゴンちゃんが素早く避けた。お前も無理やり不味いポーションを飲まされて辛かったんだな。
ゴンちゃんの横を歩いて敵の前に躍り出る。
急に横へ移動したゴンちゃんに呆然としている盗賊に向かって、牽制のワンツーを打ち込んだ。当然、現実で病弱な上にスキルのない俺の打撃ダメージは低い。
盗賊が正気になる前に、そいつの左腕を掴かんで関節を極める。そして、鳩尾の急所に膝蹴りを撃ち込んだ。
最後に相手の呼吸が止まったところを二階から放り投げる。
「ああぁぁぁ!」
敵は叫び声を上げながら一階に落下していった。
別の盗賊がダガーを持って俺に突進してきたが、昨晩、ガチムチから教わったコンバットサンボの要領で刺そうとした腕を掴むと、そのまま引き寄せて喉元に指先を撃ち込んで地獄突きを喰らわす。
相手が仰け反って喉元を抑え怯んだところを、掴んでいる腕の関節を極めながら背後に回った。
「ゴン、拳を突き出せ!」
俺の合図でゴンちゃんが腰を捻る。
引き絞ったゴンちゃんの様子を見て盗賊が逃げようとするが、腕の関節と髪の毛を掴まれて逃げれずにいた。
そして、ゴンちゃんの限界まで引き絞ったトルネード投法剛腕パンチが盗賊の顔面にめり込む。
真横で人間の顔が砕けるのを見て、けしかけた俺の背筋が凍った……こいつ、死んだな。
ゴンちゃんにぶん殴られた盗賊は吹っ飛んだ後、床を回転しながら転がって動かなくなった。
「危ない!!」
俺の背後から襲おうとしている盗賊を見てチンチラが叫ぶが、俺は既に生存術のスキルで相手の動きを知っていた。
ダガーで刺される前に半回転しながら横へ避け、そのまま背中から相手の懐に入ると、相手の顎を俺の肩に乗せて、頭を掴んだまま前方に大きく飛んだ。
「ぐげっ!」
俺と一緒にうつ伏せで床に倒れた盗賊の顎と首は、俺の肩越しに落下時の衝撃が襲ってダメージを受けていた。
ダイヤモンド・カッター
かつてレスラー生活より、ヨガ教室の方が成功したプロレスラーがフィニッシュに使った技だ。
筋力のない俺でも使えるプロレス技だけど、その威力と簡単に使える事から、多くのレスラーが様々な名前に変えて使用している。
俺は起き上がると、首を抑えて呻いている盗賊の腰を掴んで一階に投げ落とす。
四人目を倒したところで、残りの盗賊は俺とゴンちゃんを恐れ、離れて警戒していた。
チンチラが後ろで「すごい……」と呟くが、俺はこの場に居る全員を騙していた。
何を騙しているかって?
俺は貧弱な上に攻撃力を上げるスキルを所持していない。だから、直接武器や打撃で攻撃しても、ダメージが低くて敵を倒すことができねえ。だったら、他の方法でダメージを与えれば良い。
間接を極める、二階から落とす、ゴンちゃんに殴らせる、床を利用した衝突ダメージを与える。直接攻撃が無理でも、間接で攻撃する方法はいくらでもある。そして相手は俺が攻撃力のある敵と誤認する。
ズルして騙す、そして勝利を盗み取れ! これが俺の考えた戦い方だった。
「テメェ、何者だ!?」
残りは三人。
その内の一人が大声で話しかけてくるが、無視して一歩前に進む。余裕ある演技でフードの下でニヤリと笑うと、俺の雰囲気に押されて盗賊達が後ろに下がった。
「くくくっ」
騙されている相手の様子に笑いが込み上げる。
「あははははっ、あはははははははっ。だめだ、笑いが止まらねえ!」
「な、何なんだ、お前……」
「……レイ君?」
突然笑い出した俺に全員が呆気に捕らわれていた。
「いいぜ、いいぜ、その表情! 怯えた様子が素晴らしい! 俺が女だったら潮吹いてベッドの上が大洪水だぜ!!
縄なしバンジー、ゴーレムとのハードコア、それとも俺にカマを掘られるか? さあ、好きなプレイを選びな!」
手で顔を覆い上を見上げて笑う。
いつも心で思っていても口に出さないセリフを吐くと、相手はドン引き、後ろのチンチラも俺の豹変にドン引きだ。どっちが悪役か分からなくなってきたぜ。
笑いを収めると、怖気づいている盗賊へ一歩前に出る。足先に何かが触れて下を見れば、先程倒した盗賊が落としたダガーが転がっていた。
そのダガーをポンッと蹴り上げて手元の高さまで放ると、空中で上手に掴む。
俺が行動していある間、盗賊達は俺の一挙手一投足を警戒して動かずにいた。
手に持ったダガーをくるっと器用に回して注目させると、奴らの上に放り投げた。盗賊達が空に放ったダガーを見て視線を逸らした瞬間、一気に間合いを詰めて一人目に近づく。
盗賊に『足蹴り』のアクションスキルを発動させて途中で軌道を変える。そして、脇腹にミドルキックを打ち込んだ。
ケリが奇麗に決まると、貧弱な俺でもスキルの効果でダメージがあり、攻撃を受けた盗賊が一瞬、苦しそうに顔を歪める。
「ゴン! 見てろ!!」
呻く相手の喉を片手で掴むと、払い腰の要領で相手を持ち上げる。
「な、何!?」
体を捻って驚いている盗賊を背面から床に叩きつけた。
チョークスラム
墓堀人のあだ名が付いたレスラーが多用していた技だ。
これは喉輪を掴む相撲技に近いし、大型レスラーが主に使用していたからゴンちゃんが使うとより効果があるはず。
ゴンちゃんに見せるために今回は使用したが、相手が身軽だったからできただけで、俺がやってもダメージも少ない。次からはゴンちゃんに任せる。
「やってみろ!!」
俺の命令にゴンちゃんは盗賊に近づく。
喉元を押さえて咳き込んでいた盗賊は急に影が差して顔を上げると、見下ろすゴンちゃんを見て顔を引き攣らせていた。
四つん這いで逃げようとする盗賊をゴンちゃんが背後から服を掴んで持ち上げる。そして、ガシッと喉を掴んで抱き寄せた。
「ヒィ!!」
間近で見下ろされた盗賊が悲鳴を上げてもがく。ゴンちゃんは腕を伸ばして高々と盗賊を持ち上げると、チョークスラムを放った。
俺の時と違って、激しい振動と共に盗賊がズドン!! と床に叩きつけられる。
チョークスラムを喰らった盗賊は、二、三度痙攣すると、舌をだらんと伸ばして失神した……酷でぇ。けしかけた俺が言うセリフじゃないけど、破壊力が殺人レベルでマジ怖えぇ。
「ゴンちゃん……」
俺とゴンちゃんの後ろでは、チンチラが自分のゴーレムを見て呆然としていた。どうやら、召喚した本人も予想外の動きをしているらしい。
敵を倒してもゴンちゃんは無表情。相変わらず何考えているか分からん岩だ。
「ふざけやがって、死にやがれ!!」
ゴンちゃんのチョークスラムの破壊力に呆然としていたら、盗賊が不意を突いてナイフごと俺に体当たりをしてきた。
とっさの事で避けようにも間に合わないか? 死に戻りを覚悟したその時、体が急に引き寄せられて目の前が真っ暗になった。
「ゴンちゃん!!」
チンチラの叫び声で正気に戻り状況を確認すると、俺はゴンちゃんに抱き寄せられて、身代わりとなったゴンちゃんがナイフに刺されていた。
女性に抱き寄せられるのは嬉しいが、残念ながら相手は岩のゴーレム。しかも、あんこ型の力士体形だ。触れる肌が固くて痛い。
「ゴン!!」
慌ててゴンちゃんの体から離れると、ナイフで刺されたゴンちゃんが片膝を付いていた。
刺されたゴンちゃんは心配だったが、それ以上に何の感情も無いと思っていた岩の塊が俺を庇ったことに驚いた。
「サンキュー、ゴン!」
ゴンちゃんに礼を言った後、殺意を持って相手を睨む。
ゴンちゃんの回復はチンチラに任せて、俺は目の前の敵を粉砕することにした。
ゆっくりとスティレットを鞘から抜いて相手に構える。そう、俺は今までスティレットの存在を忘れていた……本当に忘れていた。
今まで武器を使わなかった俺が剣を抜いたことで相手が怯む。その隙を狙ってスティレットを相手のダガーに叩きつけた。
普通に攻撃してもダメージを与えられないのなら、相手の攻撃を封じ込める事に徹する。名付けて無理矢理パリィ!
ダガーを弾かせて相手の懐に飛び込むと、スティレットを手放し盗賊の腕を掴む。そして、相手の懐に入りながら腕を捻りあげて、合気道の小手返しの要領でぶん投げた。
相手を床に倒してから、両手で一気に盗賊の腕を逆の方向へと捻り上げると、腕からボキッ! と音が聞こえた。
「ぎゃあぁぁぁぁ!!」
骨を折られた盗賊が泣き叫ぶ。ダメージ? へし折っちまえば関係ねえ!
俺はそいつの髪を掴むと、ポイっと二階から落とした。
「あ、あぁ……た、助けて……くれ…………」
最後の一人が後ずさりをしながら助けを求めるが、首を横に振る。
「助けて? お前だけ助かりたい? 汚ねぇツラなのに性格も汚ねえのか? お前等が犯した女が助けてと言ってお前は助けたのか?」
「か、改心する! 二度と悪い事はしない……だ、だから許してくれ!!」
「……ふむ」
土下座を始めた盗賊を見下ろしながらスティレットを鞘に納めると、代わりに鞄からペンライトを取り出した。
「武器を捨ててズボンを下せ」
「え?」
『
大声で叫ぶと相手が驚いて俺を凝視する。
「助けてやる代わりに、コイツをケツの穴にブッ挿してへんとう線で影絵プレイだ。犯される気分ってのを味わったら許してやる。ズボンを脱いで今すぐテメエの汚ねえケツを今直ぐさらけ出せ!」
「ザ……ザケンなあぁぁぁぁ!!」
どうやらコイツは盗賊の癖に、命よりも貞操の方が大事だったらしい。相手は開き直ると、俺に向かってダガーを突き刺してきた。
盗賊の大振りな攻撃を避けた後、不意を突いてモーションなしの蹴りを急所にぶちかます。急所? もちろん金玉だよ。
「ぐはぁ!!」
そのまま股間を抑えて前に屈した盗賊の頭部をフロント・ヘッド・ロックの要領で片脇に捕らえ、逆の腕を上げて人差し指をくるくる回す。
最後にそのまま後ろに倒れこんで、相手の頭部を床に叩きつけた。
DDT
蛇大好きギミックなレスラーが開発した、床に頭部を叩きつける大技だ。
もちろんこれも床の衝突ダメージだから、盗賊は頭を押さえて地面を転がっている。
ちなみに、手を回したのはただのショーアピールだから意味はない。だけど騙すためにはショーアピールも大事。
ぽいっ。
呻いている盗賊の髪を掴むと二階から落として、俺とチンチラは全ての敵を倒した。
「ゴン! 大丈夫か?」
ゴンちゃんに近寄ると、ゴンちゃんはチンチラのヒールで少しだけ回復していた。
「何とか平気。だけどMPが切れちゃってて、これ以上の回復は無理かな」
チンチラもただ見ていただけではなく、俺のフォローで盗賊に対してdot魔法を使っていたため、既にMPが切れ掛かっていた。
「ごめん、マナポーションは姉さんとジョーディーさんの分でギリギリだったんだ」
「ん? 大丈夫だよ。少ししたらMPも多少は回復するし。だけどレイ君って戦うと性格が変わるんだね……」
先ほどの俺の戦いを思い出したチンチラが顔を引き攣らせる。
「チンチラ」
「え? はい?」
俺がチンチラの肩にポンと手を置くと、彼女が慌てて背筋を伸ばす。
「気にしたら負けだ。さっきのは忘れろ」
「……あはははははっ」
チンチラが渇いた声で笑っている間に、俺はゴンの様子を伺う。岩は相変わらずの無表情。
「ゴン、さっきはありがとな。これはサービスだ」
鞄からポーションを取り出して、ゴンちゃんに向かって投げる振りをすると、ダメージを負っているのにサッ! と避けた。
避けたところを返す刀でポーションを投げると、今度はゴンちゃんの体に当たって、体力を回復させた。
ゴンちゃんはポーションを受けてビクッ! と体が少し跳ねたが、しばらくすると突然震えだして俺を優しく抱きしめた。だから、肌が固くて痛いんだよ。
「……は?」
訳が分からず抱きしめられていたが、ゴンちゃんはゆっくりと俺を放すと、チンチラの側へ戻った。
「チンチラ……今の何?」
「……さあ? でも、きっとゴンちゃんの感謝だと思うよ。話せないから替わりに抱きしめたんじゃないかな?」
ゴンちゃんを見ると相変わらずの無表情だったけど、俺を見て笑っている気がした。まあ、そう言っとけば良い雰囲気になるから言っただけ。
驚きから回復してロビーの中央を伺えば、最初の頃よりも激しい戦闘が繰り広げられていた。
「俺達も行こう」
「うん!」
俺とチンチラは頷くと、激戦区である中央へと向かった。
ところで、ゴンちゃんって岩なのにナイフが刺さるのね。結構柔肌?
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