第16話 恐怖のマッドシリーズ

 ゴブリン達を見送った後、アイテムの回収の為に俺達は洞窟へと戻った。

 回収の間、皆は戦っている時より真剣な目で戦利品を漁っていた。物欲こそ正義……本当に正義なのか?

 このゲームを始めてから、人間とモンスター、どっちが悪党なのか分からなくなってきた。


 ベイブさんは、ゴブリンが宴会をしていた部屋の酒を名残惜しそうに見ていたが、背後からジョーディーさんにケリを入れられて、部屋からスゴスゴと出て行った。どれだけ飲みたいんだこの人は、訂正、この犬は……。


 前回の地下墓地のボスを倒した時に出てきた宝箱は、ボスを逃がした事で今回は出なかった。

 がさ入れ。いや、戦利品の収集結果は次の通り。

 まず、義兄さんはボスゴブリンが残した円形のアイアンラージシールドを入手した。付与効果がVIT+2の優れもので、装備している盾と比べて効果が良いので使うらしい。


 ベイブさんもボスゴブリンが残したアイアンシミターを入手。こちらの付与効果はSTRに+1と攻撃力に+2が付いていた。今回一番の報酬だと思う。


 ジョーディーさんは、ヒーラーゴブリンが残したアイアンメイスとアイアンバックラーを手に入れた。こちらは両方共マジックアイテムで、メイスにINT+1、バックラーにはAGIが+1付いている。

 ジョーディーさんがメイスをブンブン回してニヤニヤ笑うが、お前ヒーラーだから。その自覚はあるのかと問い詰めたい。


 メイジゴブリンは火魔法+2効果の杖を持っていたけど、氷魔法メインの姉さんは要らないらしい。これは後で売却することにした。




 俺が装備できそうな品だと、部屋に落ちていた脚のスネークレザーがあった。

 だけど、蛮族仕様で見た目だけで言えば、ただのホットパンツ。穿いたら半ケツ確定。男が装備するには羞恥心と戦う勇気が必要だった。そんな勇気はアンパン男でも友達じゃない。

 それでも今装備しているうさぎちゃん、改め、ラビットレザーより防御力が高かいのは理不尽だと思う。


 格好が悪くても、俺の体力を考えて装備しようとしたが、姉さんは見た目が気に入らなかったらしい。「レイちゃんにこれは合わないわ」と言われて没収された。

 後で考えると、ゴブリンが履いたかもしれないホットパンツは、やっぱり装備しないで良かったと思う。

 インキンに感染してゲームの中で股間ボリボリは、さすがにみっともない。売った後、何も知らずこのホットパンツを買うプレイヤーに少しだけ同情した。


 装備は手に入らなかったが、代わりに寝ていたゴブリンの部屋から回収した、ドノーマルのアイアンナイフを手に入れた。


 他にも武器や装備を入手したけど、パーティーに不要だったので全部売却の予定。

 回収アイテムを全部言ったら切がない。十四匹分(二匹はションベンまみれで崖の下なので回収不可能)だから、かなりの量になる。

 その他で目ぼしい物としては、薬の材料になりそうな草や実があったので、俺が全部もらうことにした。自分では作れないけど婆さんの土産にはちょうど良い。 


 最後にお金は7g程集まった。クエストの報酬が8gだったので、一人3gを手に入れる計算になる。それにアイテム売却の追加報酬も考えると、結構儲けたと言って良いだろう。

 前回の地下墓地の方が儲かっていたけど、あそこは危険過ぎる。今思うと何であんなクエストを義兄さんが選んできたのか疑問だ。ヤツは俺達を殺すつもりだったのか?


 そして、俺のレベルとスキルはこちら、はいドン!


-------------------

レイ Lv9 

アイアンスティレットAGI+3


取得スキル

【戦闘スキル<Lv.10> VIT+1】【生存術<Lv.10> INT+1】【危険感知<Lv.10> INT+1】【盗賊攻撃スキル<Lv.10> AGI+1】【盗賊隠密スキル<Lv.10> DEX+1】【生産スキル<Lv.1>】【サバイバルスキル<Lv.4>】


アクション

 生存術・危険感知・ステルス・目くらまし(唾吐き)・バックステップ・バックアタック・足蹴り

-------------------




 ゴブリンを見送ったのが日の出だったから朝の五時ぐらいと考えて、今の時刻は八時ぐらい。昼まで休憩してからアーケインへ戻ることにした。

 町に着くのは夕暮れ前だと思うけど、一晩中暴れまわったから全員疲れている。ゲームの中でも昼夜逆転とか廃人過ぎだろ、このパーティー。

 だけど、ゲーム開始からテンションかっ飛ばして夜間行軍やらかしているから、今更だとは思っている。


 洞窟の入り口に薪が残っていたので、組んでからサバイバルマッチで火をつけた。この場所はインスタンスエリアだから敵は来ないが、サバイバルのスキルを上げるのに安全な場所でもある。時間は有効に使うべき。

 たき火をぼんやり見て休憩していたら、そのたき火を使ってジョーディーさんが料理を始めた。


「あれ? ジョーディーさん、料理できるの?」

「それを女性に言うのは失礼だと思うよ。欲しいスキルが手に入らなかったから、ヤケクソで安かった料理スキルを手に入れたの。多分、平気じゃない?」

「ちなみにレベルは?」

「買ったばかりだから当然1よ」


 視線の端で激しく何かが動いてチラリと見ると、ベイブさんがもげそうな勢いで首を左右に振っていた。赤ベコか? いや、赤ベコは牛だったな。だけどその動作でジョーディーさんがメシマズ嫁と理解する。


「レイ、胃薬作れないか?」

「ポーション以外に毒消しを買ってないか?」


 俺を頼るな。そんな薬は持ってねえ。そして、姉さんは何で目を瞑り天を仰いでいた。諦めの極致なのか?


「お前ら、今度ヒール無しな」


 義兄さんとベイブさんのセリフにジョーディーさんがプンスカ怒る。ロリっ子プンスカ。見た目はかわいいけど騙されるな、こいつは腐っているゾンビっ子だ。


 結局ジョーディーさんが作った料理の味は分からなかった。何故なら口に入れた瞬間、ジョーディーさん以外の全員がその場で吐いたから。

 そして、出発が二時間遅れることになった。まさかゲームで食べた食事が原因で、俺とジョーディーさん以外の三人がログアウトして、吐きに行くとは思わなかった。

 俺は現実だと点滴のみの生活だったから、出せるものはなく、ひたすら腹を押さえて苦しんだ。

 毒を作成したジョーディーさんは一人、首を傾げながら自分で作った料理を平らげていた。


「おかしいわね……」


 おかしいのはお前の味覚と性癖だ。


 それ以降、ジョーディーさんの作った料理は本人に隠れて、マッド料理と呼ばれるようになる。のちに隠すこともなくなる。

 さらに、マッド料理はシリーズ化して増える度に、皆が苦しむハメになった。


 最後に毒殺テロがあったけど、何とか全員復帰してアーケインへ向けて移動を開始する。


 旅立ったゴブリンが無事にインスタンスエリアを抜けたのかは分からない。

 もしかしたらシステムによって消滅された可能性だってある。だけど俺達が知ることはないだろう。あの仲の良かった三匹のゴブリンを思い出し、無事を祈って森を後にした。




――――――――――

 余談


 レイ達は知らなかったが、三匹のゴブリン達はインスタンスエリアを無事に抜けた。

 しばらくしてアーケインの西でネームド持ちの三匹のゴブリンが現れたという。

 そのゴブリン達は静かに暮らしていたが、襲ってきたプレイヤーをことごとく返り討ちにして、最強のゴブリンと言われた。


 そして、彼等の消息は消える。


 数年後、北の大陸で、他のモンスターの被害にあっていたゴブリン達が結束して、ゴブリンの王国が誕生した。

 その初代国王は威風堂々としたゴブリンで、補助役に回復魔法と攻撃魔法を使う二匹のゴブリンが控えていた。


 それがあの三匹のゴブリンだったのかは、誰も知る由もない……。


――――――――――




 太陽が沈みかけ、辺りが薄暗くなり今夜は野宿かと皆が思った頃、遠くでアーケインの明かりが見えたので、何とか無事に帰ることができた。遅くなったのは誰のせいかはあえて言わない、ヒールが来なくなる。

 ぐぬぬ。このパーティーの影のリーダーが誰なのか今知った。


 城内に入ると、夜にも関わらず街中を大勢のプレイヤーが行き交いしていた。廃人プレイヤーは昼も夜も関係ないらしい。その努力をなぜ現実で生かさない。俺は生かさない。

 俺達は人ごみ溢れるクエスト依頼所で報酬を受け取ってから、例の如く『反省する猿』亭に泊まることにした。

 ところでこの宿には毎回泊まるが、俺達以外に客が居ない。中央通りから少し離れた場所にあるのも理由の一つだけど、多分宿屋の名前が最大の原因だと思う。

 ネーミングセンスの悪さを除けば食事は悪くないし、シーツも奇麗だから何の問題もない。

 あの糞ビッチがおしゃぶりサービスでもすれば繁盛するかもしれないが、論理的にアウトだから無理だろう。




 宿に着いた俺達は食事を取った後、ピンクのサロンではなく、普通のサロンに集まって今後の予定を話し合うことにした。


「相変わらずこの街は人が多いね。歩くだけで疲れちゃう」

「そろそろ次の街に行くべきかもな」


 ジョーディーさんがポスッとソファーに飛び乗る。行動が幼女、だけど詐欺。

 ベイブさんが隣に座るが、傍から見たらロリコンなおっさん。または幼女に手なずけられた犬。頭に変態が付くけど一応夫婦。


「うーん、次の街に行くのはちょっと待って欲しいかも」

「ん? スキル関係かな?」


 姉さんの待ったにジョーディーさんが首を傾ける。


「後チョットで手に入ると思うの。レイちゃんの方はどう?」


 姉さんからの質問に予定工程を考える。乾燥に必要な工程は済ませたけど、それでも作業は多い。

 レシピ通りの不味いポーションでサクッと終わらす事も考えたが、せっかく教えてもらったのだから義理を通すのが筋だと思って、婆さんに教わった作り方で作業を進めている。


「ゲーム時間で最低一日。いや、余裕を持って二日は欲しいな」

「そうか、だったら今回のログインで行くダンジョンは終わりにしよう。

 それで、残りの時間でコートニーとレイはスキルを取ってくれ。ああ、無理に取る必要はないから、焦らなくていいぞ」


 俺の意見を聞いて、義兄さんが今後の予定を皆に伝えた。


「じゃあ私達は適当にアーケインの街をぶらぶらしているわね。武器も新しくなったから、お金もあるし防具も新調しちゃおうかな。

 ベイブも一緒ね、あんたも装備を更新するんでしょ」

「わかった、わかった」


 ジョーディーさんの命令にベイブさんが肩をすくませて笑う。さすが忠犬。

 買い物か……そういえば、薬の作成ばかりでアーケインの街をまともに観光してないな……。

 ゲームの中でも引きこもりで職業が盗賊とか俺は駄目人間か? ああ駄目人間さ、笑うがいい。


 ミーティングが終わると、後は地元商店街の話になった。八百正の娘さんが妊娠したとか、時計屋さんが今度店じまいして居酒屋になるから商店街が飲み屋街になっちまう、等の話を聞いていたら眠くなったので先に眠らせてもらった。




 翌朝、早い時間に起きる。

 しばらくはフリーなので皆と別行動だし、久々の一人を満喫しようと思う。

 まあ、薬作りで終わるのだろうけどさ、そこは気持ち次第ということで……。


 食堂に行くと朝早いのに義兄さんが食事をしていた。

 どうやら義兄さんは早くから出かけて、スキルをただでくれるNPCを探すらしい。そのために早起きして準備をするとか、行動が欲望に忠実だと思う。

 そして、クソビッチは相変わらず義兄さんに色目を使っているが、そこは義兄さん、空気を読まずに普通に接していた。


 たわいのない会話をしながら食事を取った後、店の女将さんに薬作りのためにキッチンを使わせて欲しいとお願いしたら、露骨に嫌な顔をされた。

 仕方がないので、断られる前に俺から話を打ち切って、スタコラサッサと宿を出る。


 外に出たけど、どうしようか……考えてみればポーションを作れる施設なんて知らない。

 誰かに聞くとなると、一番確実なのは調合士ギルドだけど、俺を追い払ったあの豚汁、違った。受付ドワーフの相手はしたくない。

 失礼で差別的な発言だが、クリーチャーを相手にするのはやっぱり無理。俺にも女性の好みというのはある。それ以前に立たない。

 考えた末に調合士ギルドは止めて、生産ギルドで作成できる場所を聞く事にした。




 久々に生産者ギルドに入ると、前回入った時より人が溢れていた。

 生産者ギルドは生産スキル取得の他にも、唯一物々交換ができるトレード掲示板があるので、大勢の虚ろな目をしたプレイヤーが掲示板を見ていた。

 なぜ、虚ろな目をしている?


「売れねえ。プレイヤーが金を持ってねぇから、全く売れねえ」

「材料がなくなった。また三日かけて取りに行くのか……」

「まだいい、まだ手に入るからいい。モンスターの皮なんて生産職でどうやって手に入れるんだ? これだったら戦闘スキルも取っとくべきだった」

「売上に税金三割とか高すぎる……」

「でっていう!」


 生産者も戦闘職とは違う苦労があるらしい。耳を澄ますと生産者達の悲鳴が聞こえた。だけど最後の叫び声は意味不明。

 ここまで苦労して楽しいのかな……ああ、そうかここはドMが集まるゲームだった。きっと彼らは楽しいのだろう。


「俺、もう調合士辞めるわ。例の豚に才能なしって上から目線で言われたし……」

「私もあの豚からレシピを買おうとして、ポーションを見せろと言われて見せたら、こんな下手糞なポーション作る人には売りませんとか言われて、買えないんだけど。私も辞めようかな」


 調合士達の会話も耳にする。

 うむ、やはりあの豚は調合プレイヤーの鉄壁として立ち塞がって居るらしい。奴を倒すのは至難の業だぞ、俺は関わりたくないからパスで。




 被害者モニタリングをそろそろ止めて、調合できる場所を聞きに受付へ行く。

 受付にはピンク色の髪に紫の瞳をした美人だけど、色彩がド派手な受付嬢が居た。青いアイシャドーも濃くて、彼女を見ているだけでチカチカして目が痛い。


「すみません。調合できる施設はありますか?」

「はい、調合でしたら調合ギル……」

「却下」


 話の先が読めたので会話を止めた。


「はい?」


 受付の姉さんが首を傾げる。その間に目頭を押さえて目を回復。


「調合ギルド以外でお願いします」

「いや、ですから調合ですと調合ギ……」

「キャンセル」

「……理由を聞いても良いですか?」


 ド派手な姉さんも疑問に思ったのだろう、逆に理由を聞いてきた。

 ふむ、仕方がない。事情を話して納得してもらおう。その前に目頭を押さえて目を回復。


「調合ギルドの受付をしている人を知っていますか?」

「いいえ。各ギルドとは直接関わり合いがないため、詳しくは……」

「では、話しましょう……」


 俺は調合ギルドのメス豚について語った。まあ、殆どが嘘だけど。

 確か最後の方は、院長に隠れてスキルやレシピの料金を水増しして、懐に入れているみたいな事を話した気がする。だって一番安いポーションのレシピが3gとか高し、証拠はないけど間違いない。


「……そんなことがあったんですね」


 ド派手な姉さんは話を聞いて驚いていたけど、眉をひそめて話を半分信じていない様子だった。

 仕方がない。ここはあのメス豚にも成功したあれで行くか……。


 普段素顔を隠しているフードを後ろにめくって顔を見せると、ド派手な姉さんが驚いて、頬を染めた。


 チャーム成功。


 ちなみに、俺は姉さん似の美形だと自覚している。俺の面倒を見てくれる看護師さん達も容姿を褒めてくれるから、他人から見ても美男子の部類なのだろう。

 常に顔を隠しているのは姉さんは人前で顔を晒しても平然だけど、俺は赤の他人にジロジロ見られるのが嫌なので、顔を隠しているだけのこと。

 簡単に言うと姉はガサツで、俺はシャイ。

 もちろんここだけの話、ばれたら苦痛の末に殺される。やつなら確実に殺ってくる。


 さて、下らない話はここまでにして、さらに成功率を上げるためにイケメン紳士的にキリッとした態度で押し切ろう。


「私が思うに、これは明らかにわざと調合職を目指す人達をつぶす行為と考えられます。

 生産職をまとめているギルドの方から注意などの処置をお願いすることはできないでしょうか?」

「た、確かに、これは由々しき問題だと思います。こちらでも調査した後、もしあなたが言っていることが本当だとしたら厳重に処罰します」


 真剣な顔をしてド派手な姉さんが頷いた。


「一介の生産者の陳情に対応して戴きありがとう御座います」


 俺は丁寧に一礼をする。頭を下げている間に目頭を押さえた。ピンクの髪を見過ぎて目が痛い。

 顔を上げると、ん? 何かド派手な姉さんの目が怒りに燃えている気がしたけど、ちょっと煽りすぎたかな? まあ被害が俺に来るわけじゃないから別に構わない。


「一応、名前を伺ってもよろしいですか?」


 最後に名前を聞かれたから……。


「ジョン・スミスです」

「……ジョン・スミス様ですね。情報ありがとうございました」

「いえ、失礼します」


 逆恨みが嫌なので偽名で逃げちゃったテヘ☆ペロ~ン。

 慣れない事をして、いい加減ボロが出そうなので受付を後にする。背中からお姉さんの視線をめっちゃ感じた。

 何か皆がジロジロと俺を見ているけど何だ? ああ、フードを脱いだままなのを忘れていた。フードを被り、生産ギルドを後にする。


 あれ? 結局、調合施設の場所を聞いてないじゃん。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る