ガンバルローグ
水野 藍雷
1章 アサシンと新人ローグ
第1話 山ガールからの誘い
実体験からみたVR技術と生活
作成者:
1.はじめに
このレポートはバーチャルリアリティ(以後VRと表記)を使った入院生活者の恩恵について記述する。
2.VRの歴史
2000年初頭、視覚のみ対応していたVRは100年の間に進化を遂げて、人間のあらゆる感覚に対応できるようになった。
進化はシミュレーテッドリアリティとまで呼ばれるようになり、インターネット上で現実と区別できない仮想世界を構築していた。
3.私の病気について
VRが社会に広まり至る所でその恩恵を受ける事になるが、まず先に私の病気について記述する。
私は七歳の時、小学校の体育の授業中に体の自由が利かなくなって、その場で倒れると救急車で病院に運ばれた。
そして、血圧と血糖値低下で死ぬ寸前だったのを救急治療で一命を取りとめたが、既に私の体は少しずつ動かなくなる病気に侵されていた。
最近になって確定ではないけれど病気の原因が特定できたらしいが、治療方法は未だ不明。
私の主治医が言うには、恐らく二十歳までは生きるのは難しいらしく、成人になるまで生きることは半分諦めている。
現実ではベッドの上から起き上がる事すらできず、最近では腕を上げる事さえ困難な状況だが、大半の生活は仮想世界に住む事で最低限の人間としての生活はできていた。
4.VRを使ったクソ野郎
”デンヴァだおぎろーー……デンヴァだおぎろーー……”
VRの区営図書館で、学校から出された1500文字以上のレポート課題のタイトルに悩み、出だしに悩み、冒頭を何とか書き上げ、いざ、本文の執筆というタイミングで、視界の左上に『TELL』の文字が赤く浮かぶと耳元で可愛い首絞め絶叫ボイスが鳴り響いた。
集中し始めた直後の電話に顔を手で覆って「クソ野郎」と呟くと、音声代筆アプリがレポートに余計な一文を加えていた。
邪魔した馬鹿野郎は誰だと思いながら画面を切り替えて、コンソールパネルから電話の主を確認する。
そこには俺の姉さん『
相手は野郎じゃなくて鬼女でした。
溜息を吐いて通信のボタンを押すと、姉さんがスクリーンに映る。
画面の中で笑う姉さんは見た目二十歳を過ぎたぐらいの年齢で、
ちなみに、姉さんが言うには俺のツラもそこそこ良いらしい。
姉さん曰く、俺の顔は
しわくちゃでメチャクチャなヒデエ顔でもサイボーグに変身できそうなキャッチコピーだけど、そいつは一体、何処の美容整形外科の宣伝だ?
『やっほー、零ちゃんげんき~?』
姉さんは美しい見た目と異なり、明るくそして少し能天気な声で話し掛ける。
ちなみに「やっほー」は姉さんの口癖。山ガールか?
「やあ姉さん。今日は少し調子が良いんだ」
『今、平気? お姉さんチョットだけお話があるんだけど』
「調度ひと段落着いたところだし別に構わないよ」
嘘だ。お前のせいで課題が進まねえ。
姉さんは俺より六歳年上。ちなみに、俺はヤンチャ盛りの十七歳。
姉さんは去年大学を卒業するのと同時に、高校時代から付き合っていた彼氏と結婚して名字が成神から藤代になった。
俺の義兄になった人は
義兄さんと初めて会ったのは、俺の病室に姉さんと二人で結婚の報告をしに来た時で、その時の始めて交わした会話は……。
「イケメンさん。姉をよろしく」
「よろしく。イケメンな弟君」
お互いに相手の顔を褒めて笑い合っていたけど、恐らく俺も義兄さんも心境は違っていたと思う。
ちなみに、俺は義兄さんを見てイケメンで健康的な体を見てうらやましいと思うのと同時に、ぶっ殺そうかと思ったけど体が動かないから諦めただけ。
義兄さんの俺に対しての気持ち? 姉さんが俺の事ばかり心配するから嫉妬でもしてたんじゃね? 聞いてないから知らんけど。
姉さんと義兄さんの結婚式は俺も参加できるようにVRで行なわれた。
現実の結婚式と異なってVRならではのド派手な演出の中、俺も幸せそうな姉さんを見送る。
ド派手な花火にド派手なパレードを見て、行った事のないネズミの国のエレ……エレ……エレなんとかパレードを垣間見た。
父さんは結婚式の最中ずっと嬉し泣きをしていたけれど、今思うとあの泣き方は半端なかったと思う。多分、父さんの中ではベストテンに入る恥ずかしい思い出になっただろう。
今、二人は義兄さんのご両親と一緒に商店街のパン屋で働いている。
そのパン屋は美男と美女の夫婦が働いている店として、マスコミに紹介されてからは繁盛していると聞いていた。
味で勝負せずに顔で売り上げを伸ばす卑怯なパン屋。俺の中ではそう位置付けている。
『ねぇ、ねぇ、零ちゃん。今、何かネットゲームやってる?』
「いや、そもそもやってねえし」
ネトゲ廃人を前提にして話すのは止めろ。俺がやるのはコンシューマーのRPGやアクションゲーだ。
最近はシミュレーションにも手を出して寝不足の日々が続いている。
終わりが見えないジャンルは麻薬と同じで廃人になると知った。ついでに言うと、ネットゲームも同じ部類だと思っている。
ちなみに、義兄さんと姉さんはいい年こいて廃人クラスのゲームマニアだった。ゲームなんて止めてエロゲー顔負けのマニアックプレイで子作りでもしてりゃいいじゃん。
姉さんは子供の頃からゲームが好きだったけど、義兄さんはゲームが好きな姉さんに振り向いて欲しいがために、アウトドアの趣味を止めてゲームマニアに転換したらしい。恋に盲目だったとはいえアホだと思う。
『じゃあ、一緒にゲームをやらない? Magic & Sword Age of World(M&S)ってVRMMOだけど』
「ネットゲームってアイテム課金でボリまくりだから……やる気はないね」
『ふふふ、M&Sは今までと違って従量制だからだいじょーぶ』
「従量制?」
『そそ、ゲームのログイン時間で課金するの』
「へー珍しいね。ちなみにいくら?」
『ゲーム内の一カ月で250円』
「それ安くない?」
俺が驚く様子に、自分の手柄でもないのに姉さんが踏ん反り返って胸を張った。
『お姉さんが説明しよう。M&Sはオープン開始から世界初の加速時間システムでゲ……』
「あれ? 加速時間ってもう国から許可出たの? 治療、科学目的以外じゃ不許可だったはずだけど」
話を中断させて俺が質問すると、姉さんがキョトンとした顔をした。
『ありゃ? 知っているの?』
「そりゃ、治療で使ったことあるし……」
加速時間システムとは名前の通り、VR空間の時間を加速させるシステムで、十数年前にアメリカで公開されてから、日本でも医療や科学などの限定で使われていた。
公開された当初は、人に使用すると精神に影響があったらしいが、最近では長時間の使用でも影響が出ないように改良されて、ようやく民間にも出回り始めたらしい。
そして、姉さんにも言った通り、採取した俺の血液をVR化して加速時間システムで経過を見るなど、治療目的で使っていると担任の医者に教わった。何でもVRにするのも如何なものかと思う。
俺と加速時間システムの関係を簡単に説明すると、姉さんが納得の表情を浮かべた。
『なるほど……だったら話が早いわね。M&Sは国からも許可が出た日本初の加速時間システムを使ったMMORPGなの。ゲーム内の一日が現実の一時間になってるから元が取れるらしいわ』
つまり、一カ月間毎日5時間遊べばゲーム内では百五十日だから、現実の一月での料金は1250円とちょうど良い値段か……。
廃人だったらもっと料金が取れると考えれば、ボッタクリガチャゲームと違って、比較的良心的な課金システムと思われる。
「へー、それなら平気かな」
俺がそう言うと姉さんが笑顔になる。
『ホント? やったね♪ 実はね、パーティーでローグクラスが居なくて困ってたんだ~』
ん? ちょっと待て、気になる発言が聞こえたが?
『いや、いや、大した事はないよ。私とりょーちゃんとたー君とみーちゃんでオープンβから遊んでいたけど……』
今の姉の言葉を通訳すると、りょーちゃんは義兄さんの事。
たー君とみーちゃんは、姉さん達が経営しているパン屋と同じ商店街にある喫茶店の夫婦で、
そして、その夫婦もネットゲームが好きで、姉さん達のゲーム仲間というのを前に聞いていた。
『クラスがキャスター、タンク、アタッカー、ヒーラーでローグ系が居ないのよね。だから零ちゃんにローグをやって欲しいな~』
姉さんが画面の先で上目使いをしてこちらを見る。身内に色目を使うんじゃない!
それにローグって事は盗賊だろ? 攻撃力がなくて弱そうじゃん。
「何でローグなの? 魔法使いとか戦士とかじゃ駄目?」
『だめ?』
俺が希望の職業を言うと、今度は上目使いに加えて涙目が追加された。だからその発情したメスのツラは止めろ!
「駄目ってわけじゃないけど、理由が知りたいね」
『色々あるけど、ローグが居ないとワナに引っかかったり、ドアが開かなかったり、宝箱が開けられなかったり、
さらにうるうると涙が追加される……これ演技なんだぜ、凄いだろ。
この仕草でいったい何人の男を騙ました? そしてその騙された中に義兄さんは確実に入っている。
「なるほどね。ところでβでローグの知り合いとか見つけなかったの?」
『それがねぇ……βで公開された初期ダンジョンやフィールドだとローグの活躍の場がなかったのと、攻撃力が低いからレベリングに入れなくてフレも作れなかったのよね。それに、ローグをやる人の話を聞くと大抵はPKをやりたい人達で、私達みたいにダンジョンの攻略を目的としている人とは少し違うかなぁって……』
ただの脳筋プレイじゃねえか! 自業自得だバカヤロウ。
だけど、今やっているレポートを終わらせればキツイ宿題もないし、付き合うのは構わない……まあ、ゲームが合わなかったら止めればいいだけだしな。
「暇だから付き合うよ」
『やったー!! やっぱり零ちゃんに頼んで正解。だから大好き♪』
画面の先では姉さんが涙目の演出を止めて、明るい笑顔で恥ずかしいセリフを言っていた。
可愛い姉だと思うだろ? 先に言っとくが、性格は逆で鬼畜なんだぜ。
「恥ずかしいからやめて」
『うふふ、照れちゃう零ちゃんもかわいい……それでね、取って欲しいスキルはね~』
その後、ゲームのシステム説明やローグで取って欲しいスキルを2時間以上聞かされることになった。
仕事はどうした……。
ゲームに参加する約束をしてから十日後。Magic & Sword Age of Worldのサーバーオープン日。
インストールも事前に済ませてM&Sにログインする。
ニューゲームからアナウンスの案内に従って、キャラクターメイキング画面に移った。
容姿と名前だが、基本は現実の本人と顔は変わらない。ネカマも無理。
せめてゲームの中ぐらいは美形キャラを作らせても良いと思うが、現実とかけ離れた容姿を許可すると詐欺被害が続出するらしく、日本の法律で禁止されているので仕方がない。
この法律ができた時、ネットだと人格が狂暴になる人達や、マスコミが騒いだらしいが、法律が出来るという事はやはり人は詐欺をする種族なのだと思う。
顔の設定は弄れないけど、年齢、身長、体重と髪型は変更可能だった。
たとえ現実ではデブ、チビ、ハゲの三拍子がそろったご老人でも、顔さえ良ければゲーム内では背が高く、痩せて髪の毛がふさふさな青年キャラができる。さっきの法律って意味なくね?
人間以外を選択した場合、耳がとがったり、腹回りが増えたり、尻尾が生えたりといろいろと変化するっぽい。珍獣か?
俺の場合、ガリガリなキャラクターが初期設定で現れると思ったが、何故か病院施設のVR空間で設定している標準体形のキャラが現れた。
現実から直接ログインせずに病院施設のVRから起動しているからか? 原因は不明。
ちなみに、病院施設のVR空間で設定している俺の容姿は、現実の自分を少し健康体にした設定をしている。理由は現実と全く違う体に変更すると医者が混乱するから。
ガン末期の患者がガチムチな黒マッチョだったら医者も腰を抜かす。
VRで問診に来て「お元気そうですね」と言った直後に患者がご臨終は笑えるけどシャレにならない。
そして、俺のキャラメイクだが……「変なキャラにしたらやり直しさせるから。分かってるわよね」と、事前に姉さんから笑顔で睨まれたし、それでやり直しさせられても面倒くせえ。
色々弄ったが、結局、最初に出てきた初期設定をそのまま使用することにした。
種族はヒューマンで容姿と年齢の変更はなし。髪型はそのままで色も黒にする。ちなみに、2カ月に1回しか病院に美容師が来ないから髪型はチョイ長め。
肌は今のままだと色白なので少し健康的にしたら、自分で言うのは少し恥ずかしいけど物凄い美青年が誕生した。
自分の頬をなぞって、コイツ誰だと眉をひそめる。
キャラクター名は無難に『レイ』にすると普通に登録できた。
この名前を使いたいプレイヤーは多そうだし使えないと思っていたけど、どうやら運営は名前ではなくIDでプレイヤー管理をしているらしい。
メイド喫茶で「お帰りなさいませ、ご主人様」と微笑まれた直後に、「4番テーブル入りました」と声が聞こえる。そんなシステムが素晴らしい。
次にステータスだが、驚くなかれ、このゲームは自分で設定するステータスやHPが存在しない。
どういう事かと言うと、現実の知能や身体能力がそのままゲームに反映されるらしい。
そして、反映されるパラメータは全部で5つある。パラメータを軽く説明すると……。
・筋力は攻撃力が上がって、1回の攻撃が高くなってイカセ4時間。
・体力は持久力が上がって、責められても我慢してイカサレ4時間。
・敏捷は素早さが上がって、1回の攻撃が速くなって激ピストン。
・器用は器用さが上がって、テクニシャン。
・魔力は時間よ止まれ!
微妙に下ネタをごまかした軽い冗談だが、ステータスはこんな感じで合っている。1つだけ言えば、魔力は現実の知能が反映されるらしい。それと、冗談の意味が通じなかったら大人になってからまたおいで。
そして、現実の能力がそのままゲームのステータス値という事は、例えるなら、馬鹿は魔法を使いたくても馬鹿だから魔法の攻撃力が下がる。
問題は、それだと運動能力の高いアスリートや頭の良い奴が有利になるので、凡人からしてみればゲームシステムに不満が出る。ゲームキャラを強くしたいからと、体を鍛えるのもこれまた微妙。
そこで「ユーザー」=「金」と考えるゲーム運営会社は、不満を解消するためにプレイヤーの身体能力値に種族のボーナス値を加えた値をステータスにした。
先ほどの馬鹿を例に挙げると、馬鹿だから魔法は苦手だけど知力の高いエルフの種族にしたら魔法が少しだけ得意になった。
「これで皆殺しだぜ!!」と、馬鹿は残念ながら種族のボーナスを加えても馬鹿のままなので、馬鹿な行動を取る。
それとレベルは存在する。
レベルが上がれば種族のボーナスが上昇するから、キャラクターも当然強くなるという寸法だ。
最後に、このゲームは現実で体を鍛えても心臓に包丁をぶっ刺せば一撃で死ぬのと同じで、ゲームでも心臓を刺されたら即死するらしい。リアリティー求め過ぎちゃうか?
さて、ここまで説明して何が言いたいかと言うと……俺、病院で寝たきりの人間だぜ?
魔力はまあ良いよ、別に馬鹿じゃねえし。敏捷、器用は知らん。
問題は体力、筋力だと思う。今の俺は人間としての運動能力なんて持ってねえし、生きるための体力すらねえ。
姉さんも何でハンディキャップを負った俺なんかを誘ったのか……あの女、学校の成績は良かった筈なんだけど、実は馬鹿だったのか?
先ほどのキャラ作成時に普通に動けたから、種族ボーナスの恩恵は受けていると思うが、俺のキャラクターの攻撃力が低いのだけは覚悟しておいた方が良い。
次にスキルの取得だが、初期に取れるスキルは5つまで。
えっと、姉さんに言われたスキルは……。
・生存術
生存術は生命感知と、採掘、採取感知
・危険感知
危険感知はワナ感知と、アクティブモンスターの感知をする
カギ開けも頼まれていたから、姉さんに「開錠スキルを取る必要は?」と尋ねると、プレイヤーのレベルが10になってNPCからでしかスキルを取れないらしい。
でも姉さんは「零ちゃんは鍵開けの才能があるから、スキルは要らないかもね」と言っていた。根拠は不明。我が姉の思考は何年経っても理解できない。
姉さんに検索スキルだけだと貧弱だから、何か攻撃スキルが欲しいと相談したら、次の2つを薦められた。
・戦闘スキル
戦闘スキルは物理命中にボーナス。
戦闘スキルがないと接近攻撃が全然当たらないらしい。
例題として魔法剣士を目指す場合だと、戦闘スキルに加えて魔法の命中率が上がる魔法スキルを取る必要がある。
そして、常駐できるスキル枠は10個までの上限が設けられている。
つまり、魔法剣士の場合だと、物理と魔法が使えるから攻撃方法は増えるけど、逆に取得するスキルが多すぎて火力が下がったり、防御力が落ちるデメリットがあるらしい。
簡単に言えば、俺Tueee禁止のゲームシステム。
・盗賊攻撃スキル
盗賊系アクションスキル。
このスキルは目くらましや背面攻撃といった、基本攻撃が卑怯という素晴らしい攻撃技を覚える事ができる。
他にも攻撃スキルを取りたかったけど、常駐できるスキルの数を考えると、検知系スキルが常駐できなくなるから諦めた。
最後の一つは少し考えて、ローグらしく隠密スキルを選択した。
・盗賊隠密スキル
盗賊隠密スキルは自分の姿を隠すことができる。
イメージはスニークアクションゲーム。忍び寄って一撃で葬り去るとか、そこに惚れる、痺れる、憧れる。
スキルを設定した最終結果は、ドン!
-------------------
レイ Lv1
取得スキル
【戦闘スキル<Lv.1>】【生存術<Lv.1>】【危険感知<Lv.1>】【盗賊攻撃スキル<Lv.1>】【盗賊隠密スキル<Lv.1>】
-------------------
最後にコンソール設定と基本設定を行ってから完了ボタンを押すと、オープニングムービーが始まった。
神と悪魔が戦い、魔王が現れて勇者が退治する。
ベタな動画を見て、シナリオ作成をどこからかパックったと思ったのは俺だけか?
ムービーが終るまで十分以上。キャンセルもできずに眺めていたら何時の間にか終わって、白い空間に俺だけが立っていた。
このゲームはロビーで待ち合わせをしてから同時にログインするのが基本。
理由は加速時間システムを使うと、現実とゲームの時間に差異が発生して、現実で十分遅れただけでゲームでは三、四時間待つから。
先程設定したゲームのコンソールを開いて、ヘッドギアに搭載されている記憶領域を外部リンク接続機能で直結する。この設定を行うと、ゲームの外にあるヘッドギアのデータ領域から、現実のファイルなどのデータをゲームの中で閲覧できると説明書に書いてあった。
設定してから、ディレクトリを開いて姉さんのゲームID番号が書いてあるメモを取り出す。書かれているID番号を入力して、ゲームの通信機能から姉さんを呼び出した。
≪やっほー、お疲れ。設定、終わった?≫
≪今終わったよ。オープニングムービー長過ぎじゃね?≫
≪だよね~。私はβでも見ているから2回目なのにキャンセルができなくてだらだら見てたよ~。もう全員ロビーに集まってパーティーも組んじゃっているから、レイちゃんもパーティーに入れるね≫
それから直ぐにカートという名前でパーティーの参加申請が送られてきた。
名前からして男キャラ? 男装なのか? 姉さん何時の間にそんな趣味を……。
≪姉さんのキャラ名ってカート?≫
≪あー言い忘れてた。りょーちゃんがカートで、私がコートニー。たー君がベイブでみーちゃんがジョーディンだよ≫
姉語を翻訳すると、義兄さんがカート、姉さんがコートニー、太一さんがベイブで、美紀さんがジョーディンという名前らしい。
一瞬、姉さんがネカマならぬ、ネナベプレイをするのかと思った。さすがに姉がネナベプレイをするネットゲームを一緒に遊ぶのは、弟として抵抗がある。
『カート』といえば、昔のロックグループでそんな名前のボーカルが居た気がする。俺が生まれる100年ぐらい前だけど……そのロックグループの名前を思い出しながらパーティー了承ボタンを押すと、ロビー専用パーティーチャットから声が聞こえた。
ちなみに、ゲーム内では専用グループチャットは存在しない。ただし、それでは不便なのでtell機能が付いている。
「零君、久しぶり」
その場に居ない義兄さんの声が耳から聞こえた。
「お久しぶりです」
「綾が無理言って悪いね。だけどすごく助かるよ」
「零君だね、話は聞いているよ。俺は杉山 太一。ゲーム内ではベイブでよろしく」
「妻の美樹でーす。ジョーディンだけどジョーディーって呼んでね」
義兄さんの後に同じパーティーメンバーの太一さんと美樹さんの声が聞こえた。太一さんは渋い声、逆に美紀さんは可愛い声をしている。
「ベイブさんとジョーディーさんですね。よろしくお願いします」
俺が挨拶をすると、義兄さんが注目させるために手を叩いた。
「よし!! 全員が揃ったし、そろそろ行くか」
「「「「オッケー」」」」
そして俺達はM&Sの大地に降り立った。
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