33.涙雨、儚くもうるわし(一)
新選組は隊を編成し直した。
局長、参謀、副長の下に10の組をつくり、それぞれに組長を配置。
その下には伍長がふたりずつ、そして平隊士が振り分けられた。
このほうが命令が伝わりやすく、迅速で効率的な動きができるとか。
全体を指揮するのは副長の土方さん。
組長や監察方に指示するのも副長。
出動を決めるのも副長。
権力を持っているようだけど、その分責任は重大。
万が一、失敗があれば全責任がのしかかる。
つまり、否応なしに切腹するのも副長。
新選組と局長、両方を守るためだ。
そう教えてくれたのは
良順先生から病気の隊士の治療や健康管理も任された。
先生が京に滞在中は、何度か屯所にいらして、山崎さんに医学を伝授していた。
「そんだけ重大な責務なんや。それがこなせんのも土方さんの器やで」
「うん…」
「そないな顔すんな。美人が台無しや」
「美人?やった!」
「冗談やで」
「え~!ひどい!」
「鏡見てみぃ」
「はははっ!」
キャリアも豊富で、且つ有能。
大坂出身で京阪の地理にも詳しい。
新選組幹部には関西出身の人が少ないから、土地勘のある山崎さんは貴重な人材。
大坂商人の事情にも通じ、人脈もある。
頭脳明晰、文武両道。
政治や社会情勢について論ずることもできて、おまけに医術の知識も併せ持つ。
仕事ぶりは真面目。
地道に完璧にこなすから、抜群の人望を誇る。
称賛すべきはその変装技術。
ある時は薬屋、またある時は米問屋商人。
さらには、何とビックリ華麗なる遊女にまで化けちゃうからスゴイ。
いくつもの仮面を被り分ける、変幻自在の名人!
比較的無口なのも天職と賛嘆される所以。
絶対に顔を知られてはならないし、守秘は密偵の鉄則。
裏を取るため尾行したり、身を潜ませ張り込むことが多いから余程の忍耐がなきゃ務まらない。
普段から町人の格好をしたり、プロ意識の高さに脱帽だ。
「ちなみに私は一番隊の組長だよ」
腕を買われているのがうれしい、誇らしげな彼。
「沖田さん」
山崎さんの手前、無理はダメだと目で伝言。
「分かってるよ」
「何がや?」
「ううん、何でも…」
只今、裁縫中の3人。
「かれんは相変わらず知りたがりやな」
「世の中のこと、いろいろ知ってたほうがいいでしょ?」
「口を開けば、何で?どうして?って子供みたいやな」
「いいの?何でもかんでも教えちゃって」
「いいのいいの!」
「総司よりは教え甲斐あるわ」
「知恵を蓄えてるって内緒ですよ」
「また叱られるよ~」
「ここにいる限り必要なんです。足手まといにならないためにも、自分の身のためにも」
「せやな。そう言われれば、かれんの言うことも一理あるかもな」
「でしょ?一応ね、ちゃんと考えがあってのことなんですよ」
「鉄砲玉なだけじゃないんだ」
「そうですよ。なーんにも考えないわけないじゃないですか」
「山南先生の言うとおりやな」
「「山南さん?」」
ぴったり声を揃えて聞き返す。
「頼まれたんや。自分がおらんようになったら、かれんの相談に乗ってくれて」
そこまで考えてくれてたなんて…
山南さん亡き後、社会情勢を聞ける人がいなくてお手上げ状態だったもの。
土方さんに聞いても必要ない、って一蹴でしょ。
局長は忙しいし。
伊東先生は知識があるのは確実でも、あれ以来土方さんの目も厳しくなってるし、何か聞きにくいなぁ…平助さんのお師匠様だし、いい人だけどさ。
源さんと平助さんは教えてくれそうだけど、それこそ土方さんの耳に入る気が。
斎藤さんは余計な話しないし。
左之助兄ちゃんと永倉さんと島田さんじゃちょっと…
沖田さんに至っては興味ナシ。
「総司も世情に興味を持つとええけど、そら無理やろから、剣術に精進するよう言うてはった」
「さすが山南さん。私たちのことよく分かってる」
「ほんまの弟や妹と思うてたんやな」
「私たちにとっても兄なんですよ」
「あ!山崎さんもお兄ちゃんだと思ってますよ」
「それはそれは、おおきに」
「次は何に変装するんです?」
「飴売りの行商人の姿で探ろう思てる」
「たまには裏方じゃなく、表に出て戦闘してみたくない?」
「山崎さんは棒術が得意なんでしょう?」
「あの
「陰日向でかめへんのや。組織ん中ではそないな役割の奴も必要やよって」
「すごいや」
「局長と副長、総司ら組長に光が当たればええ。それがいちばんや」
「本当に感謝してますよ」
「新選組の活躍は、裏方に徹してくれる山崎さんたちのお陰ですよね」
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