18.愛し青の戀人(二)
「容姿に自信持ったはる裕福な商人のお嬢はんなんかでな、結婚はしたないけど、自由な時間とお金が欲しいって
「はぁ…ちょっと予想外の話だわ…」
「もちろん、少数派やけどなぁ。いっぺんに何人もの旦那を持ったはる人もおるんよ」
「掛け持ち?!すごいな…」
「旦那ひとりにつき、二ヶ月更新でな」
「契約更新もあるの?!」
口入屋って…現代の人材派遣業とか人材斡旋業のことだけど、口入屋の中には人買いとか人さらいをしてる悪徳業者がいるって聞いたことあるんですが…
「まぁ、その人たちは置いといて!何で女の人だけがこんな思いしなくちゃならないの?」
「しょうがおへん、そういうもんや」
「しょうがなくない!男の人は別な女の人作って満足かもしれないけど、こっちの心はどうでもいいわけ?!」
「それがうちの商売やさかい」
「ごめん…」
「ええんよ。言われてみればその通りや。誰でも自分だけを見てほしいって、そんなん当たり前やな」
「うん…」
「ふふっ、今までそんなん考えたこともあれへんかったわ」
「女の人だけガマンするなんて、そんなのおかしい」
すれ違いとか目移りとかある。
浮気とか不倫とか、略奪愛とか。
残念だけど。
絶対ないとは言い切れない。
盗った盗られたの諍いもあるけど。
ひとりの人を想い、想われるって当たり前のことだと思ってた。
これも時代の違いなんだろうか。
きっと、花街にいるお幸ちゃんの周りにはこういう恋がたくさんあるんだ。
火遊びのような恋。
仮初めの恋。
自分だけを見てくれない恋。
それを仕方ないと思うしかないの?
「最初はいつもと同じ、お客と太夫やった。いつの間に本気になってしもたんやろか」
この恋は本気。
たぶん、局長も。
「なぁ、あの土方先生のこと、どうやって惚れさせたん?その、土方先生は…」
「女好きだし、女遊びが派手だったから?」
「うん…」
「大丈夫、知ってたから」
明るく笑って答える。
不安がないと言えばウソ。
だけどそれは過去の話だと思ってる。
結婚してない人と恋に落ちたわたしはラッキーだった。
本当はラッキーのただの一言では言い表せないくらい。
土方さんの女好きは生まれついてだろうけど、以来、花街には行っていないようだ。
もちろん、仕事上の接待やお付き合いは別だ。
そのくらい、わたしだってわきまえている。
自分の欲のために、女遊びをすることはなくなった。
わたしを本気で想ってそうしてくれたこと。
現代人からしたら、当然すぎて何言ってんの?って話なんだけど、これって今ここではすごいことなんだから。
「惚れさせたなんて思ってなくて…自分でもよく分からないの」
「よう分からんって?」
「好きになってもらえる自信なかったから、わたしのどこがよかったのか…」
「贅沢な悩み」
恵まれてると思う。
なのに、気後れしてしまって、時折見え隠れする心のモヤモヤを消すのに必死になる。
何でわたしを選んだの?
何が良くて、どこが好きなの?
土方さんの周りにはキレイな女の人がいっぱいいるじゃない。
一流の女の人。
わたしはそこらによくいる普通の人。
あちこちに馴染みの太夫がいると言ってた。
もしかしたら、花街のお姉さんの中にも本気で土方さんのことを好きだという人がいるかもしれない。
花街に通わなくたって、女の人は土方さんを見れば振り返る。
本当にわたしでいいの?
直接想いを聞いたんだから、こんなふうに不安がることも自信をなくすこともないのに。
疑ってるわけではないの。
一途で義理堅く、そして誇り高い。
そんな立派な人じゃない。
涙もろいのは確かだけど。
「堪忍え、悩ませてしもたみたいや…」
「ううん、そんなことない!いいの、いいの!」
いけない、いけない。
お幸ちゃんの話を聞いてる途中なんだから、自分の小さな悩みなんて後回しだ。
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