【ぬいぐるみ。戦記】
人喰いウサギ
第1話
1。『あ………しまった!』
突然だが…。
「………………………………………」
……………………俺は、ぬいぐるみだ。
名前は…………まだ無い。
いや……………………記憶も、無い。
いやいやいや、記憶がないから…名前を思い出せないのか ?
んーと。
えーと…まあ何か? ラノベか何かのアレか?
異世界転生とか、無双とか そういうヤツなのか?
ナビゲーターに女神や精霊とか、オプションプランで武器や能力まで貰えるヤツなの?
…………………………………夢だと良いな。
頼むから……。
「………………………………………………………」
しかし、静かだな…一体、ここ何処だ?
それに、大体………立てるのか?
立って歩けるのか、この身体。
スク!……スタスタスタスタスタスタ、ピタリ。
うを?!
気持ち悪いくらい、ヌルヌル動けるぞ!?
ひー、関節(?)曲げずに歩いてるよ俺。気持ち悪!
どんな最適化だよ!?
ふう……まあ落ち着こうじゃないか俺、取り敢えずは…そう、現状把握だな?
まずは意志疎通だ。
「………!?……!!……!」
ふむ…もしやとは思ってはいたけど、やっぱり声は出らんな。
まあ、呼吸している風じゃないもんなー。
「………………………………………………………」
どうやら待ってても、主人公補正としてのナビ妖精とかは現れないようだ。
プレイヤー画面やステータス表示も 勿論、無し…と。
何か、やる事なくなったな…。
そう言えば…競合者や比較対象が無いと、怠惰になって行くって聞いたけど…あれ本当かもな。
本気で ヤル気自体が、無くなくなって来た…。
………………………………………寝るか。
「……………………………………………………………………………………」
………………………ん?…え?!
何で俺の一人称は、俺 なんだ?!
俺 なんて一人称使うの人間だけじゃないの?
それとも…理解されてないだけで、他の動物も一人称とかいう自意識あるの?
…………………分からん。
あ。でも…ラノベとか転生とかゲームとかの知識はあるから…。
やっぱり元々は人間だったのかも…。
あと…仮に転生だか、転移だかしたのだとしても……だとしても!
………………………………………何で、ぬいぐるみ?
…………………やっぱり、分からん。
勇者やドラゴンとは言わん。
俺も、いい年の大人だったような気がするから……多分。
でも、せめてゴブリンやスライムとかじゃ……駄目だったのか?
…………………………何で ぬいぐるみ…なの?
あり得ないんですけど…何か、ヤらかしたの俺?
分岐とか、前世とか……これじゃ、まるで…ゲーム最初の自キャラ作りで、リセマラもせず。
間違ったまま、スタートボタン押してしまって…仕方なく始めた哀れな人じゃん…。
「……………………………」
…どうなるんだろ、俺?
2。『ビキニアーマーが 1体現れた!』
……本当、どうなるんだろ。
「……………………………………………」
まあ、悩んでても解決しなさそうだな。
本気で、能力もアイテムも渡して貰えそうにない気配だし…。
よし、そういう事なら…まずは今、俺が何処にいるのか?……だな。
まだ、元の世界なのか、異世界に来たのかも分からんしな。
その辺を歩き回ってみるか。
とりあえず向こうの、明るい方に行ってみよう。
テックテクテクテクックテクテクテクテククッ。
「………………!」
出口…否、一本道だったから出入口発見。
外の様子を……チラリ。
……ふむ。目覚めた時から、思ってはいたんだよなー。
この身体、何故か夜目が利くし。
どうやら俺は…。
岩山みたいな所に出来た、大きめの亀裂の奥に居たらしい。
「………………………………」
外には、何もいない。
動物や虫達の、鳴き声一つしない…。
…………………おいおいおい。
異世界転生モノと思いきや、タイムスリップアドベンチャーとかじゃないだろうな?
人類どころか生物全般が一旦滅びて、植物と微生物しかいない………ような、そんなクソゲーみたいな設定とかじゃないよな?
「………………」
………………洞窟に戻るかなー。
「…お、おい!…そこの貴様!」
ん? 右側からか…?
…女の、声? 良かった…人類が生存する世界なんだな。
「おい。ちょ…と、止まれ!」
おわ?! 何だ、この女!
ピカピカ光る…巻き角が生えてるぞ?!
むう…やはり、異世界である可能性は捨てるべきじゃないのか……しかし、この金角女。
「………………………」
気温が高いからか、体温が高いのか知らんが…。
「止まれ!こ、こっちに来るな!」
確か…ビキニアーマーとか言う、女性用の防御装備だよな……あれ。
まあ…これを、防御装備に含むかどうかは微妙と言わざるを得ないが…。
仮に、この地域がとても治安が良い所だとしても…こんなトレッキングコースみたいな場所で、下着か水着姿で彷徨くなんてあり得ないよな。
「………………………………………………」
…随分と奔放なというか、ハッキリと破廉恥な格好の女だな…大体 ビキニアーマーの、戦闘での有為性や必然性ってあるの?
いや確かに、通常の騎士鎧よりは格段に軽いだろうけどさ…。
…………………否、待て!
軽々に判断しては、大局を違えるぞ!
そうか!
水中での稼働を、機動…ではなく運動性を主眼に置いているのか…。
「………………」
何か、引き釣った表情で俺を見下ろすビキニアーマー女。
まあ、とりあえず話し掛け…。
ドゲシ!ガスガスガス!ボコバコベシ!!
「と、止まれと…近付くなと言っただろっ?!」
俺の意識は、暗い井戸の底に沈んで…い…た…。
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