「別れたあとでも友達でいられるのでしょうか」

そのときだった。

コツコツとブライズルームのドアがノックされたかと思うと、カジュアルなシャツとパンツにジャケットを羽織ったの男の人が、勢いよく入ってきた。


「ちぃ~っす。この度はおめでとうございまっす。前撮りと当日の撮影を担当させてもらいます、カメラマンヨシキっす。よろしくお願いしゃ~~っす!!」


それはヨシキさんだった。

白いレンズのついた大きな一眼レフを、肩から二台ぶらさげている。

ヨシキさんの方を笑顔で振り向くと、優花さんは舌を出して言う。


「あは。結局ヨシキさんにカメラマン頼んじゃったのよ。やっぱ一世一代の晴れ舞台の写真を残すには、最高のカメラマンでなくっちゃね」

「おお。光栄だな。オレの全身全霊でソリン、、 いや、優花さんのウエディングフォト撮り尽くしてやるぜ。期待してろよ」

「ヨシキさんよろしくね。あたしたちも可愛く撮ってね」

「あ、あの、、 ヨシキさん。わたしもよろしく、お願いします、です((((*´・ω・。)」

「…」


今までの噂話なんてなかったかのように、挨拶を交わす恋子さんと桃李さんだったが、突然のことにわたしはびっくりして、言葉が出ない。

まさか、こんなところで、ヨシキさんと再会するなんて。。。


「ふたりともよろしくな。

お! 凛子ちゃん、その白のドレスも可愛いじゃない。いつもより清楚に見えるぜ。よろしくな」


話すことさえ浮かばないくらい動揺したわたしに、ヨシキさんはつきあってたことなんてすっかり忘れたみたいに、ふつうに接してきた。

そんなところはちょっと口惜しかったけど、そういうヨシキさんの性格だから、他の元カノたちとも、別れたあとでも友達でいられるのかもしれない。


 ヨシキさんの登場には戸惑ったものの、桃李さんや恋子といっしょに、優花さんの花嫁支度を手伝うのは、受験の気分転換にもなって、楽しかった。

なにより、一時はぎくしゃくしたみんなとの関係が、ひとつの目的に向かって、多くの困難を乗り越えながら、お互いに協力することで、修復されていく気がする。

まるで、コスプレをやっていた頃の、合わせの企画撮影みたい。

みんなでキャラの分担したり、ロケ場所を決めたり、撮影に合わせて衣装や小物を準備したり。

あの頃の、みんなでワイワイ騒ぎながら、なにかを作り上げようとしていた日々が、こうして優花さんの式の手伝いをしていると、自然とオーバーラップしてくる。




 3月になって、大学入試という大きな峠を乗り越え、無事に志望の大学への進学が決まって、ようやく重い荷物を降ろせた、桜の咲き誇る季節。

優花さんの結婚式と披露宴が、郊外のオシャレなゲストハウスウェディングの会場で、華やかに催された。


 結婚式がはじまるまで、もう間もなく。

ラウンジでは友人や親戚が集まってきて、のんびりと式がはじまるのを待っていたが、このブライズルームでは、花嫁の最後の支度に余念がない。

ヘアセットもほぼ終わり、イメージどおりの満足いく仕上がりのようで、優花さんは上機嫌で笑顔をほころばせている。

最後のチェックをしている桃李さんに、わたしは、感心しながら言った。


「すごいです。桃李さんのお仕事って、美容師さんだったんですね」

「てへ°˖✧◝(・∀・)◜✧˖ 

まだまだ見習いなんですけど。

実はコスプレでキャラのヘアスタイルやメイクを極めようと修行していたら、いつの間にか美容の専門学校に通うようになってて、気がついたら美容師になってたってわけなのです(*^▽^*)」

「いやいや。桃李さんのメイクって、かなりの腕前だと思うよ。アイメイクにしても、わたしに似合った色をチョイスしてくれて、すごくナチュラルに目力アップしてくれてるし。ほんと、桃李さんに頼んでよかったと思ってるわよ」

「いや~。。。( ノ*^▽^*)ノ

そんな風におっしゃっていただけると、桃李舞い上がってしまいますぅ。・゚゚・(≧д≦)・゚゚・。

わたしはただ、自分の萌えのおもむくままにやってたんですが、それがこうして優花さんのお役に立てるなんて、、、

人生どう転ぶかわかんないですよね~ (๑॔˃̶ॢ◟◞ ˂̶ॢ๑॓)*೨⋆」


絶賛する優花さんにそう応えて、桃李さんは照れ笑いした。


「それにしても、恋子さんや美月姫といっしょに優花さんのブライズメイドに選ばれるなんて、桃李は三国一の幸せ者です~~~☆キャーーー(≧▽≦)ーーーッッ☆!

ああっ。それは花嫁さんにつける接頭語でした。(´д`;)テヘペロ」

「もうっ。桃李さんったら、相変わらずですね」


式の前のひととき。

緊張することもなく、わたしたちはゆるい時間に浸っていた。


つづく

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