「これでは相談をするどころではないです」
「忠彰さんにはもう話したわ。そしたら言ってくれたの。
あと二ヶ月もしたら安定期に入るし、わたしの卒業と同時に、式を挙げようって」
「じゃあ、優花さん、いよいよ兄と」
「永久就職ね」
「ほんとに?!」
「ええ。順番がちょっと逆になっちゃったけど、ついに結婚よ!」
「おめでとうございます!」
「ありがと! これで凛子ちゃんも晴れて、あたしの妹ね」
「うるさい小姑になると思いますけど」
「あは。まだ男か女かもわかんないけど、凛子ちゃんも可愛がってあげてね」
「もちろんです!」
そう答えると、優花さんは幸せそうな微笑みを見せた。
今までに見せたこともないような、ふんわりとした満足げな表情。
優花さん、なんだかいきなりお母さんになったみたい。
その数日後、優花さんはうちに来て、兄といっしょにわたしの両親に、懐妊の報告をした。
『よそのお嬢様になんということを』
と、最初は形式どおりに怒られたものの、兄と優花さんの結婚はすでに予定の範囲内だったので、父も母も孫の顔がもう見れることにまんざらでもない様子。
その翌日、正式に結婚の許可を受けに、兄は大友家に赴いた。
向こうでもそれなりにスッタモンダはあったみたいだけど、結納の日取りや式場探し等、すぐに実務的な話し合いに入ったみたいで、両家はとたんに慌ただしくなっていった。
結婚は予定していたとはいえ、突然の挙式なので、わずか二ヶ月あまりで式場を手配したり新居を探したりと、結婚の準備に兄も優花さんも余裕がなさそう。
これじゃ、ヨシキさんの相談をするどころではない。
そうでなくても優花さんの頭のなかは、すでに新婚生活にトリップしちゃってるみたいで、たまに顔を合わせるとすぐに、結婚式や新婚旅行、新居の話しをたっぷり聞かされるハメになる。
挙げ句の果てには、
『ヨシキさんに前撮りと、披露宴のスナップ写真を撮ってもらおうかな。せっかく残すなら、最高の写真がいいし』
と、お気楽なことを言っていた。
そんな、家の中が賑やかになってきた、センター試験まであと一週間という日の放課後。
その日は昨日の雪が路肩に残る、寒い一日だった。
校舎をあとにしたわたしは、マフラーに首をすくめながら、足早に家路を急いだ。
帰宅後の学習計画を練りながら、校庭のべちゃ雪を避け、校門をくぐり抜ける。
駅の方に少し歩くと、交差点の角にひとりの女の子が佇んでいるのに気がついた。
信号待ちをしているでもなく、不安げにうつむいたまま、なにかを待っている様子。
え?
あれは、、、
ロリータ風の可愛いポンチョコートを羽織って、ミニスカートの下には真っ白なニーハイソックスをはき、ツインテールの髪を長く垂らしてうつむいている女の子は、、、
桃李さんだった。
「美月姫。こ、こんにちはです (*´∀`*)ノ」
わたしを見つけた桃李さんは、ペコリとお辞儀をして、まるで視線を合わせるのを避けるかのように、うつむいたまま、小さな声で言った。
「少しお話しがあるんですけど、、、 今からいいですか?」
つづく
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