「いったいどんな漫画を読んでいるのですか!」
「あたしの元彼も、そのヨシキさんみたいなタイプだったのよ」
「えっ?!」
「あはっ。彼氏の妹さんに言うことじゃないかもしれないけど、凛子ちゃんだからついしゃべっちゃった。
信じられる? 三股よ!」
「そ、それはすごいというか…」
「乙女的には絶対NGよ! もうドロドロだったわ、ヤツはバンドやっててボーカルで、当然イケメンで女の子のファンが多くって、そのなかでわたしを彼女に選んでもらえてすっごく嬉しくて、あたし舞い上がってた。
でも、そいつは作る歌詞も軽かったけど、頭も軽い男でさ。ライブの度にほかのファンの
知りたくもない浮気話ばっかり耳に入ってきて、そのたびにあたし、彼に不満と嫉妬をぶつけてさ、あいつはあいつで屁理屈並べて、自分のやってること正当化しようとするし、ケンカばかりで気が休まるときがなかった。そして最後は、お互い、ボロボロになって別れたわ。
だけど、忠彰さんは違うの。
ルックスはいいけど、元カレとは性格が真反対でね。
だから、忠彰さんと出会ってすごく癒されたっていうか、安心できるのっていいなって、忠彰さんの存在を心から肯定できたの。
まあ、今となっては、元カレは忠彰さんと出会うための、単なる前フリだったって思ってるけどね。
あは。なんかおかしいよね。こんな話を彼氏の妹の凛子ちゃんにするのって」
「そんなことないです。わたしだから言えることもあると思いますし」
「そうよね~。忠彰さんにはこんな話、絶対できないもん。
でも、凛子ちゃんなら心を許せちゃえるのよね~。
ごめんね。今日は凛子ちゃんの相談に乗ってあげるはずなのに、あたしの暴露大会になっちゃって」
「いえ、いいんです。わたしもいろいろおもしろいお話しが聞けて、楽しかったですし」
「今の元カレの話、忠彰さんには絶対絶対、死ぬまでないしょだからね。あたしは墓場まで持っていくつもりなんだから」
「もちろん言いません。優花さんになにかおねだりするときの、切り札にとっておきます」
そう言ってわたしはペロリと舌を出した。
あれ?
こんな冗談が、自分の口からすんなり出てくるなんて。
優花さんは愉快そうに笑った。
「言ってくれるじゃない~、凛子ちゃん。あなたが忠彰さんの妹でよかったよ~。
なにしろ、こんな超絶美少女がライバルだったら、勝ち目薄いもんね。
凛子ちゃん、わたしが遊びに行っても、顔も出してくれないでしょ。
なのであたし、内心心配してたんだから。あなたたち、兄妹でラブラブなんじゃないかって」
「ラ、ラブラブって、わたし、お兄さまのことは」
「凛子ちゃんって、こんなに綺麗なのに、彼氏いないでしょ。てっきりブラコンかなって、疑ったりもしてたし」
「そっ、そんなの、考えたことも…」
「だよね~。あなたたちがノーマルでよかったわ~。今はコミックとかじゃ、そういう近親相姦モノって多いじゃない。あたしが忠彰さんの立場だったら、絶対凛子ちゃんをほかの男に渡さないな。腕ずくでも自分のモノにするわ。うん」
「い… いったいどんな漫画を読んでいるんですか! 優花さんはっ」
大通りに面したカフェで、わたしたちはお互いの恋話しで盛り上がった。
なぎなたや日舞、お花など、昔ながらのお稽古ごとをやっているわたしは、クラスメイトからもどこかとっつきにくい存在らしく、どちらかというと『恋愛に興味のない古風なお固い女』というレッテルを貼られて、こんな恋話をする機会もなかった。
だけど、優花さんはわたしをふつうの女の子として扱ってくれて、なんでも気軽に話してくれる。
わたしより四っつも年上だから、余裕があるのかな。
やっぱり、優花さんに相談してよかった。
渋谷で服やコスメグッズをぼちぼちと買ったあと、『ちょっと原宿にも寄ってみよう』と優花さんが言い出した。
そういえば、コスプレやイベントのことを話題にしたときは、優花さんはことさら身を乗り出して聞いていたような気がする。
オタクの気がある優花さんは、実はロリータやコスプレにもかなり興味があるみたいで、本場の秋葉原はちょっと気が引けるものの、原宿はロリータ服を扱っているショップも多いらしく、一度は見てみたかったそうだ。
原宿へ移動したわたしたちは、ラフォーレや竹下通りのショップを見て回り、このまえ桃李さんが着ていたような、ロリータ服を飾っているショップを覗いては、その豪華さにふたりでため息をついた。
襟の大きな薔薇柄のピンクのワンピースや、真っ白なレースや、ピンタックがたっぷりとあしらわれ、スカートは花が咲いたようにヒラヒラと広がって、裾からは幾重ものパニエがのぞいているドレス。
ボンネットというのだろうか?
赤ちゃんが被るような帽子を、頭に載せていて、それが幼さを余計に際立たせている感じ。
そういう『不思議の国のアリス』みたいなドレスは、確かに可愛いし、女の子の憧れだとは思うけれど、こんな派手で子供っぽい服を着て、街を歩く勇気は、わたしにはないな。
そんなロリータショップなどを見ながら、優花さんと竹下通りを歩いていたときだった。
前を歩いていた彼女がなにかに反応したらしく、急に歩をゆるめてひそひそ声でささやき、目配せをした。
つづく
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