私はだあれ
どろんじょ
第1話
私はここ数年妙だ。
好きでもない恋愛映画にとてつもない感情移入をして涙をこぼしたり、好きではなかったはずの甘いものを好むようになった。
以前は全く興味が持てなかったすこしふくよかなタイプの女性に心を惹かれたり、急にギャルのファッションを身にまとう派手な女性に興味を抱いたり。はたまた道すがらの男に淡い恋心を抱いたこともある。
そこにいつも根拠はなかった。
好きではなかったはずのギャンブルにも手を出し、散々な結果となったこともある。
そしてさらなる問題は感情の起伏が激しくなったことだ。
何でもないことで急に子供の様に泣き出したくなったり、些細なことで激昂したり。その逆で道端に咲いている花を見て愛しさに涙を溜めたり。
とにかく一貫性がない。
昨日好きだったものが急に嫌いになったり、自分の感情に翻弄されている。
精神科をあたってみたが、あくまで気分屋扱いで納得の行く病名が付くような代物ではなかった。
周りの友人の手は煩わせないように普段はそういった起伏を抑え込んではいるが、急に芽を擡げることもある。
正直に信頼のおける友人に話を聞いてもらった。
「病気じゃないならなんだろうな。なんか憑依された霊の感情に影響されたらそうなるって聞くけど」
普段なら一笑に付する彼の発言も、自分の感情に抑止力が効かなくなってきていた為、その友人の紹介で霊能力者と呼ばれる女のところに案内してもらった。
もっとおどろおどろしいものを想像していたが、普通の民家で拍子抜けした。
出されたお茶を飲みながら霊能力者に名前を聞かれた。
「斉藤崇です」
彼女はその言葉を、何か哀れな泣き言を聞いているかのように痛ましい顔をした。
「結論から言うと、あなたには何人もの霊がついています。男であったり女であったり。そしてそれらの嗜好や性格があなたの日常に影響を及ぼします」
彼女は淡々とそれだけを述べてお茶をすすった。
「なら、除霊してくださいよ。そうすれば以前の普通の俺に戻れるんでしょ」
霊の存在にはいまだ猜疑心があったもの、今現時点でこれ以上の策が見当たらなかった。
すると霊能者の女はしばらく押し黙った。
「手ごわい霊とかなんですか?」
私は怯えを隠せずにそう彼女に掴みかかると、彼女は首を横に振った。
「確かに霊はたくさんいる。でも大した敵じゃない。しかも入れ代わり立ち代わり入ってきている。除霊をしなくても勝手に飽きて離れていってまた入っていって。そんな感じなの」
「え、じゃあ俺が憑依しづらい体質とかになればいいじゃないですか。何かあるでしょ」
私が期待で顔を上げると彼女の顔は変わらなかった。
「そういう方法もあるわ。でもね」彼女はそこで一呼吸置いた。
「今のあなたの存在は入れ代わり立ち代わりの幽霊が作っているの」
私は何を言っているのかわからなかった。
「だからね、度重なる憑依霊によって、斉藤崇はもうすでに消滅しているの」
彼女の言葉に衝撃を受けている私は一体誰なんだろうか。
私はだあれ どろんじょ @mikimiki5
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