肆章:呪楽編

深淵に

 宮家にも、管理課と手を取る者達、即ち陰陽師を恨まない者達が存在する。その代表格が、豊宮家のトップでありながら、管理課の掃除を手伝う、カズこと豊宮和姫であった。自分以外の宮家が誰もいないことに少々の孤独感を持ちつつも、いつものことだと、カズは目の前にあった死体を刻んだ。手には包丁。弔いに使う、宗教的な側面が強い術式を刻んだその刀身は、そろそろ研がねば切れ味が悪い。


「そろそろ終わりにしたらどうです。余って腐らせますよ」


 しゃがんでいたカズにそう言ってペットボトルを手渡そうとしていたのは、宇野千寿香。カズの、樒とは違うもう一人の従者である。定時だの残業代だなんだのといつもはうるさいが、仕事中はこれと言って不満も出ない、品行方正、仕事人である。細好にいたずらを仕掛けた時は、紙で顔を隠し、山羊頭の男を連れていたが、今回は茶髪に茶色の目という、本来の顔をそのままに出していた。


「まあそうだなあ。儀式で使えるとはいえ、ここまでの肉を保存する気はさらさらねえし。流石に冷凍庫にもこの量は入らない」


 いくらかの重量を持ったビニル袋数個を背負って、カズは立ち上がった。血まみれになった文化祭から、数日が経った黒稲荷高校は、暫くの休校に入って、事態の収拾へ向かっている。これが普通の高校ならば、事態の説明などで責任者たちがあくせくするところだが、ここでは違う。近所周辺すらも完全に封鎖しても、誰もその理由を聞かない。そういう幻術で一般人の介入を阻止している。一般人でない人間は、大体理由は察している。カズもその理由を知っている側の人間であるから、疑問も持たなければ、片付けを手伝おう、あわよくば儀式に使うものを回収してしまおうという算段を築く。


「にしてもたまげたな。一夜が邪神憑きだったとは」


 少し嬉しそうに、カズは千寿香を隣に独り言のように呟いた。同時にクーラーボックスに入れたビニル袋は中身が見えており、何処の部位を主に集めたのかが丸わかりで、ペンで明記しておく必要も無い。が、几帳面な千寿香はスーツのポケットに入っていたペンで袋の一つ一つに「心臓」「肺」「子宮」「皮膚」「爪」と記していった。


「やめろよ生々しい」


 カズが注意すると、千寿香は溜息交じりで言った。


「前に材料取り間違えて簡単な魔術を失敗させたのはどこの主人でしたっけね」


 ビクリと、背中を震わせたカズは、そのまま黙って、車にクーラーボックスを持っていき、後部座席に置いた。それを見ていた千寿香はもう一つ、溜息を吐いて、運転席へ座る。


「俺、管理課に帰るって挨拶してくるから」


 千寿香にそう言って、カズは校庭の方へと走っていった。汚れた袴を遠く見る千寿香は、オキシドールの購入費用を頭に過らせる。そんな中、三輪の背を叩いて、カズが何か話していた。どんな内容だったかはわからないが、おそらくは管理課の弱点に付け込んで、困らせたのだろう。三輪は心底嫌そうな顔をして、ルンルン気分でスキップするカズの背中を見送っていた。


「何言ったんですか」


 バタンとカズが助手席に座って扉を閉めると、千寿香はそう尋ねた。


「肉持って帰るけど良いよねって聞いた」


「許可なしでやってたんですかあれ」


 冷静に、かつ、驚きつつ、千寿香は嬉しそうするカズに言う。ただ、何を言ってもこの主人はどうしようもないと、知ってはいたため、黙って車のキーを回した。それと同時に、スマホの着信音が鳴り響いた。


「何だ? 樒?」


 カズはふと不思議に思った。先日、亥島駅で持病のぎっくり腰を再発させた樒は、暫くの療養休暇を取っていたはずである。特に今日は病院で詳しく検診を受けると言っていたはずなので、仕事用のカズのスマホに電話を入れてくることがあると、あの樒がするはずがないと思っていた。だが樒が電話を入れて来たのは現実である。カズは脳の中の不可思議を留め置いて、軽快に声を取った。


「どうした樒。休暇中に電話なんて、主人をATMとか言ってくるお前らしくもない」


『仕事というわけでもないんですがね、ちょっと緊急で』


 淡々とした、真剣さが伺える樒の声は、いつもよりも低く、大人びている。それがスイッチとなって、カズも、言え、と、命じた。


『一夜君が緊急で病院に。付き添いの人数がアホかというくらいいるので、通りすがりに自然と会話に入ってみたんですが、どうやら先日の高校での事件が何か関係しているようです。今、医者に診てもらっているようですが、若も来た方が良いかと。治療をするようなので』


 自分が先程まで作業をしていた、高校を振り返ってみて、カズは一言返す。


「そこにいてくれ。俺達もそっちに向かう。千寿香、病院まで頼む」


「はい」


 無理矢理に方向転換した車が、ぐらりと揺れた。カズは腐りそうな人肉達を心配しつつ、すぐ近くの病院へと、千寿香と共に向かった。


「アイツに死なれちゃ、あのクソアマに会えなくなっちまう」


 カズが一言そう零すと、千寿香は無表情に、片手間にポケットからガムを取り出し、彼に与えた。数分の走行の間、カズはそれを噛み続けた。








 病院はあまりにも清潔で、寧ろ、不安をあおる。白衣恐怖症というのが、ここ最近あるらしいが、自分もそういうものなのだろうかと、カズは鼻で笑った。総合ロビーは人が多く、死者も多い。何をぶつくさ言っているかも分からない者達ばかりで、頭が一瞬、痛くなった。後ろから千寿香が来ていることを確認して、受付にカズは駆け寄る。それに気づいた受付の女性が、にっこりと微笑んだ。


「どうしましたか。受診ですか、面会ですか」


 可愛らしい、鈴を鳴らしたような声が、耳を叩く。カズもにっこりと微笑んで、発言を試みるが、その前に、後ろからの少しの悲鳴で、振り替えざるを得なかった。


「……受診ですね」


 受付嬢が口角を引きつらせてそう言った。何処かに内線通話しているようで、その間に、カズは自分の姿を見渡す。袴にこびり付いた大量の血液は、自分が大怪我をしてやって来たと思わせるのには十分すぎるくらいだ。


「あ、いや、これは」


 慌てように、流石にこれはいけないと、千寿香が割り込んだ。


「すみません。ここに親友が急患で入ったと聞いて、お化け屋敷の練習から飛び出してきまして。これ全部血糊です。お気になさらず」


 ナイスだ、と、カズは心の中で叫びながら、未だ疑いの目を辞めない受付嬢に、にっこりとまた微笑みなおして、放つ。


「大宮一夜っていうチビがここに急患で入ったって聞いたんだけど、会える? 付添人いっぱいいるんだし、俺一人くらい増えても構わないよね?」


 疑いから、困ったような顔になった受付嬢は、内線の番号を打ち直す。


「すみません、すこし待っていてください」


 何やら話し込む彼女を見て、カズはすぐ近くのベンチに座ろうとしたが、千寿香に座るなと背を叩かれて促され、鼻で笑って立ち直した。


「えぇ、はい……急患の子のお友達だとか……えぇ? 入れるんですか? 名前聞いてみますか? 君、名前は?」


 最後、受話器ではなくカズに言ったのだと、確信した本人は、少しにやっと笑って言った。


「豊宮和姫。豊宮の当主って言ったら多分、通じるよ」


 成程、電話の相手はそういう人間か。と、カズは確信付いた。この病院にも、黒稲荷高校や亥の島中学校と同じように、仕え人がいる場合がある。特に、教育機関は樒や裸女と言った毒花の者共が多いが、医療機関であるこの病院には支族が多い。支族はどこの支族であろうと、宮家の下の立場である。それならば、自分の立場を明示した方が、話はよく進むだろう。


「トヨミヤカズキ君だそうです。トヨミヤの当主とも伝えてくれと……はい、はい。わかりました。案内します。え? 伝言ですか?」


 受付嬢がそう、不思議そうに、困惑する。その伝言とやらを聞くために、カズは受付のテーブルに身を乗り出した。


「えっと、ここと同じ階の、関係者以外立ち入り禁止の、二個目の扉に入ってください」


「伝言は?」


 聞き忘れる前にと、カズは尋ねるが、本当に言って良いのか迷うような受付嬢は、やっとのことで声に出す。


「……『宮家だからと言って、調子に乗るなよ、カズト』だ、そうです……」


 カズは目を見開いて、少し、驚いて、箍が外れたように笑う。その声は以上に伸びて、受付ホールに響いた。多くの人間が、こちらを見ている。それを気にすることも無く、カズは深呼吸して独り言を放った。


「何だ、既にアイツが診療か。これじゃ話は早い」


 ツカツカと、足音を鳴らして、呆れ顔の千寿香を後ろに、廊下を歩いた。関係者以外立ち入り禁止と書かれた扉、そのうちの手前から二番目の扉。グッと押した手ごたえは重く、他を寄せ付けない雰囲気である。ただ、その重さは、防音扉としての役割が強かったらしく、ガチャガチャという、金属をぶつける音や、誰かが叫ぶような音がうるさく鳴っていた。入ってみれば、考えていたような、スタッフルームらしい狭さはなく、広く、もう一つの診療室という感じであった。音の出所は、全て、真っ直ぐの道に並んだ鉄扉からである。そこには名前らしき文字の書かれたプレートが張り付けてあることから、入院患者か何かなのだろうと、カズは平然とそこを歩く。無機質で、薄暗い廊下の先には、暖かな光が灯っており、そこを目指せば良いことが分かった。丁度、聞きなれた声もして、少し速足になった。


「……来たか」


 足音が聞こえていたのだろう。返り血を浴びた少年少女青年達に囲まれた男が、こちらを睨んだ。


「オッス」


 そう、カズが笑うと、突如として、目前に保冷剤が飛び、それがカズの顔に叩きつけられる。勢いのままに倒れると、受け身も取れずに、背を床にたたきつけた。痛みに悶えると、先程と同じ男の声が、低く、小さく響いた。


「……一夜、奴がムカつくのはわかるが、あまり暴れるな。血が止まらなくなる」


 どうやら、保冷剤を投げたのは、一夜であったらしい。部屋の状況も、何も理解していないカズは、文句をつける前に、辺りを見渡した。そこそこ広い、本棚に囲まれた部屋は、ベット一つとデスク一つ、座る椅子二つ以外は、見知った少年少女と、呪具で支配されている。カズはこの中心で、呪符の目隠しをされた一夜を抱きかかえながら、ベットの上に座り、一夜の口に指を突っ込む男の詳細を知っていた。


「俺の心配してくれよ。折角、術に使えそうな素材も持ってきてやってるのに」


 カズがそう言うと、男は溜息で合図する。


「すまないが、これからする治療の邪魔だ。カズと従者二人以外は外に出て行ってくれ」


 男の言葉に、数人が驚くような表情をしていたが、一部、銃夜と異夜が、全員を誘導するように、自分達からその場を退く。


「丁度良かったじゃねえか。お前にしては遅くない登場だ」


 銃夜が、カズの隣を通りすぎると同時に、そう呟いた。が、気にしないというように、ぞろぞろと退く人間たちを逆流する。


「……何か知ってるのか」


 妙に珍しい人間がいた。細好、千宮の当主。ついこの前、ちょっとしたいたずらを仕掛けた対象。その悪態付くような表情は、こちらを警戒していると絵に描いたようで、カズは笑う。


「まあねえ。治療の方法とかな。まあ、ここで全部できるもんじゃないから、安心しろ、すぐ家に戻してやるよ」


 フン、とそっぽを向いて、答えを聞く前に、細好は怯えた表情の真樹に押されて、薄暗い彼方に行っていた。最後、羚がカズの隣を通って、一言も何も言わずに去ろうとする。


「あ、待て、眼帯君」


 男は、一人、羚だけを呼び止めて、言った。


「君は奥に行ってくれ。お前を以前から待ってる奴がいるんだ」


「僕?」


 奥、優しい光の奥、自分達が戻るとは逆の場所は、本棚の隙間、人がやっと一人通れるくらいの道幅のことであった。そこからは、寧ろ、ギラギラと白い、正に病院だと思わせるような光を放つ。その光に影を落とす、一人がいた。


「……!」


 逆光になっていてあまり顔がわからないが、羚にはわかったらしい。珍しく、見開いた目で、その人物を見ていた。


「羚、久しぶりだな。話がある。こっち来てくれ」


 百八十センチ程度の身長の男は、影でわからなくとも、眼光が鋭いのがよくわかった。服は白衣で、医者か薬剤師らしい。声のトーンは低い。が、それでも、声質自体は十五、六だと思われた。声を聴いて、確信付いたらしい羚は、その男が翻した白衣に着いて行き、奥へと歩みを進めた。


「……アイツ誰?」


「先月から配属されたベテランの医者。こっち側の人間だそうだ」


 カズの言葉に、一夜を抱えたままの男が、答えた。だが、それも、ふうん、と、鼻を鳴らしてカズは流してしまう。


「それで? 一夜の容態はどうだい? 文夜さん?」


 カズの問いに、また溜息を吐く男。それが、文夜、出雲文夜である。文夜はこの病院の医者の一人だが、一般人の前には滅多に顔を出さない。それも、彼が宮家専門、能力者専門の医者だからである。そう考えれば、彼は医者というよりも、呪術師である。能力者は度々、他の能力者から受けた攻撃、呪いで生死を彷徨うことや、心霊の類に取り憑かれる場合がある。それらを取り除き、死に至るような傷、文字通り目に見えない傷を治してやるのが彼の仕事であった。


「良くはないな。まったくもって」


 文夜は抱えた一夜が落ち着いたことを確認して、立ち上がり、ベットに寝かせる。一夜の口からは大量に吐血した痕があり、文夜の手や顔、白衣はそれで血に染まっていた。返り血を浴びていた、一夜の知人たちの血液も、それだろう。血液の出所である当人は、浅い息をしながら、呪符の目隠しを貼り付け、体にもまた違う術式の呪符を巻き付けていた。それはさながら、耳なし芳一にも似ていて、異様な光景ではある。


「やっぱり、成長が追いつかないってやつ?」


「あぁ、そうだ。一夜は俺達とは違う器で、成長型の器だ。力を注いでやればやるほど、それを受け入れる器は成長する。けれど、それは量の制限をして、ギリギリ溢れない程度にやってやればの話だ」


 能力と一口に言っても、それを受け入れるには、個人の資質がある。それは体の強さ、魂の大きさとも形容できるが、二人の間では、器と呼んでいるものだ。殆どの人間は、固定型、生まれた時からその大きさが決められ、決して大きくなることがない。事故等で小さくなることはあれど、今のところ、大きくする方法は、儀式でも見つかっていない。けれど、ごく稀に、一夜のように、力を手に入れれば入れる程、大きくなる器を持つ者がいる。一夜以外にも、歴代、数名が確認されているが、何故そのような子が生まれるかはわかっていない。


「……オシラサマの加護を受けたからだな。確かこいつ、一年内に二柱目だろ、あれ」


 成長型でも、急に溢れる程の力を手に入れれば、勿論、溢れ出て体は壊れ始める。それを含めてカズは推測し、現状を伝えた。一夜が裸女の手と自分の手を贄にしてオシラサマと対峙した日、管理課の手伝い、基、新鮮な資材集めをしていたカズは、それを見ていたのだ。


「成程。オシラサマの加護か。それ自体はまあプラスに働いてくれるだろう。細胞の分裂がそこそこ早くなる」


 文夜はそう呟いて、眠りについた一夜の胸を撫でた。それは、カズから見れば、父親の子を見る表情にも似ていて、こそばゆくて仕方がない。よく考えれば、二人は表面上は、親子か年の離れた兄弟と言っても差し支えない姿をしている。文夜は三十六歳、医者という多忙な職に就きながらも、どこか若く、二十代にも見える。何より、彼は一夜と同じ、黒髪の短髪に赤い瞳、童顔で、丸顔に近い、可愛らしい骨格をしていた。


「何をニヤニヤと気持ち悪い」


 悪態付く表情もそっくりである。と、カズは頭の中で思いつつ、立ち上がって、覚えのある本棚を弄った。


「これですか?」


 丁度いた樒が、手の届きそうで届かない場所の古文書を、軽々と取って見せる。それは確かに、カズが欲しいと思っていたもので、カズは、あぁ、とだけ言って受け取った。


「とりあえず、仮の器を体内生成して、一夜の成長を待たないとダメだな。細好がいるなら丁度いいとも思うが、アイツにこのイメージが今スグに出来るとは思わねえし、今回も俺がやろう。前に同じことやってるし」


「前って言っても五年前でしょう、貴方」


 樒が、カズの言葉に、睨んで言った。それに、少々の似たような睨みを利かせて、カズは笑う。


「一度やったことは忘れないんだよ、俺。お前の大好きなアイツと違ってな」


 手、指を滑らかに動かして、カズは訴えた。文夜はカルテ、紙媒体の一夜の情報をカズに見せて言った。


「悪いが佑都、お前も出て行ってくれるか。集中を邪魔されちゃ困る」


 一触即発の空気を、文夜はやれやれと言った様子で、散らした。渋々外に向かう樒の背が、暗くなっていく。それを見ながら、カズは古文書のページを撫でる。やり方を知っているのは本当だった。ページの文字を撫でて、そのまま、指を一夜の額に落とす。


「とりあえず、準備だけしよう」


 指を、真っ直ぐに、一夜の中心に滑らせる。厚くもない胸にたどり着くと、指を離した。それと同時に、一夜の息が落ち着き、深い呼吸になる。額を撫でると、少々の熱が籠っていることが分かった。目隠しに使っていた呪符を交換しようと、外すと、子供らしい寝顔が現れ、カズは少し口元を綻ばせる。


「トモに似てるか」


 文夜がそう尋ねると、カズは頷き、椅子に座る。


「……座ってる時間はないぞ。さっさと屋敷に運ぼう。あっちの方がやりやすい」


「アンタは行きたくなさそうだけど」


「仕方ないさ。仕事だからな」


 カズが言う言葉に、本当に仕方がなさそうに、文夜は言う。彼は診察室の奥に顔を突っ込んで、何やら人を呼んでいた。そのうちに、文夜の座っていた場所の近くにあった小さな棚から、新しい呪符を取り出して、一夜の目を隠す。


「こっちから出よう。人目が気になる」


 文夜は、奥へ行けと、カズに手を伸ばす。


「車はうちの使えよ」


 カズが言った言葉に、おう、と、答えて、文夜は一夜を抱えた。暴れもしなければ、起きもしない一夜は軽々と抱きかかえられて、光ある方へと運ばれる。その先には、羚と、逆光であまり顔の見えていなかった男性医師が立っており、既に、話は済ませていたようだった。


「アキラも行くか?」


 文夜は一回り大きな男、羚と話していたらしい男をそう呼ぶ。


「あぁ、行かせてもらおう」


 眼光鋭く、彼はそう言って、羚と共に、カズと文夜の後ろに着く。人数が増えたが、全員が乗れるだけのスペースが、あの車にあっただろうかと、更に後ろについて静かに歩いていた、運転手の千寿香は首を捻った。

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