嘘の話

虹色

第1話

☆嘘の話_2018_0401


「今日、私の誕生日なんだけど」

 膨れた顔で、彼女は言った。

 時は日曜14時30分。僕はソファーに転がり、のんびりしていた。


 ちなみに今日は四月一日。エイプリルフール。

 世間で、『嘘をついても良い』とされている日である。

 誰が許可しているのだろうか、と毎年思う。

 世の中には様々な記念日があるが、エイプリルフールも中々に不可思議な日だと思う。

 もし、その日が誰かの誕生日だったらどうするのだろう。記念日を制定するときには、それで傷つくかもしれない『誰か』がいる可能性も考えて欲しい。


「ねぇねぇ、今日、私の誕生日なのだけど」

 無視する僕に、彼女は続ける。

 彼女の言葉に、嘘はない。彼女は不幸にも四月一日生まれなのである。そのせいで、数えきれない『嘘』にさらされてきたらしい。


「誕生日プレゼントとか、そういうのないのかな?」

 正直に要求を言った。

回りくどいのが苦手な彼女。そういう直球なところに、僕は惚れていた。



僕はむくりと立ち上がり、冷蔵庫へ向かう。

最下段の冷凍庫の扉を開き、買い置きのカップアイスを取り出した。

そして、振り向きざまに彼女へとぶん投げた。

ど真ん中、ストレート。


「っふんがっ」

間の抜けた声がした。

カップアイスは彼女の顔面に直撃したようだ。

「――なんてことするの! 暴力反対―!」

 ぶーぶーと、ふて腐る彼女。

僕は、カップアイスの裏面を見るように指示した。


 そこには指輪がついていた。

シンプルなデザインの指輪。

僕の給料三か月分。

冷凍庫に入っていたためか霜がついている。だが、その霜が、指輪をより輝いてみせている。

「これって――嘘、じゃないよね」

 疑いのまなざしを向ける彼女。

「結婚しよう」

 僕はそう言って彼女を抱きしめた。

 この言葉に、嘘はない。

 

……


…………


………………



最後の文字をタイプし終えて、一息つく。


――そんな日が、僕にもいつか来て欲しい。

彼女いない歴=年齢の僕は、デスクトップパソコンの電源を消しつつ、そう思った。



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嘘の話 虹色 @nococox

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