♯44 必ず帰る!
『──永遠の命。古よりあまたの魔術師たちが挑み、失敗し、そして未だに踏み入れることの叶わない神の領域。だが、私はとうとう足を踏み入れた。これは偉大なる一歩だ。見たまえ、この身体を』
パトリックは《竜焔気》による攻撃を続けながらも両手を広げ、恍惚とした表情で語る。
『
「そのようなことのために! 自分の望みのために、リィンベルの皆様を犠牲にしたというのですかっ!?」
『それも進化には必要なことさ、ベアトリス。人には輝かしい未来がある。過ぎ去った時の流れを悔やむのは愚か者のすることだ』
「なんと身勝手な……っ!!」
ベアトリスの《竜焔気》が膨れあがり、より強力なオーラとなってパトリックを襲う。だがパトリックは涼しい顔で話を続けながら、ベアトリスの攻撃を受け流していく。
『だが、まだまだ課題は山積みでね。この幽体で
その言葉の意味を理解し、レナたちは恐怖と共に言葉すら失う嫌悪感を抱いた。
『なにより、子を成すことも不可能だ。たとえ不死の身体を手に入れたとして、人間としての文化的な営みを捨てたとあってはもはや人間とは呼べぬ生物であろう? 私が目指すのは違う。人として生き続けること。そしてその未来が、私にはもう見えている』
「なっ──!?」
困惑に顔を歪めるベアトリス。
パトリックの背から伸びてきた新たな2本の竜腕が、素早くベアトリスの身体を鷲づかみに拘束していた。
「ベアっ!」「ベアトリスさん!」
レナとクロエの叫びを聞きながら、パトリックが愉快に笑う。
『そのためには、我が子孫が絶対的に必要だったのだよ。私の魔力に耐えられる身体。魂の近しい人間。“新しい時代を生きていける器”。それこそが君さ、ベアトリス』
「あな……あなたは、命を、なんだと……!」
『この世で最も尊ぶべきものさ。愛する子孫の命、大切に使わせてもらおう』
パトリックの《竜焔気》──その巨大な竜の口腔が開き、ベアトリスを捕食しようとしたとき、レナはもう動いていた。
「ベアを離せぇっ!!!」
右腕の黒輪が3つ、回転しながらレナの魔力に反応して発光。パトリックの竜を殴りつけた瞬間にリングは竜を包み、激しい爆発を起こす。
「──むっ」
その威力にか、パトリックの竜腕が緩みわずかな隙を生む。
ベアトリスはそれを見逃さずに拘束から逃れると、即座に魔力を全開に解き放ち、パトリックのそれを上回るほど巨大な竜のオーラを作り出した。
「その命を持って──償いなさいませ!!」
ベアトリスの竜がその豪腕でパトリックと彼の竜をもろともなぎ払い、壁に衝突したパトリックへ向けて大口を開く。
「《ディヴァイン・ブレス》!!」
吐き出されるのは魔力による強力な熱光線。その輝きは本物の竜同様に凄まじい熱量でもって壁を穿ち、融かし、すべてを焼き尽くしていく。先ほどの激しい攻防もあり、部屋は振動と共に大きく崩れ始めていた。
「レナさんクロエさん!!」
「わかってる! こっち!!」
「い、急ぎましょう!」
三人はさらに目と目でコンタクトをとると、ベアが攻撃を止めたタイミングで一斉にその部屋から脱出。するとすぐに入り口や壁が崩壊し、すべては瓦礫に呑まれていった──。
地下から脱出したレナたちは、すぐにそのままヴィオールの屋敷を後にした。もはや一刻の猶予もない。
すると次の瞬間──地の底から響くような振動音と共に大地の激しいうねりが巻き起こり、ヴィオールの屋敷そのものが大きな音を立てて崩壊。レナたちも立っていられずにお互い身体を支え合った。
さらに崩れる屋敷の中から発光する魔力の固まり──巨大な竜の腕が空を掴むように伸びて現れた。
「──あれって!」
「りゅ、竜の腕……!?」
「くっ……やはりあの程度では……!」
ベアトリスが疲労の滲む顔でそうつぶやく。レナもクロエも、すぐに“彼”が生きているだろうことを察しとった。
続けて、咆哮。
『ウオオオオオオオオオオオオオオオオ──────!!!!』
まるで卵の殻を破るかのように屋敷から出現した巨体の竜は、その雄叫びをビリビリと街全体に響き渡らせる。
途端に──街にいたすべての不死者たちがその目を妖しく光らせた。
そして、まるで匂いを嗅ぎづけるかのようにレナたちへと襲いかかってきた。
「ジャマぁっ!!」
レナが魔拳でもって迎撃し、不死者たちを弾き飛ばす。
「もう隠れてなんていられない! 最短距離で突っ切ろう!」
「あのような巨体の《竜焔気》、そう素早くは動けません! 塔まで着けば私たちの勝利です。もはや出し惜しみする必要もありません。全力で参りましょう!」
「うん! クロエはレナたちの後ろにいて!」
「わ、わかりました!」
「ご安心くださいませ。お二人は必ずこの私がお守りします!」
「行くよベア! うああああああああああ!」
ゴールである塔へと向かって一斉に走り出す三人。
レナの《魔拳》とベアトリスの《竜焔気》。
疾走する二人は群れを成す不死者たちを正面から蹴散らし、強引に道を切り開く。すべての魔力を解放するつもりで攻撃に転じた二人のフルパワーはたとえ不死者であろうと抵抗の出来ないもので、レナの黒い魔力とベアトリスの白い魔力の光は混じり合い、彗星のように煌めいて阻むモノを寄せ付けない。
「す、すごいです……! これなら……!」
二人の後ろで息を切らし走るクロエが、わずかな安堵をした後にすぐに表情を引き締める。
そして叫んだ。
「──帰りましょうっ! 絶対! 三人でっ!!」
その声に、レナとベアトリスが小さく笑った。
「トーゼン!」
「ええ、必ず!」
その希望を胸に、レナたちは止まらずに走り続けた!
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