♯330 主催者は宿運の魔女ちゃん

「おお……」

「オイオイマジかよ」

「まったく恐ろしいわね」


 再び休憩スペースにやってきた四人。多くのバニースタッフがゴールドコインのたくさん入った袋を抱えており、それらすべてをフィオナの前に置いた。


「えへへ。ビギナーズラックというものでしょうか」


 大量のコインに囲まれて照れながら笑うフィオナ。


「すごいなフィオナ……まさかこんなことに……」

「オイオイオイ。フィオナちゃんってとんでもねぇギャンブラーだったのかよ。これだけありゃさすがに創造主サマとやらも認めるしかねぇだろ!」


 男二人が仰天し、腕を組んでいたエステルが「ふぅ」と息を吐いて言う。


「まったく。どうしてあんなに無茶なプレイをしたのかしら。この私でも気が気ではなかったわ」

「ご、ごめんなさい。エステルさんにもご迷惑をおかけして。でも、不思議と負ける気はしませんでした。うぅん、絶対に勝てると思いました」

「初心者ゆえの恐れ知らず……ということかしら。――いえ、けれど私もそうだったわね。ルーレットで負ける気はしなかった。でなければ、一点掛けなんて真似は……」


 エステルが思案するところに、ヴァーンがにゅっと割り込んで言う。


「別におかしいことじゃねぇぜ。たぶんよ、このカジノはそういうモンだ。運のあるヤツが勝つようになってんだよ」

「は? 何を当たり前のことを言ってるのかしらこの賭け狂いは。賭けすぎて頭がパッパラパーになってしまったの? 可哀想に……」

「いきなり哀れむな! 親切に教えてやってんだろうがよォ! いいか? ここは普通のギャンブルじゃねぇ。運さえありゃあどんなゲームをどんな風にやろうが絶対勝てんだよ。そういうルールになってんだ。オレらが誰も負けてねぇのはそういうことなんだよ」

「何を馬鹿な…………いえ、ルール? それは……まさか……」


 エステルが考え込み、そして何かに気付いたようにまぶたを大きく開く。


「張り巡らされた強力な結界魔術。この結界に捕らわれた者は、創造主のルールに支配される。それがこのカジノなら――」

「あ……それじゃあひょっとして、わたしたちは最初から絶対に勝てるようになっていたんでしょうかっ?」

「ま、おそらくはそういうこったな。あのねぇちゃんも言ってたろ。本物の運を持つヤツは必ず創造主に会えるってよ」

「そういうことだったのか……ヴァーン、よく気付いたな」

「ま、オレ様くらいになると働くカンのレベルってモンが違ぇからな。頭でっかちのヤツにはわかんねぇのよ。どうだぁエステルちゃん見直したかァ~?」

「顔が死ぬほどむかつくから鼻の穴にコインを詰め込むわ……」

「オイコラやめろボケ! あいででででででっ! マジでツッコむヤツがいるか! 2枚差しすんな! どこまでいけるか試そうとすんなやッ!!」


 いつも通りの二人のおかげで緊張感の解けたクレスとフィオナ。隣同士に座ってお互いにホッと笑い合う。

 それから鼻コインをすべて抜き取ったヴァーンがぜぇはぁと呼吸を整えて、ぐったりとソファに身を預ける。


「ま、オレらが負けるはずねぇんだわ。なんせオレたちは命を賭けて魔王退治なんてしてた生粋のギャンブラーだかんな。それにフィオナちゃんもよ」

「え? わ、わたしもですか?」

「おうよ。禁じられたヤべぇ魔術使って助けた男に嫁入りしようなんてのはどう考えてもギャンブラーだろ? 野郎のために命張る女なんて天性のもんだ! そんなオレらの運が悪いはずねぇからな。そうだろお前ら! ワッハッハッハ!」


 高笑いするヴァーンに、呆れた様子ながらもふっと笑うエステル。クレスはフィオナの手を取ってうなずき、フィオナはちょっぴり赤面しながら嬉しそうに微笑む。



「――まったくその通りでございます! お見事な豪運でございました!」



 いっせいにそちらの方を向くクレスたち。

 コインを集めてくれたバニーガールの内の一人が、クレスたちのそばでペコリと頭を下げる。


「君は……俺たちを出迎えてくれた、門のところの――」


 それは、クレスとフィオナを迎え入れ、そしてクレスたちが出て行かぬよう扉を守った少女。


「なんとなく、だが……君は、他のバニーガールたちとどこか違う気がする……」


 そうつぶやくクレスに、バニーガールは再びニコッと笑いかける。

 そして少女はどこからか一本のステッキを取り出すと、指揮者のように優雅に振って見せる。するとポポポポンッと軽快な音と共にたくさんの風船が出現して、少女が一つの風船を掴むとその身体が浮き上がり、ふわふわと奥のステージ上へ移動する。いつの間にかステージには巨大なプレゼント箱のようなものが用意されていて、浮いていた少女は風船を手放しそのプレゼント箱へ落下。

 その瞬間、プレゼント箱がパカッと開いて中から煙と共に大量のおもちゃやらぬいぐるみやらが飛び出してくる。ヴァーンが「うおおっ!?」と驚き、クレスたちも目を見張った。


 もくもくと立ちこめるステージの煙。

 そこに、ぴょこんと長いウサギの耳が着いた人物のシルエットが浮かび上がる。


「……あれは!」

「ク、クレスさん。ひょっとしてっ!」


 あの手紙を思い出し、うなずき合う二人。

ヴァーンやエステル、生き残った他の招待客までもが見守る中で、ようやくステージの煙が晴れていく。


 そこから現れたのは――礼儀正しく頭を下げて客を迎える、一人の美しいバニーガール。


 彼女はその場でぴょーんと跳ねた。



「ハァーイ☆ おっまたせしました~! みんなのすっごい強運、近くで見られてもー胸がキュンキュンしちゃったぁ! お見事です! きゃはーっ!」



 ステージ上で大砲かというくらいこれまた巨大なクラッカーを抱え、紐を引っ張って轟音を鳴らすバニーガール。クレスたちは思わず耳を塞いだ。

 バニーガールはクレスたちを指さしてふんふんとうなずく。


「ひぃ、ふぅ、みぃ……ウーン、思ったより残らなかったなぁ。でもまぁいっか。それじゃあこれからパーティー本番をはじめまーす! 主催はあたし! 魔王様の忠実なる配下にしてぇ、運を愛し運に愛された絶世の美少女! 『宿運の魔女』こと『ニーナ・バニーニャ・キャロティウム』ちゃんが務めさせてさせていただきまぁーす! 楽しんでいってねっ☆」


 テンションの高い挨拶と共に、綺麗なウィンクと投げキッスを送るバニーガール。

 とうとう姿を見せた『創造主』――ニーナの登場により本当のパーティーが幕を上げることになった。

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