♯315 ご機嫌な招待状
レナは手紙を指さして言う。
「ねぇ、これよまなくていいの?」
「え? あっ、すっかり忘れてましたっ」
レナから言われてようやくその存在に気付いたフィオナ。先にルルロッテの手紙を読んでテンションが上がっていたため、こちらのことを忘れてしまっていた。
というわけで、三人は手紙が読みやすいようにソファーの方へと移動。手紙を持つフィオナを中央に、クレスとレナが横からのぞき込む。
丁寧に封のされていた手紙を、フィオナがゆっくりと開くと――
――ポポポポンッ!
そんな軽い破裂音と共に、白い煙がもくもくと吹き出してきた。不意打ちの展開にクレスは身構え、フィオナは短い悲鳴と共に手紙を放り出し、レナは声もなく大きな目をパッチリ開いてあんぐりとする。
そして、煙の中に何者かのシルエットが浮かび上がる。その影には頭部に長い耳らしきものが着いていた。
『じゃっじゃぁーん! ごケッコン、おめでとうございまぁ~~~~~~~~~~すっ!』
三人は目を丸くした。
煙の中で両手を挙げ、頭部の耳をぴょこぴょことさせながら放たれた祝福のメッセージ。その声は明るく可愛らしい女性のモノに思えた。何よりもシルエットの起伏あるスタイルがそれを証明している。さらに不思議なことに、彼女の周囲にはハートや星のマークがキラキラと瞬いており、まるで飛び出すポップアップカード――またはサプライズボックスのような強烈なインパクトに三人は呆然とするしかない。
『あっ、いきなりのお手紙で驚かせちゃってごめんねぇ! 嬉しいお知らせでいてもたってもいられなくってね、特別な手紙をしたたたためちゃった! わかるわかる? ハッピーテンション爆上げなんだーあたし! 一方的な手紙だからお話出来ないのが残念だけど、そこはガマン、ねっ』
煙に包まれたままの女性は、手を合わせたり振ったりかがんだりと、豊富なジェスチャーで意思を示しつつ話を続ける。
『さーてさてっ。この度はですね、そんな幸せい~っぱいのお二人をお招きしたいハッピーラブリーゴージャスパーティーを用意しまして! これはその“招待状”、とゆーわけ! ほら、人間たちの国ではさぁ、『光祭』ってゆー年終わりのおめでたい催しをやるじゃん? これはちょーどイイ機会じゃん! パーティーに来るっきゃないでしょ!』
また手を合わせて腰をふりふりと振る謎の女性。どうやらパーティーとやらのお誘いらしかった。
なんだか楽しげな雰囲気に少し場の空気が緩んだとき――
『来てくれないならぁ、二人のヒ・ミ・ツ……あちこちにバラしちゃおっかなぁ?』
その発言で、クレスとフィオナはすぐに気を引き締め直した。
『やぁん、ちょっと顔色変わったー? 禁忌の術で蘇った勇者サマと、そうまでして勇者を救った現聖女の双子のお姉ちゃん! ウンウン、いいねぇいいねぇ燃えるねぇ! 数奇な運命が見えちゃうなぁ……二人ともよほどの
饒舌に語られる内容に、クレスたちは何も言えない。しかし間違いなく、彼女は自分たちのことを“知っている”。
影の女性は口元に手を当てて愉快に笑う。
『あはー♪ そろそろ来たくなっちった? 大事な“子ども”を失う運命はイヤだろうしさぁ、ぜひぜひぜーひ、お気軽に遊びにきてね♪ あ、手ぶらで大丈夫だよ。衣食住すべて用意してあるからご心配なく。もちろんすべて無料! さらに今なら豪華別荘もプレゼントっ! プールもお風呂もついてますよー! 何よりぃ、あたしが全力でおもてなししちゃう! これは来るっきゃないよね? とゆーわけで、二人のお越しを胸やお尻を洗って待ってるね! 手紙に
女性が手を振って投げキッスをすると、シルエットを作っていた煙はしゅわぁ~~~と拡散してまるで幻だったかのように消え去る。
残ったのは、一通の手紙だけ。
ほぼ白紙であるその紙には、最後に氏名を書く欄と血判用の『魔術刻印』が印されていた。
手紙を読み終わった……もとい、勝手に動いて喋るおかしな手紙に、三人はしばらく呆然とし続けた。
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