♯290 《シャインブライド》
その勢いのまま後方――ステンドグラスの方まで押しつぶされたフィオナ。青い不死鳥は教会内部を焼き尽くし、ステンドグラスさえ溶かし尽くして外へと飛び出す。それはとても正面から防ぎきれるような威力ではなく、フィオナは熱量に手足を焼かれ、激しい痛みが全身を巡った。
次の瞬間、教会は時間を戻すように再び復元され、何事もなかったかのように戻る。ぼろぼろになっているのは
『わかってもらえましたか? わたしより、わたしの方がクレスさんを強く想っているんです』
微笑みを浮かべるセルフィの手足もまた、己の青白い炎に焼かれ続けていた。彼女が御しきれないほどの魔力を放出したことは、銀髪からこぼれる大量の魔力粒子からわかる。
そんな彼女の姿に――フィオナは思い出した。
小さかったあの頃。先の見えない日々。
夢想する未来のために必死で努力して、周りを、自分自身を省みることをしなかった。身体を痛めつけて、それを無理とも思わずにやってきた。クレスのためになら、自分がどうなろうとそんなことはどうでもよかった。
危うい彼女の姿は自分自身。
間違いなく
自分がどれほどの想いを持っていたのか、持っているのか、フィオナは目の当たりにすることで初めて客観的に理解することが出来た。
それを知ったフィオナは、一度大きく呼吸をして、杖を握り、立ち上がった。
「……そう、ですね。わたしは、ずっとそうしてきたんだ……」
『まだやるんですか? 覚悟の差がある以上、わたしはわたしに勝てません』
「差なんて、もうありません」
その言葉に、セルフィが動きを止めた。
フィオナの頭部でクインフォの耳が動き、全身から青白いオーラが溢れ出す。さらに銀髪の毛先さえも燃え上がった。
「
セルフィは何も言わない。ただ警戒していた。
「自分の想いは、自分にしか証明出来ない……あなたに教えてもらいました。だからわたしも、本当の気持ちを全部出しきって戦う。あなたにだけは、絶対に……負けられないからっ!」
フィオナの青白い魔力が全身を包み込み、魔力と同じ青白く美しい特別なドレスを生み出す。
ドレスアップチェンジ――《シャインブライド》。
膨大な魔力量の増加。それは以前の《ブライド》とは違い、ドレスやヴェールのデザイン、髪飾りや花飾りまで細部が異なっており、『月の杖』さえも長く、美しく形を変え、蘇った銀月の結晶が先端で煌びやかに魔力を集める。そこに二重、三重、さらに多くの魔方陣が重なり合う。
セルフィが静かにつぶやく。
『……それはわたしも同じです。わたしに勝たなきゃ、わたしはわたしでいられない。わたしの想いは否定させない!』
彼女もまた《シャインブライド》状態に移行していた。フィオナと同じ、青白い炎のようなドレス姿で魔力を集めている。
それでもフィオナは、もう怯まない。
「この想いの光は……誰にも負けない。だってわたしはっ、こんなにも、クレスさんが、好きっ!!」
フィオナは星の瞳で自分自身を見据え、高めた魔力を解放した。
眼前に巨大な魔方陣が出現する。詠唱は要らない。
同時にセルフィも同じ魔術を発動した。
『――【シャイニー・フル・エクレール】!!』
魔方陣から放たれる、一瞬の青白い閃光。
それぞれの光が衝突し、弾ける。
凝縮された魔力の熱エネルギーは爆発的に膨れあがって広がる。相手を押しつぶそうと、燃やし尽くそうと猛る。その威力は互角で、二人の間でせめぎ合う。
力は拮抗している。後は想いの強さだけだった。
セルフィが叫んだ。
『わたしは負けない……わたしの方が、クレスさんを想っているからっ!!』
「きゃあっ!? うっ、ぐううう……!」
わずかにセルフィの魔術がフィオナを圧し始めた。
このまま少しでも力を抜けば、激しい青の炎熱がすべてを終わらせてしまうだろう。フィオナは目を閉じて必死に堪えた。
そのとき、フィオナのペンダントが輝いた。
『しっかりなさい! あなたがクレスさんのお嫁さんでしょ! 絶対に、勝てッ!!』
フィオナはハッと目を開いた。
すぐそばで、母が背中を叩いてくれた気がした。
ぐっと歯を食いしばる。
そうだ。
自分はあの人の妻。
大好きなあの人のお嫁さんになった。
夢を叶えて、今もまだ新しい夢を叶えている最中だ。
誰にも負けない、最強のお嫁さんでいなければならない。
どんなライバルにだって、ましてや自分自身になど、負けるわけにはいかなかった。
――『
心の内でまじないを唱える。
そこから自分の本当の声が聞こえる。力がより強くなる。
《シャインブライド》のフィオナの背中に青白い炎の翼が生えた。セルフィが驚きに目を見開く。
フィオナの魔術は、今ここで進化した。
「《
フィオナの背中の翼が煌めく粒子を放ち、光星の魔術をさらに押し強める。その姿はまるで帚星のようであった。
拮抗が崩れる。
フィオナの強大な魔術がセルフィの炎をすべて飲み込み、襲いかかる。
実力は同じ。
けれどフィオナは戦いの最中で進化を見せた。セルフィは瀬戸際でそれに追いつけなかった。
セルフィは驚愕の表情を見せたまま、フィオナの光に飲まれ――
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