♯251 フィオナの人生で恥ずかしかったランキングTOP3入り
ついに意を決したフィオナは、赤い顔を上げて自分の胸元を叩く。
「あのっ! わ、わたしからお話しますっ! ……だけど、ひそひそ話でも、いい、ですか……?」
「うふふ。もちろんですよ~」
そしてセシリアに近づき、またひそひそと耳打ちを始めるフィオナ。さすがにクレスに聞かれたくはないし、向こうの部屋にはレナとショコラもいる。これなら最低限の恥ずかしさで済むというギリギリの判断であった。
話を聞いたセシリアは、「ふむふむ」「なるほど~」「そうですかぁ」と相づちを打ち、たまに「それはそれは~」とか「すごいですねぇ」とか「わぁ~」とか感嘆したような声も発した。
そんな反応を聞くたび、フィオナは身がよじれそうなくらい恥ずかしくなったが、相手は薬師だ。クレスとフィオナにとってはお医者さまのようなものである。何も恥ずかしがる必要などないのだ。
フィオナはそんな言い訳で自分を誤魔化しつつ、赤裸々な事情を――もとい情事を語った。恥ずかしすぎて顔から、いや全身から魔力の炎が燃え上がりそうになったが、すべてはクレスのため。クレスのためならなんでも頑張る! そんな健気な愛の力で、フィオナは人生でTOP3に入るほどの恥ずかしい思いを耐えきった。
「――うふふ。詳細にありがとうございました。もう十分ですよ~」
「は、はぃ……」
ちょっと長めのひそひそ話を終えたフィオナは、若干ふらふらしながらクレスの隣に戻ってくる。しかし顔も上げられないくらい耳まで真っ赤になっており、クレスが「だ、大丈夫か……!?」と本気で心配すると、「だいじょぶれす……」となんとか小声で返した。
「恥ずかしい思いをさせてしまってすみません。ですが、これでバッチリお薬が処方出来ます~」
「うう……でも、あ、あんなお話が、参考になるものなんでしょうか……?」
クレスに肩を支えられながら、火照った頬に手を当てて純粋な疑問を投げかけるフィオナ。
すると、セシリアはニコニコしながら人差し指を立てて答える。
「はい、とっても参考になりました。特に、クレスさんが早いか遅いかは大きな問題ですので~」
「?」「!?」
その発言にクレスはまた意味がわからず呆然、フィオナは声も出ないほど仰天した。
セシリアは薬師として、淡々と言葉を紡ぐ。
「昔から、性のお悩みに関する薬を処方することは多いのですが、夜のお時間というのは、夫婦によってまったく異なります。ですから、各家庭の事情に合わせて細かく処方することが大事なんですよ~」
「なるほど……そのための問診なんだね」
「はい~。特にお二人は特別なご事情がありますから、出来るだけ長い時間の肉体接触が好ましいです……と、最後にそんなアドバイスを付け加えるつもりだったのですが、その心配は要らないみたいですね♪ うふふ。若いお二人が羨ましいです~♪ 薬は、少なめにしておきますね」
ニコニコしながら話すセシリアに、クレスは至極納得した様子で大いに感心している。
「ふむふむ……時間が大切だったとは。ただ、俺の速さが関係しているとはどういうことだろうか……フィオナはわかるのかな?」
「へっ!? あ、う、うぅ~……」
「脚はずいぶん鍛えてきたつもりだが、身体的スピードも大事なことなのか……? ふーむ、奥深い世界だな。よし。フィオナ、これからは俺もさらに気合いを入れるよ。君だけに負担は掛けない。俺にも頑張らせてくれ!」
隣で爽やかにそんなことを言う笑顔のクレスに、フィオナは両手で顔を隠しながら「ありがとございましゅぅ……」と消え入りそうな声で返事をした。その会話を聞いてセシリアがまたおかしそうに笑う。
そんなとき、閉じられていた入り口のカーテンがシャッと開いた。
三人の視線が一斉に集まる。
そこから、頭に黒猫を乗せたレナが息切れしながら現れた。
「はぁ、はぁ……ねぇ! おはなしまだ? もうこの子と遊ぶのつかれたんだけど!」
「ニャニャ!」
黒猫モードのショコラが頭の上からレナの鼻先を舐め、レナが「わぁっ!」と声を上げる。そしてからかうようにレナの肩に乗ったり、また頭上に戻ったりする。
セシリアがイスから立ち上がって言った。
「あらあら~。お待たせしてすみません、レナさん。ショコラったら、新しいお友達が出来て嬉しいみたい。それでは、あちらでティータイムにしましょうか。せっかく起こしくださったので、新作のクッキーをご馳走させてください」
「あっ、それならわたしもっ! あの、セシリアさん。わたしたちのお店で作っているお菓子を手土産にお持ちしたんです。よかったら味見をしてもらえませんかっ? 頂いたバニラムードのおかげで、とっても美味しくなったんです!」
「まぁ、以前お話してくださったものですね。うふふ、それはとても楽しみです。今夜は、賑やかになりそうですね」
「だから頭にのらないでってば! 髪くしゃくしゃになるじゃん! こらー!」
「ニャー♪」
こうして定期健診を終えたクレスとフィオナ、そしてショコラに好かれたらしいレナは、セシリアの店で夜のお茶会を楽しむことになるのだった。
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