♯227 白熱! 水着審査!

 本選の最初は水着審査である。

 出場者16名は半分の8名ずつに分けられてステージに立ち、それぞれに水着姿をお披露目。やはり本選ともなると気合いの入った者ばかりで、露出の多いビキニを選ぶ出場者が大変に多かった。ドレスとは違って身体の起伏がよくわかる水着審査は、男性客にとって一番盛り上がるところだ。特に酒が入った観客は熱狂していた。


「ウヒョー! イイぜイイぜどいつもこいつもマジでイイ身体してんじゃねぇか! さすが本選ってとこだな、かぁー酒が進むぜッ! お、次の8人にフィオナちゃんとあのおてんばお嬢様も入ってんな。うぉーい負けんなよぉ! ここいらで一発脱いどけやぁ!」


 ヴァーンを始めとする熱い男たちがステージへ大きな歓声や手笛の音を送って、他の観客もそれにつられて熱量を上げる。そのおかげで出場者たちのやる気もアップしてアピールの質が上がるという相乗効果を生んでいた。


 当然ながら、フィオナの出番では大きな盛り上がりを見せた。

 彼女とルルが登場しただけで、ワーと割れるような歓声が溢れたのである。予選ツートップの人気はさすがのものであった。


 ルルはその歓声を浴びながら華麗な足運びで観客の前に立ち、慣れた様子でくるりと回って花柄の清楚な水着姿を披露。余計な肉付きのない身体はスラリと整っており、日焼けもない肌の美しさは、幼さを残しながらも女性的な魅力を大いに発揮している。

 ルルは優雅に頭を下げてアピールを終えると、フィオナの方を見て「フッ」と笑った。


 そのフィオナはというと、なぜか縮こまりながら腕で身体を隠していた。


「つ、つい勢いで着てしまいましたけど……やっぱりこの水着、ちょっと過激な気がします…………む、胸が……」

「コラーフィオナー! 隠してどうすんのよ隠して! 衆目に晒してやんなさい! 決勝行けなくていいわけー!? あの女にクレスさんとられちゃうわよー!」

「はっ」


 ステージ袖からセリーヌが小さな声を上げ、フィオナがそちらへと視線を移す。

 セリーヌの傍で見守るエステル、リズリット、レナもこくこくと激しく頷いてから、グッと親指を立ててフィオナを鼓舞する。


「やってやんなさいフィオナ!」

「フィ、フィオナ先輩ならいけます……!」

「意外なチョイスだったけれど、なるほど効果的な水着だわ」

「フィオナママ、ゴー」


 そうして全員で陰ながらフィオナの背中を押す。

 その熱を受け取ったフィオナが小さくうなずいて応えると、とうとう隠すことを止めて水着姿を披露した。途端にまた男性客たちから「おー!」と歓声が上がる。これにセリーヌは拳を握って「よし!」と喜んだ。


 フィオナの水着は、以前、皆で海に行ったときのような純白の清楚なイメージのものではなかった。

 ちょっぴり蠱惑的なパープル。それも肩紐のないオフショルダーのバンドゥビキニである。マイクロビキニほど露出が多いわけではないが、スッキリと肩の空いたデザインはセクシーでありながらどこか慎ましさを感じさせ、上品さすら演出している。


 セリーヌは計画通りの流れに口元を緩めていた。


「ふっふっふ……予想通りの反応ね! これなら決勝間違いないわ、よくやったわよフィオナ-!」

「ほぁ……やっぱりフィオナ先輩すごくキレイです……! でも、セリーヌ先輩はどうしてあの水着にしたんですか? 前にエステル先生が着ていたのと似てますよね……?」

「そうね。私はてっきり、フィオナちゃんなら大胆な三角ビキニで攻めるものかと思っていたけれど……」

「んふふ、良い質問ね。その答えはずばり、『ギャップ』です!」

「「ギャップ?」」


エステルとリズリットが同時に首をかしげる。


「そそ。オフショの水着ってどちらかというと少し控えめな印象があるでしょ? 胸元や二の腕を隠して体型カバーしたり出来るから、ちょっと自信がないなって子におすすめしたいところなんだけど……あの子が着るともう大変! 恵まれた体型は隠そうとも隠しきれない! さらにあの子の生真面目さも相まって、それらが逆に大胆なギャップを演出してくれるってわけ!」


 ステージの方をちょいちょいと指差しながら答えるセリーヌ。 

 フィオナは顔を赤らめながらも一歩前に踏み出し、全身を見せるようにゆっくりと回転。すると豊かな胸を押さえつけていた水着がはち切れそうに揺れ、「わわっ!」と思わず胸を押さえて前屈みになってしまうフィオナ。すると今度は空いたデコルテと胸の谷間が強調され、観客たちが目を見張って大騒ぎを始める。これにはエステルたちも『なるほど』と大いに納得した。


 もちろんそれは審査員も同じである。


「あらまぁ、素敵♪ わたくしもその遺伝が欲しかったです」


 審査員の聖女ソフィアが⑩点札を上げる。その隣では真っ先に⑩点札を出したクレスがとても真面目な表情でじーっとフィオナを凝視しており、ソフィアは面白くてつい吹き出してしまった。そしてソフィアの逆サイドではレミウスも⑨の高得点を付けており、ソフィアが目を点にして、レミウスが「ごほん」と咳払いをした。


 こうなるともうフィオナの独壇場であり、ステージではルルが「ぐぬぬ」と悔しげに歯を食いしばり、他の出場者たちも「やられた」といった表情をしていた。この後はまだ自由衣装のアピールが残っているが、水着審査で先手をとることは大変重要なのである。

 というのも、水着審査はそれぞれの看板娘のファンになってくれる客を増やす大チャンスであり、決勝と同じくらいに重要な審査だと言われているからだ。呆れてしまう女性客もいるが、中には出場者たちの美しさへ憧れを抱き、そこから好きな店の看板客になろうとする女性たちもいる。そしてまた翌年の祭りへと繋がっていくのである。


 こうして水着審査で大きなアドバンテージを獲得したフィオナは、見事上位得点者4名に残り、決勝へと進出。ライバルとなるルルも自由衣装のドレスで得点を伸ばし、フィオナと同点で決勝進出を決めていた。


 本当の勝負はここから始まる――!

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