♯127 ともだち
三人娘の中で最も落ち着いたリーダー格――金髪のアイネが、パッチリとした目をまばたきさせて言う。
「ええと……レナさんの言いたいことってそれだけなのかしら? レナさんに魔族の力があることなんて、みんなずっと前から知ってるわよ? 別にいまさらじゃない」
「え……」
「そんなことよりも、さっきの大きいタコさんに捕まったときのほうがずぅ~っとこわかったわ! 貴族の娘として厳しく育てられたから、大抵のものは怖くなんてないと思っていたけど、そんなことないのね。以前、町に魔族が現れたときもそう。私は震えるだけだったのに……あんなのに立ち向かえるレナさんは、立派ね」
アイネの言葉に、元気印のペールと控えめなクラリスもうんうんと大きくうなずいて同意する。
レナのそばに寄りそうフィオナが、レナの耳元でささやいた。
「ねぇレナちゃん。この前わたしと一緒にごはんを食べてくれたアカデミーの昼食時に、どうしてアイネちゃんたちがレナちゃんのところへ来てくれたのか、わかるかな?」
「……え?」
――なぜ?
そんなことを聞かれてもレナにはわからなかった。そもそも、アイネたちの気持ちを考えたことなどなかった。
フィオナは言う。
「
「……!」
何かに気付いたレナがアイネたちの方にバッと目を向ける。すると、貴族令嬢三人娘たちはなんだか気恥ずかしそうに視線を逸らしたり照れ笑いを浮かべた。
フィオナの言葉で、レナはようやくアイネたちの気持ちを知ることが出来た。
アイネがちょっと慌てたように金髪を揺らしながら、胸元に手を当てて話す。
「あの、違うのよ。別に嫌がらせとかじゃなくて、レナさんいつもひとりでいるから。私、モニカ先生からクラス長に任命されている以上、あのクラスから落第者なんて出すわけにはいかないの。だ、だからまずはお昼でもって……」
「そんなこといって~! アイぽん、レナちーが入学してきたときからずっと気にしてたくせに~!」
「そうでしたわね。ドロシーさんがどんどんレナさんに近づいていくのが悔しくて、アイネさんも負けじとレナさんに近づくようになって。けれど邪険にされてしまうものだから、レナさんが帰ったあとはいつもしょんぼりして」
「ちょっと! 二人ともどういうつもり!? ク、クラス長を馬鹿にしたら許さないわよ!」
ペールとクラリスによる暴露で、金髪を逆立てそうな勢いで怒り、紅潮していくアイネ。
レナほどではないが、彼女たちも決して器用な者たちではない。まだ歳幼い子供なのだから当然のことだった。
あまつさえ、アカデミーで生き残るためには相応の実力と精神力が必要である。基本過程クラスといえど、ほとんどの子どもたちは自分のことだけで精一杯だ。
それでもドロシーは、アイネたちはレナと関わろうとしてくれていた。
ただレナを遠巻きに見つめ、拒絶し、腫れ物を扱うようにしてきた大多数の人間たちとは違う。
ちゃんと、見てくれていた。
フィオナが最後の一押しをする。
「人に気持ちを伝えるのは難しいことだけれど……でも、誰かに自分の想いを伝えることは、とっても大切な一歩だよ。わたしもすごく怖かったけど、でも、やっぱり伝えてよかったって思ってるよ。そのおかげで、今も大切な人のそばにいられるから」
微笑むフィオナ。
そのとき、レナの中で何かが変化した。
スッと呼吸が楽になり、目の前が明るくなったように思えた。
空の色が、海の色が鮮やかになった。
世界が、輝いて見えた。
だから、自然と言葉に出来た。
「……ありがとう」
レナの瞳から、一滴の涙が落ちる。
「ドロシー……アイネ……ペール……クラリス…………ありがと……。ドロシー……つきとばしちゃって、ごめん……なさい…………」
レナは、泣きながら必死に言葉をしぼりだした。一度涙を見せてしまったらもう止められなくなり、ぽろぽろと涙が零れ続けていく。
ドロシー、アイネ、ペール、クラリスの同級生たちはその涙に動揺し、慌ててレナを囲むように声を掛けて励ます。
まったく状況のわかっていないコロネットが首をかしげる。
「んん~~~? なんだかよくわからないけど、“ともだち”がなかよしなのはいいことなのだ!」
そんな発言とこの光景に、クレスたちもそれぞれに笑みを見せた。
「クレスさん、よかったですね!」
「ああ。レナはきっともう大丈夫だろう。それでフィオナ、君が彼女の
「へっ!? あ、そ、そうですよね。そのこともクレスさんにちゃんとお話しなきゃですよね。あの、実は――」
そのとき、「きゅぅ~~~」と可愛らしい音が響く。
「……はうっ!」
全員の視線が集まったのは、短い声を上げたフィオナ。
正確には、フィオナの腹部。
フィオナの顔がじわじわ赤くなっていく。
「えっと……あ、あの! これはそのっ、わざとではなくて、魔力を使ったらやっぱりエネルギーを補給しないと……だからあのっ、ち、ち、違うんです~~~~!っ」
フィオナ以外の全員が揃って笑い出し、騒がしい昼食が始まることになったのだった。
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