♯117 水着のお披露目Ⅱ
そこでチェアから立ち上がったヴァーンが、ニマニマと笑みを浮かべながらリズリットの方へ近寄る。
「ほっほぉ、やっぱリズリットちゃんはなかなか将来性あんなぁ。普段の制服じゃよくわからんかったが、脱いでみりゃポテンシャルが丸裸ってもんだ。こいつなら10……いや8年後が楽しみだぜ!」
「ふぇ?」
ヴァーンの視線はリズリットの全身を上から下までなめ回していき、それが胸の辺りで止まったことに気付いたリズリットは「きゃびっ!」と高い声を上げてクレスの影に隠れる。その反応にヴァーンがケラケラと笑った。
「幼女に卑猥な視線を向けないでちょうだい性犯罪者。それ以上羽目を外したら禁固刑よ」
「へぇへぇすんませーん。んじゃあアダルトなヤツも見てみますかねぇっと」
エステルを軽くあしらったヴァーンは、胸の下で腕を組んでいたエステルの方を見てから大いにニヤけた。
「ハッハァーン? お前、胸に自信がねぇからそんなフリフリのでごまかしてんな? ハッ、ムダムダ! 寄せても集まらねぇほどのお前のモンじゃすぐにバレるっての。つーかよ、どうみても既にリズリットちゃんの方がお前よりおっぱいでかくね? よし触って確かめ」
「しね」
「ぐへっ!? ……ほぎゃあああああああ!?」
エステルが白い足でヴァーンの股間を容赦なく蹴り上げ、ヴァーンは少しの間を置いて青ざめると悶絶して砂浜を転がっていった。やがて波にさらわれ海へとさらわれていく。
エステルは軽く手を払って言う。
「まったく馬鹿な男ね。そんなはずがないでしょう。更衣室で拝見したけれど、リズリットちゃんはまだまだ可愛らしいものだったわ。いくらなんでも…………なん、でも…………」
それから自分の胸元を見下ろしたエステルは途端に無言になり、チラリとリズリットの方を見た。
「――きゃぴぃっ!?」
びくぅっと震え上がるリズリット。
何の感情も宿していないエステルの“無”な瞳に、リズリットは両胸を隠しながらぷるぷる震えて首を縦にこくこく振った。何度も振った。それでもエステルの視線は逸れない。リズリットは泣き出しそうだった。
そんな二人をなだめようと思いつつも、何も出来ずに見守るクレス。
幼少からの戦闘訓練によって相手の体格や筋肉量、そこから生まれる動きを正確に把握する術を身に着けているクレスにとって、二人の“差”というのは申し訳ないほど明確にわかったが、ここはあえて何も口にしなかったのである。クレスも『女心』というものを徐々に学んでいた。
と、今度はそこへレナが歩み寄ってくる。
「――ん? レナ、一人かい? フィオナはどうしたんだ?」
「ずっと鏡見てるからおいてきた」
「そ、そうか」
レナはそれだけ告げてレジャーシートの上に座り込み、そこへ待ってましたとばかりにドロシーが麦茶を差し出す。レナは無言で麦茶を飲み、ドロシーはニコニコ顔でと海への遊びに誘ったが、レナは「やだ」と即答。それでもドロシーは諦めようとせず、レナがため息をつく。
ちなみに、フリルのついた可愛らしくも高級な水着を着るドロシーとは違い、レナは子供用の一般的なスイムウェアである。デザイン性よりも泳ぐことを目的としているため、地味で華やかさはない。特別にセリーヌがどれでも好きな物を貸し出してくれたのだが、レナはあえてこれを選んだようだった。
そして、最後にようやくフィオナが姿を見せる。
「ご、ごめんなさい! 水着は慣れないものだったので、いろいろと手間取ってしまって……お、お待たせしました~!」
砂浜をぱたぱたと走ってくるフィオナ。その振動で彼女の一部が大きく揺れて跳ねた。
「ヒューーーッ! うおおおお待ってたぜフィオナちゃぁん! 予想通り――いや予想以上にサイコーだわ! ブラボーブラボー! セリーヌちゃんもイイ水着勧めんなぁオイ!」
「あ、ありがとうございますヴァーンさん」
いつの間にか海から戻ってきていたずぶ濡れのヴァーンが口笛を吹いて喜び、フィオナがテレテレと頭を下げる。まだ水着姿には慣れてないようだったが、フィオナもやはり普段とは違う装いに高揚しているらしかった。
「本当にお待たせしてしまってすみません。あ、あれ? エステルさん、どうかしましたか?」
「いえ……なんでもないわ……」
「そ、そうですか? リズリットがなんだか泣きそうですけど……」
レナ以上の無表情でフィオナの身体の一部を凝視するエステル。近くでリズリットがまだ震えていた。
フィオナはそれからすぐにクレスの前に立つ。
「あのっ! ク、クレスさん。どう、でしょうか……?」
チラチラと上目遣いで感想を求めるフィオナ。
フィオナの水着は、美しい白のビキニスタイル。上下共に紐で結ばれており、露出度は少々高いが、その分余計なものが一切なく、フィオナの抜群のスタイルが際立っており、特に豊かなトップスの形の良さが綺麗に映える。今も成長を続けるその胸や、くびれた腰つきのライン、瑞々しいほどの太股も眩しい。
いつもとは違う一つ結びの髪型も可愛らしく似合っており、若さを大胆に、かつ清純に活かした、少女らしくもセクシーな水着姿だった。
「……」
クレスは無言だった。
だからフィオナは慌ててしまう。
「……え、えっと? あの、クレスさん? も、もしかしてわたしどこか変ですかっ?」
慌てて自分の身体を見下ろして確認するフィオナ。
おかしいところはないようだが、それでもなかなかクレスから返事はなく、フィオナが不安になり始めたときにクレスがようやくつぶやいた。
「――いや、世界で一番綺麗だと思う」
「ふぇっ」
「すまない。あまりに綺麗で見惚れてしまっていた。うん、本当によく似合っているね。こういうフィオナを見るのは新鮮だから嬉しいよ。ずっと見ていたいくらいだ」
もちろんフィオナとしてもクレスに褒めてもらいたかったのだろうが、思いがけないレベルのベタ褒めな言葉が返ってきたことにびっくりしてしまい、少し呆けて、それからへにゃあと表情を崩した。そのやりとりをヴァーンやエステルは静かに見守ってくれる。
「……あ、ありがとうございますクレスさんっ! んふっ、えへへへっ、何度もチェックしてよかったぁ……♥」
「ん? 何度もチェック? そんなに水着を着るのは難しかったのか?」
「あっ、いえそうではなくて……な、なんでもないですよ! それよりクレスさんの水着姿の方が素敵です! とっても格好良いですよ!」
「そうかい? ありがとう。選んでくれたセリーヌさんに感謝しよう」
「そうですね! 海に来て、本当によかったです! クレスさん、改めてありがとうございます。さぁ、せっかく来たんですし、みんなでいっぱい遊びましょう~!」
デレデレの新婚カップルがお互いの魅力に惚れ直す中、三人組の令嬢たちも海の方から戻ってきて、ようやく全員が遊ぶ準備が済んだのだった。
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