隻腕の剣士4

「よう、浅村。久しぶりだな」


「またずいぶん遠くまで来ちまったな。学校の地下で戦ってた頃が懐かしいぜ」

「本当はオレも一緒にそこに行ければ良かったんだけどな。ああするしかなかったんだよ」


「なあ、浅村。ひとつ頼まれてくれないか?」


「言わなくてもわかってるとは思うんだが、こよりさんのことだ」

「ああ見えてもこよりさん、結構脆いところがあるんだよ」


「普段はそんなそぶり見せないけどさ、それってただやせ我慢してるだけなんだよ」

「だからさ、時々でいいから見守ってやってくれないかな」

「まあ、お前のことだから言わなくてもやってくれるとは思うけどさ」


「お前はいいリーダーだったよ。本当なら年長のオレがやらなきゃいけなかったんだろうけど、オレってほら、こんなだろ? だから冷静なお前に引っ張ってもらって助かった面もあるんだ」

「まあその分、おまえには負担掛けちまって悪いと思ってる」


「だから物のついでと言っちゃあアレだけどさ、どうせここまで来たんだから最後までやり遂げてくれ」

「こよりさんだけじゃない。高橋も今井もメリュジーヌも。もちろん浅村、お前自身もだ」


「オレのところにはまだ来なくていい。最後まであがいてあがいてあがきまくってくれ」

「お前ならできると思ってる。頼りにしてるぜ」




「よう、親友。どうだ調子は? 苦戦してるみたいだな」

「まあ、今度の敵はちーとばかし強いみたいだけど、お前ならなんとかできるって信じてる」


「覚えてるか? お前と戦ったとき。俺はあの時のことを思い出すと今でも手が震えてくる。あれはすげー戦いだった」

「まさかお前と戦うことになる日が来るとは夢にも思ってなかったけど、いざ戦ってみてあんな魂の中から震え上がるような戦いになるなんてな」


「いいか、絶対に帰ってくるんだ。帰ってきてもう一度俺と勝負しろ。でないと俺が身体を張ってお前を送り出した意味がなくなるってもんだ」

「お前だけじゃない。結希奈も、こよりさんも、今井ちゃんも、そしてジーヌも、誰一人書かさず連れて帰ってくるんだ」


「……ん? まてよ? よく考えたらお前以外全員女の子じゃねーか!」

「やっぱ今のなし! お前みたいなハーレム野郎は戻ってこなくていいぞ。女の子だけ傷ひとつ付けずに戻してくれればいいや」


「ま、冗談だけどな。早く帰って来いよ。待ってるぜ」




「私は生徒達が二十歳になったら一緒に飲むのを楽しみにしてるんだ。今のうちからとっておきのを用意しておくから、早く二十歳になれよ」

「二十歳になるためには今このときを無事に乗り越えなきゃいけない」


「出かける前、誰一人欠けずに戻ってこいって言ったよな? 先生はお前達のこと、信じてるぞ」




「ぼ、僕は浅村氏のように戦うことなんてできない……」


「でも、それができる浅村氏のために信頼できる道具なら作ることができる」

「道具は信頼すれば必ず結果となって返してくれる」

「だ、だから……うひっ! 左手のその〈ドラゴンハート〉を信じて……」




「あたしはさ、ダーリンの諦めの悪いところが好きなんだよ」


「あたしの身体が石化したとき、一緒に元に戻す方法を探してくれたよね」

「だからさ、どんなピンチになっても諦めないで勝つ方法を探し続けるって信じてるよ」


「無事に帰ってきたらイイコトしてあげるから、早く帰ってきなよ!」




「むりょくなわたしには、いのることしかできませんが、それでもいのらせてください」

「りゅうかいのちから とびたったわかものたちが、どうかぶじでありますように……」




「浅村殿! 肉用意して待ってるっす! あのイノシシを倒した時みたいにまたコボルト村で宴会するっすよ!」

「肉っす。肉!」




「慎一郎くん、ウサギの眷属たちもみんな君たちの帰りを待ってるからね。もちろん、わたしも」

「慎一郎! ジーヌに伝えてくれ! 腰が抜けるくらいうまい料理、山ほど作って待ってるってな!」




「浅村くん」

「浅村」

「浅村君」

「浅村くん!」

「浅村」

「浅村」

「あーさーむーらー!」

「浅村!」

「浅村」

「浅村」

「浅村!」

「浅村!!」



「慎一郎……」

「慎一郎!」




 不思議な感覚に包まれていたのはほんの一瞬のことだった。左肩に走る激痛によって無理やり意識が戻されたかのか、それとも直前になって意識が戻ったから致命傷を受けずに済んだのか。

 どちらにしてもベルフェゴールが慎一郎の左腕を切り落とそうと振り下ろした剣はその軌道をそらして慎一郎の肩に少し入ったところで止まっていた。


「……ほう」

 ベルフェゴールが感心したように声を漏らす。


 慎一郎は左手をまっすぐに伸ばし、その先に握られている〈ドラゴンハート〉はベルフェゴールの右脇腹に深々と埋まっていた。


 鱗と鱗の間をすり抜けるように埋まっているのは偶然か、それともヴァースキとの戦いのために徹底的に鱗の間を狙う癖をつけていたかなのかはわからないが、無意識下での行動がベルフェゴールに一撃を与え、それが腕を切り落とすはずの一撃の軌道を反らしたのであった。


 次の瞬間、魔帝の姿がかき消えた。ほんの少しだけ遅れてその場所を二十四本の〈エクスカリバーⅢ改〉が交差した。魔帝は〈転移〉の魔法によって数十メートル後方にまで下がっていた。


 慎一郎は立ち上がり、〈ドラゴンハート〉を構えた。周囲を二十四本の〈エクスカリバーⅢ改〉が取り囲む。

 ベルフェゴールは左手を右の脇腹に当てている。そこからは淡い光が溢れており、回復魔法を使っていることがわかった。


「その表情、見たことがあるぞ。義憤に憤るでもない、恐怖に怯えているでもない。気に入らんな」

 慎一郎が石畳を蹴ると同時にベルフェゴールも距離を詰めた。両者はお互いのほぼ中間地点で激突した。

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