守護聖獣3

                       聖歴2026年7月27日(月)


 七月二十七日、月曜日。晴天。朝から気温はぐんぐん上がり、どうやら今日は今年の最高気温を更新しそうだ。絶好のプール日和である。


「いいかお前ら、プールを甘く見るな。外は暑いが水はまだ冷たい。しっかりと準備運動をだな……」

 ブーメランパンツの斉彬が目の前に並ぶ十人弱の男子生徒に檄を飛ばす。大きく盛り上がった胸筋に太い二の腕。つい一年前まで野球部のエースとして活躍していたこの少年の肉体は超高校生レベルだ。


 今日はプールのプレオープン日。プール開きに先んじてプール開きに貢献した一部生徒が先行してプールに招待されたのだ。


「よし、準備運動始めるぞ。まずは軽くジャンプ」

 ピッ、ピッと斉彬の笛に合わせて男子生徒達がジャンプする。しかし斉彬本人を除いて、ほぼ全員があからさまにやる気がない様子だ。

 ここにいるのはプールの排水溝から聞こえてくるモンスターの鳴き声の問題を解決した〈竜王部〉と、プール掃除を担当した卓球部や陸上部、それから生徒会だ。ただし男子生徒のみ。


「何でこんな事しなきゃいけないんだ……?」

 屈伸運動をしながら徹が隣で同じように屈伸運動をする慎一郎にぼやく。そして準備運動の音頭を取る斉彬に聞こえるような大声で疑問を――彼にとっては核心となる疑問を投げかけた。


「斉彬さん、女子はどこ行ったんですか? 女・子・は!」

 そう、この場に女子は一人も――厳密にはスクール水着を着たメリュジーヌの映像が一緒に準備運動をしていたが――いなかった。


「女子はまだ着替え中だ。もう少し待て」

 斉彬はそう言ってピッ、ピッと笛を吹き続ける。男子たちはそれにあわせて腰を伸ばし、腕を伸ばし、脚を伸ばす。そうしながら、斉彬は何かを思い出したかのように、

「そうか、女子にも準備運動させなきゃいけないな。後で同じメニューをやらせよう」

 準備運動は更に熱を帯びる。


「だ~か~ら~、そういうことじゃなくって……!」

 そこにいる男子全員の意見を代弁した徹の一言だったが、準備運動に夢中になっている筋肉バカには全く聞こえていなかった。




 夏の太陽に照らされる男子たちの身体からじんわりと汗が流れ出した頃、更衣室の方から黄色い声が聞こえてきた。


「きた――――――――――――――――――――――――――――――!! 待ってました!」


 更衣室から出てきたのは色とりどりの水着を身に纏った女子生徒達。その数、男子生徒よりも若干数の多い十人強。

 徹がもっとも大きな声で騒ぎ立てるが、その他の男子使徒も色めき立っている。


 そこに斉彬が活を入れる。

「おい、お前ら! まだ準備運動は終わってないぞ。ちゃんと準備運動をしてだな――」


「何言ってるんですか、斉彬さん! こよりさんもいますよ!」

「何!?」


 反射的に振り向いた。その先には紺色を基調として白いラインの入ったビキニを着たこよりがいた。シンプルなデザインだが、こより自身の暴力的なプロポーションを惜しげもなく晒している。肩にタオルを掛けているが、胸元は全く隠れていない。大きく開いた胸元は今にもこぼれ落ちそうだ。水着は上下とも紐で縛られている。あれが解けてしまったらどうなるのだろうか……?


「こよりさ――!!」

 その直後だった。ぷちんという音が聞こえたかと思うと、斉彬の言葉は途中で打ち切られ、その直後、ズドンと言う思い音がした。斉彬が興奮のあまり、倒れてしまったのだ。


「きゃ――――――――――――――っ!」

 男女を問わず生徒達が倒れた斉彬の周りを取り囲む。彼は実に幸せそうな顔をして気を失っていた。鼻からは盛大に鼻血を吹き出していた。




「えー、森君は保健室で辻先生に診てもらっています。細川さんが付きそいで残ってくれるそうです。……熱中症ということです。みなさん、熱中症には十分――」

 プールサイドで斉彬の件の顛末について説明をするイブリース。説明を聞く男女の視線がイブリースに突き刺さる。


「こほん。熱中症です。


 プールに招待された全員を前に簡単に注意事項を説明するイブリース。鮮やかな赤いビキニは彼女の青白い肌を強調しているようでとてもまぶしい。腰にはパレオを巻いており、彼女の大人らしさを更に引き出している。アップにした金色に光る髪も新鮮だ。


 イブリースはプールは午後三時までということ、プール掃除の当番は追って各部の持ち回りとして発表されること、各々準備体操をしっかりしておくこと、気分が悪くなったら近くの生徒会役員に報告することなど、簡単に説明をしてすぐに終わった。

 待望のプール開きである。


「いやっほぉぉぉぉぉぉぉう!!」

 徹が勢いよくプールに飛び込んで、しぶきがプールサイドに飛び散った。

 それを合図としたかのように皆が一斉にプールへと入っていく。プールの中はあっという間に興奮のるつぼと化していった。

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