ふたつの剣術部4
「栗山!」
剣術部の部室から抜け出してきた徹に斉彬が追いついた。
「斉彬さん……」
「どうしたんだよ、お前らしくもない」
「俺らしい? ……俺らしいって、何なんでしょうね?」
迷宮の中に生える木の根元で、幹を見つめながら徹は言う。
「そりゃ、お前……」
「わかってはいるんですよ。自分勝手な話だって。自分からあいつらに背を向けておきながら、あいつらが遠ざかると不機嫌になる。自分で〈竜王部〉を作っておきながら、剣術部の話はされたくない」
「栗山……」
「なんていうか、中途半端ですよね、俺。剣術部でもなく、〈竜王部〉でもない。剣士でもなければ、魔法使いでもない」
斉彬は唇を噛んだ。付き合いは短いがともに死地をくぐり抜けてきた仲間だ。その仲間が悩んでいるこんな時に何も言えない。
そんな自分が口惜しく、情けなかった。
「あれ……? 徹ちゃん?」
そんなとき、徹に声をかける女子の声があった。思わずそちらを向くと、ジャージ姿の女子生徒が洗濯物であろう布が大量に入った籠を持ってこちらを見ていた。
「瑞樹……」
ジャージの女子生徒はその場に籠を置いてこちらに駆け寄ってきた。目を大きく見開いており、驚いているようだ。
「やっぱり、徹ちゃんだ。外から人が来てるって聞いたけど、徹ちゃん達だったんだ……」
「ああ。まあな……」
さえない表情の徹に気づいた瑞樹の表情がみるみる曇っていく。
「あ、あの……徹ちゃん? 何か悩みでも? もし良かったらわたしが相談に――」
「おまえには関係ないよ」
素っ気ない徹の返事だが瑞樹は動じることはない。むしろ笑顔になり、
「うん、そうだね……。でも、これだけは覚えておいて。いつでも、どんなときでも、たとえ、徹ちゃんが間違っていたとしても、絶対に、わたしは、わたしだけは徹ちゃんの味方だからね」
その言葉を聞いた徹の表情はどんなだったろうか。斉彬はそれを確かめることなく、その場を立ち去った。そうすることが付き合いの短い仲間に対する、最善の方法だと思ったからだ。
「あー、こよりさんに会いてー」
斉彬は、こよりを置いて徹を追いかけてきたことに若干後悔を抱いていた。
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