なでこの寝言

なでこ

雨の男

「雨?降らせようか?」

「え?」


私は、友人に『ちょっと寄り道してもいい?』と聞くように放たれた、男の言葉に戸惑った。まずい。非常にまずい。

何が?ーーこの状況だ。無理もない、この男はコンビニの自動ドアの前に、傘を差して逆さに立っている(?)のだから。


「さっき、言ってたでしょ。“雨が降ったらいいのに”って。」

「……そうだっけ?」

「そうだなあ……あ、いいもの持ってるね!それ、使わせてもらうよ」

「あ、ちょっと勝手に……!」

ペットボトルの水だ。キャップが空いた音が聞こえた次の瞬間、中から水がざざあっと噴水のように躍り出てきた。


「こんな窮屈なところに閉じ込められて、それは寂しかったろう?」

男はいとおしそうに、透明に輝く小魚たちに触れる。そして、「家に帰る前に、少し遊んでおいで」と子守唄を聴かせるように優しく囁いた。


するとどうだろう。空からぽっぽつと小さな雨音の粒が降り始め、道端はすっかりコンサート会場となった。


しばらくして音が止み、私はすぐに男を探して歩いたが、どこにも姿はなかった。

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