第33話 ピンポンダッシュはとても迷惑

 話変わって、アンダーゲート要塞に展開する魔王軍視点の話をしよう。


 要塞化によって、すべての出入りについて記録が取られ、内容をまとめたサマリーレポートが作戦室内の幹部クラスに対して展開されている。


 報告を受け取ったナイフは、周りの手下に聞こえるよう内容を展開する。


「勇者パーティが侵攻してきたようですね。なになに、空中から要塞に向けてとDMZ に対してちょこまかと散発攻撃をかけているが、全て防御に成功ですか。

ここまで強固な要塞を築いたのです。当然の結果でしょう。

引き続き、何か起きたら適宜報告をあげるように!」


 現在スピーディ一行はまだ情報収集中の状況だが、要塞の構成に穴はなく行動もすべて魔王軍が把握できている。アンダーゲート要塞はファイアウォールとしての機能をいかんなく発揮しているようだ。


 もし勇者達が深入りしてくるようなことがあれば反撃も考えられるが、当面はおそらく様子見が続くだろう。


 少し退屈そうに、カールが発言する。


「この調子では、俺の出番は当分なさそうだな。もっとも、万一要塞に侵入できたとしても、完膚なきまで蹂躙してやるがな!」


 不敗神話の名前の通り、今まで負けたことがないことが自慢だ。

四天王に抜擢されるほど能力が優れているのもあるが、彼の持つ『ルーの槍』による効果だという噂もある。


 スピーディ一行としては、アンダーゲート要塞の攻略もさることながら、カールをどうにかしなければ勝利できない。


――――


 話をマヤ視点に戻そう。アンダーゲート要塞近辺に展開したスピーディ一行は、情報収集に乗り出したがあまり芳しくない状況だ。


「あかんわ。空中からの侵入は警備が固とうて絶対無理やわ」

「DMZに入るだけでも、とろくさいことやっとってわやだでかんわ」


 いくらか周辺の街から協力者を募り従軍させているが、正攻法で要塞攻略ができるほどの人数はいない。


 スピーディ一行で突破口を開き要塞を攻略し、力仕事など人手のいる作業をお願いするのが関の山だ。


 何か弱点はないだろうかとマヤは思案する。厳重ということは、だ。


――――


 ベタな方法だが、攻略の糸口を求めて一つ試してみることとした。


 現状、外部の人間が近付くことができるのは要塞から少し離れた DMZ までだ。

他の場所にはまともに近づくことができない以上、DMZ 経由で攻略するしかないと判断した。


 そこで、いわゆる現世でいうところの、TCP でいうところの SYN Flood 攻撃を DMZ に対して行ってみる。


 もっとも、今時のインターホンの呼び出し音が「ピンポン」なのかというツッコミはここでは触れない。


 要は、最初に DMZ に入るぞとネゴシエーションだけ行い、その後逃げてしまう。

そして、別の出入口に行って同じことを繰り返す。さらに、これを複数人で分担して繰り返し行うのだ。


 現状、を取っているため、この中途半端な状況も管理して記録を残す必要がある。


 HDD やフラッシュメモリなどに記録のを残すのであれば一瞬で終わるかもしれないが、この異世界では人手で状況確認を行い羊皮紙に手で記載して記録している状況だ。


 もう少しテクニカルな例としてファイアウォールの機能で例えると、セッションテーブル、もしくはステートテーブルを溢れさせてやろうという戦法と考えて欲しい。


 たとえテーブルが溢れるまでの状況にならなくても、負荷が増えたことで正規の出入り検査に回す時間が少なくなり利用者を不便にさせてしまおうという魂胆である。


――――


 スピーディ一行によるピンポンダッシュ攻撃のため、正規の出入りについても確認動作が引きずられて遅くなってきた。アンダーゲート要塞内の食料や物資補給に支障が出始め、何らかの対策が必要な状況だと言えるだろう。


 カールは、自分の出番だと言わんばかりに主張する。


「人族どもめ、なかなか姑息な手段を使ってきたな。こちらから打って出るので是非私にご用命を!」


 せっかく強固な要塞を構築したのに要塞外で決着をつけるというのはばかげているが、一つの選択ではある。


 その一方、カールに手柄を持っていかれるのは癪に障るとナイフは考えた。何か他によい対処法はないだろうか?

そんなことを考えている時に、ナイフの腹心から別の案が提示された。


「失礼を承知の上で申し上げます。してしまえば正規の出入りが早くなるのではありませんか?」


 許可したものは正規の通信なので記録を止めてしまえという提案だ。確かに、

この提案であれば今の状況でも食料や物資補給の出入り確認待ち時間は短縮される。

ナイフは、この提案について思案する。


「うーむ。という提案ですか。背に腹は代えられませんね。それではこの提案を受け入れることにしましょう」


 協議の結果、許可した出入りについては記録せず、拒否/拒絶したものは記録するとルールを変え対処すると決定した。


 この選択が今後どういう影響を起こすか魔王軍はまだ知る由もないのだが…本当にこんなセキュリティで大丈夫か?


――――

 教訓: ファイアウォールの役割の一つに、全ての通信記録を残し何かあった場合の    証跡利用がある。許可した通信の記録を除外する運用は非常にナンセンス

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