第29話 サイドチャネル攻撃

『ひかりのたま』の原石を求めて、総当たりで判定機にかけて真贋判定をしていたスピーディ一行だが、当然のことながらすべて外れだ。


 このまま継続しても現実的な時間で解決するとは思えず、総当たり作戦ブルートフォースアタックは早々に諦めることとした。


 発想を変え、ハッシュ値からどうにかして原石の組成にたどり着く方法はないかと頭をひねっていたところ、マヤがあることに気づいた。


「そういえば、石を乗せてから判定完了までにかかる時間がようね。そして、真贋判定機の動作音もわね」


 同じ石を繰り返し判定にかければ、かかる時間や動作音は同じだが、石が異なれば真贋判定機の挙動がわずかに異なることに気づいた。ここをさらに追及することで、総当たり作戦より効率よく正解にたどり着くことができるのではと考えたのだ。


 そう、具体的には真贋判定機に対してことで、何か特徴がわかるんじゃないかと気づき実験を開始する。この手のものは、外部からの搦め手に案外弱い場合があるのだ。


 今までは、川原で集めた石を一つづつ置いていたが、手元にある関係ない持ち物を含め片っ端から真贋判定機にかけていく。


 そして、真贋判定にかけた持ち物の名前とかかった時間や動作音について詳細な記録を残し、何か特徴がないか調べていく。


 そうすることで、少しずつだが特徴的な情報が見えてくるようになった。


「なるほど、組成毎に含有率を少しずつシフトさせて組み込んであるといったところかしら。かなりわかりやすいハッシュ関数を使っているようね。これなら私でも解析できるかも!」


 おそらく、かつての大賢者は『まほうのたま』の悪用を恐れて、乱造できないようにしたのだろう。そして大賢者の思惑通り、原石の組性情報は失伝して今に至る。


 それでも、後々人族にとって必要となった時のため、必要最低数の原石を残して神殿に管理をさせた。そのため、ひかりのたまの製法および、原石の判定に必要な真贋判定機は残っていたのだろう。


 さすがの大賢者でも、サイドチャネル攻撃を使って真贋判定機から原石の組成情報を引き出されるのは想定範囲外と思われる。しかし、もはや後の祭りだ。


 組成が分かれば、それに即した石を作ることがこの世界では可能だ。科学的な方法ではなく魔法を使えば、いろいろな材料を混合したり合成することができる。


 残念ながらスピーディのメンバーではこの魔法を使うことはできないが、わざわざスキルポイントを消費して自分達でする必要はない。魔法の使える鍛冶職人にお願いすればよいだろう。


 早速、割り出した組成情報を何パターンか書き出し、フランソワーズに持たせてセントラルクラブの工業地帯まで送り出す。


「さて、これでフランソワーズが持ち帰った石が真贋判定機を通過できれば、『ひかりのたま』を作れそうね!」


 そして、数日ほどで鍛冶職人が錬成した原石をフランソワーズが持ち帰ってきた。


「やったわー。真贋判定機を通過したわ。早速『ひかりのたま』の製作に入ってちょうだい!」


 こうして、マヤ達スピーディ一行は、『ひかりのたま』の入手に成功した。


 余談だが『ひかりのたま』はいつも通りアイテム増殖技によって増やしておいた。

インペリアルキャピタルには『たまのひかり』という地酒があったのでアイテム増殖時に有効に活用することができた。


「これで魔族と戦う際、魔法への対抗手段ができたわ。それでも、こちらから攻め込むにはまだ力不足かもしれないわね。他に何か有効な手を考えなくちゃ!」


――――

 教訓: 暗号強度の強いシステムでも、サイドチャネル攻撃を使って強度を

    下げられる可能性がある

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