幕間 要塞化(ファイアウォール)

 今回は、マヤ達スピーディ一行にワイドアイランドで敗れた後の魔王軍の動きについて触れておく。


「本当ですか?フレンダが敗れ、従軍していた魔族兵が殲滅されるなどとは…。

にわかには信じられませんね」


 圧倒的な身体能力、魔力やMPの差から、人族に対して後れを取るなどとは全く考えていなかった。


 しかし、報告を聞く限り、人族にも知恵の回るものがいることが明らかになった。

さすがは、勇者パーティ一行といったところだろうか。力押しだけでは虚を突かれる可能性が高いとあらためて認識する。


 ナイフは、拡大路線を取った戦術のまずさを大いに反省しつつ、まずは体制の立て直しを考えなければならなくなった。


 魔族は人族と比較して、圧倒的に数が少ない。

フレンダだけではなく貴重な魔族兵の多くを殲滅されたとあっては、これ以上の戦線の拡大はおろか下手をすればことにもなりかねない。


「カール。現状の戦力報告をお願いします。そして、アンダーゲートのを進めるように!」


「はっ。承知いたしました」


 幸い、アンダーゲート要塞は守りを固めるのに都合のよい立地、形状をしている。


 一旦守りに入ることになるが、守りを固め時間をかけて戦力の補充を行い、反攻の機会を伺う作戦だ。


 魔族の生息域に侵攻するのであれば、ここを避け進軍することはほぼ不可能だ。


 仮にアンダーゲート要塞を無視して攻略せず魔族の生息域を目指そうものなら、挟撃され殲滅されてしまうだろう。


「面白い。人族の勇者とやらがどこまでやれるか見てみるとしようぞ」


――――


 人族が支配していた頃から、アンダーゲートは要塞として機能していたが、カールの指示によって急ピッチでが進む。


 まずは、抜け道を全て塞ぎ、必ずアンダーゲート要塞を経由しないと先へ進めないように工事を行う。


 そして、不審者の挙動だけではなく許可されて通過したものであってもへと切り替えた。


 しかし、全ての記録を取るということは、検査のため多大な時間を割く必要があり利便性は大きく低下する。しかし、今はアンダーゲート要塞が人族によって奪い返される危険性のある非常事態だ。ここは利便性よりすべきだろう。


 さらに、要塞機能を維持するためには、全く外部とやり取りをしないという訳にはいかない。しかし、要塞の内外で直接物資等の運搬を許可するとセキュリティレベルがかなり低下してしまう。


 そのため、まずは要塞から少し離れたところに非武装地帯DeMilitarized Zoneを作り、食料品など生活必需品はまずここへ運び込み取引を行うこととした。

そして、定期的に要塞内部のメンバーが DMZ から必要物資の運搬を行う。こうすることで、素性のわからない外部の人間などが直接要塞に入り込む余地をなくした。


 さらに、要塞内から必要があって外部に出る場合はその状態ステートを記録しておき、その人物が戻ってきた時は記録は残すが即座に通過させる運用とした。こうすることで、利便性を確保しつつセキュリティを考慮した運用を見込むことができる。


 言葉のみで伝えるのは難しいが、いわゆる、ステートフルインスペクションに対応したファイアウォールとしてアンダーゲート要塞を再構成して、勇者達の侵攻に備える予定だ。


「ナイフの奴め、臆病風に吹かれたか。たかが人族の勇者ごとき、無敗神話のカールが蹂躙してくれるわ!」


 アンダーゲート要塞にて、スピーディ一行とカールを筆頭とした魔王軍の衝突が、さほど遠くない未来に起きることとなるだろう。

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