Case4:『エーリアル』
Prologue:太古の神獣
古の時代。神の血を受け継ぐ一族として、人々から信仰の対象となっていた種族が在った。彼等はその優れた力と、あらゆる病気を治す血液を以って人々を邪悪から守り、
しかし人の心は弱く、移ろい易いもの……。邪悪や害悪から守られ安全を得た人々は、やがてその状態に
安全とその先にある繁栄を自分達の力だけで獲得したと思い込んだ人々は、未だに清貧を説いてくる聖獣の一族を疎ましく思うようになった。自分達より優れた存在である彼等を妬み、自分達こそがこの世の主であるという思想の元、人々は一族に対して反旗を翻した。
一族は人々の変心を嘆き悲しみ、その多くは人々の迫害によって命を落としたり、人々を見限っていずこかに消え去って行った。誇り高く心優しい種族であった彼等は、例え迫害されようとも人間と争う気は全く無かったのだ。だが……
一族の中に、反骨の相を持つ暴れ者がいた。
何故人間より遥かに優れた力を持つ自分達が、あの下等な連中を立てて導てやらねばならないのか。それよりも圧倒的な力で強権的に支配した方が効率が良い。自分達にはその力があるのだからそれが正しい在り方なのだと訴えたが、一族の者達には聞き入れられず、それどころか危険な存在として監視されるようになった。
そして時が立ち、人間は感謝の念を忘れ傲慢になり、あろう事か彼等の一族を邪魔者として排除しようとすらしてきた。ただ嘆き悲しむだけで何ら争おうとしない一族の者達……。
彼は怒り狂った。傲慢で愚かな人間達は彼のいる場所にも踏み込んできた。一族の者達が何も抵抗しないので調子に乗った人間達は、彼の事も楽に殺せる獲物だと見做して襲い掛かってきた。
もう我慢の限界だった。どの道一族は瓦解して、彼を止められるような者もいない。最早彼が大人しくしている理由は何もなかった。根拠もなく自分達は安全だと思い込んでいた連中に襲い掛かって殺してやった時の驚愕と恐怖の表情は未だに忘れられない。
彼は怒りと興奮と……衝動の赴くままに
しかし一族の庇護の元、人間達は余りにも数が増え過ぎていた。彼がどれだけ強い力を持っていたとしても、単身で人間達を滅ぼす事は不可能であった。やがて人間達の反攻に遭った彼は、数の暴力の前に遂に討ち取られた。
全ての人間達への憎しみと呪詛を吐きながら彼は息絶えた。一族の中で唯一
そして悠久の時を経て、1人の考古学者によってその痕跡が発見される事になる……
夢を見ていた。
「…………」
ねぐらとしている山の木々の向こうから人間共の街が垣間見える。その街並み、人間の生活様式、そして何よりその膨大な個体数……。どれもが彼が
忌々しい事にあれからも人間共は繁栄を続け、これだけの文明と勢力を築くに至ったのだ。挙句の果てに一度は死んだ彼を甦らせて、不遜にも支配しようとする輩まで現れたようだ。
甦った直後は記憶が混濁していたが、それでも人間に対する強烈な敵意だけは彼の中に残り続けていた。彼がまだ目覚める前、強烈な力で執拗に彼の意思を支配しようとする存在を感じた。まだ意識が混濁していた事もあり、あのままではどうなっていたか解らないが、何故かある時を境にその『攻撃』をぱったりと感じなくなった。
しかし人間共は彼を支配しようとする『攻撃』を中断したまま、愚かにも彼を覚醒させた。人間に対する敵意と憎悪に満ち溢れていた彼は、その衝動を存分に解放し、その場にいた人間共の殆どを殺した。
やがて徐々に記憶が戻ってきた彼は、今の人間達の勢力を分析し、このままただ暴れるだけでは、また以前の戦いの繰り返しになると判断した。
彼は新しく作った自分の『巣』に戻った。入り口付近には彼が殺して喰い散らかした人間の
人間の雌達はいずれも彼が羽毛を加工して作った枷によって、『巣』の壁に拘束されていた。その内の初期に攫ってきた雌2人の腹は
とりあえず今の時代の人間達でも
戦力が充分整うまでは余り人間達の注意は引きたくないが、今のペースでは目標の個体数に達するのは気の遠くなるような先の話になってしまう。彼の中の人間への憎悪が、それでは遅すぎると彼を駆り立てる。
この人里から離れた山の中では限界がある。そろそろ、あの人間共が大量にひしめく『街』へ出向く必要があるかも知れない。あれだけ大量の人間共がいるのだ。彼の好みに合致する雌も大勢いる事だろう。彼はその時を想像して、興奮から大きく翼を広げ奇怪な叫び声を上げる。
――『海』からの脅威が去った街に、今度は『空』からの脅威が舞い降りる。
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