第14話不安


 法廷を出てすぐに皆に確認する事がある。


 「みんなに確認したいのだが、誰も元の世界で戦争が勃発したとか核兵器が使われたとかそういう事は知らないんだよな。もし、知っていれば教えて欲しい」


 俺の問いにすぐに答えたのはサホだ。


 「流石にニュースくらい見るわよ。そしてそんな大事件を忘れる事も、黙っている事もないわよ」


 サホの言葉にレナとルミが頷く。

 クラトは険しい顔で言う。


 「あ、悪魔に誑かされたという事だろう。奴らは全て真実と言ったが、その事を誰も知らないのだからあれは嘘だ。あいつらが約束を破っている以上奴らに従う必要はない。もうまともに相手する必要はない!」


 怒りを露にするクラトには掛ける言葉がないと思っていたところに言葉を掛けるのはレナだ。


 「ココまで来たんだし、あと一回くらい待ってみようよ。悪魔が降参するまで裁判で勝てばいいのよ」


 ユウナが俺の方を向き大きく頷いて言う。


 「んっ。何度あいつらと勝負してもシュウヤがなんとかしてくれると信じているから」


 ユウナに頼りにされているのは分かるが、ユウナにはもっとしっかりして欲しい……とは言えるはずもなく、愛想笑いを返す。


 「アラアラ、アンタ。誰かさんからものすごく信用されているのねー」


 レナが俺を見ながら揶揄う様に言う。その言葉を聞いてユウナの顔が赤くなり、サホとルミが控えめに笑う。


 完全に無視され、孤立してしまったクラトは壁をつま先で軽く蹴ってから一人で自室に戻っていく。


 「むぅ。なんか感じ悪い」


 ユウナが聞こえないくらいの小さな声で呟く。クラトに対しては他の人も大体同じ思いの様で不快な顔をクラトの背中に向けていた。孤立感を深めるクラトに不安を感じながらも俺たちも各自の部屋戻る。


 「んっ。じゃ」


 「ああ」


 法廷に近いのはレナとユウナの部屋だが、レナは当然の様にサホの部屋に入り浸っている為、ユウナとはここで別れた。


 「ちょっと待って」


 サホとルミの部屋の前に差し掛かった時、サホに呼び止められた。


 「なに?」


 「恐らくは七つの大罪に関する問題がこれまでの裁判で行われてきたと思う。だから次が多分最後。山は張れると思うけどどうする?」


 「それは止めておこう。慢心は禁物だ。もし具体的にどういう罪が裁かれるかを予測できるなら考えなくもないが」


 「それは無理。ただ、七つの大罪の『傲慢』が最後になるんじゃないかしら?  それに該当しそうにない問題は除外できると思うのだけど」


 それまで話を聞いていたルミが話に参加してくる。


 「え~でも~。山を張れるという『傲慢』が~問題になることもあるでしょうから~除外ではなく~該当する問題を重点的に調べるのがいいのでは~?」


 「なるほど。ルミに任せていいかな。俺は今まで通り」


 「いいけど~。山が外れるという事もあると思うから期待はしないでね~。あと私は悪魔に対する知識はあるけどそれ以外は期待するだけ間違っているから~」


 「ナンとかなるんじゃないかな。ユウナの王子様である誰かさんがなんとかしてくれると思うよ」


 ここまで話に参加していなかったレナが俺の顔を見ながらまた冷やかしを言う。ユウナの前で揶揄われていないだけマシだが程というものがあるだろ。




 部屋に戻った俺はいつもの様に情報収集を行う。しかし、中々身に入らない。

 俺ばかりが皆から信用を得ているせいでクラトは恐らく嫉妬している。悪魔たちとの闘いの前に俺たちが団結していないのは気がかりだ。

 話をして改善するか判らないがとりあえず話をしておくべきだろうと思いクラトの部屋に行くことにした。




 クラトの部屋をノックするも返事がなく、ドアノブを回してみるも回らないので、居る事は分かる。居る事は分かっているが、どうしても話し掛ける言葉が見つからなかった為、不安を感じならがも自分の部屋に戻り、情報収集を行う事とした。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る