第21話

「やっぱり、ここか」


「拓也くん!どうして?どうしてわかったの?」


「普通にわかるだろ」


あの夏、

彼女に連れてきてもらった場所は、俺達を引き寄せてくれた


「っで?逃げて帰ってきたって訳か?」


「……」


「何か言えよ」


「何も言えない。

拓也くんの言うとおりだから…。

東京には私の居場所はないと思って逃げてきた」



「なぁ、千夏、俺も何度も逃げたいと思ったことある。もうどうでもいいやって…」


「嘘。拓也くんはいっつも自信満々で輝いてて、私には手の届かないところにいる人」


「千夏、ほんとにそう思ってる?」


「……思って…ない。

ここに初めて一緒に来た時、拓也くん…泣いてた。

その時、わかったの。この人もただの男なのかもなって」


「だよな。千夏は気付いてると思ってた。

ならさ、お前も一緒だろ?

背伸びする必要なんかない。

ただの女でいいじゃん」




「千夏…

居場所なんてものは、いくら探しても見つからない。自分で作るもんだ。


お前の居場所は自分で作れ。

そうやって、作った場所は、

大切な場所は…

何が何でも守ろうとする。

どんなことがあっても、しっかりと踏ん張って絶対そこから離れない。


帰ろう。

もう、千夏の居場所はここじゃない」



「…うん」



「千夏、やりたいことあるんだよな?

ずっと、そのことで悩んでたんだよな?」


「どうして、わかるの?」


「だから、千夏のことは何でもわかるんだって。

…いやっ、わかってなかったな。誤解して怒って悪かった」


「うううん、私がちゃんと言わなかったから…ごめんなさい。

もう、この年からじゃ、始めるの遅いかなって」


「年とか関係ないだろ。やればいいじゃん。俺がずっと側で見ててやるよ」


「拓也くんっ」


愛しい人の腕の中に飛び込んだ

息を切らして駆け上がってきた彼の鼓動はまだ少し早く、汗ばむ肌が彼の香りを際立たせる


「汗くさぁーい」


「お前なぁ、どんだけ走ってきたか。

石段、猛ダッシュだぞ」


「ごめんね」


「俺も、ごめんな」




千夏はずっと写真を撮りたかった


古いカメラを大切に大切に持っていた彼女はその世界に踏み出すことを躊躇ってた


腕の中の千夏の温もりを感じながら、

これから先、彼女が迷い、悩み、挫けそうになっても、俺はどんなことがあっても、側に居続けようと思った


俺にとって、彼女がそうあるように。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る