第3話~リーナ・フリード2

ー昨日ー


「くそ・・・私の純情が踏みにじられるばかりか

勝負にすら負けるとは・・・・」


リーナ・フリードは一人帰路につく

既に日は沈みかけていた。


彼女にとってしっぽを握らせたのは

10年前仲が良かった『しゅんた』という

男の子だけである。それがどうだろう?

今日はパーフェクトヒューマンという

奇妙な名前をした得体のしれない奴に

いきなり握られたのだ

リーナにとっては最悪の1日になったであろう


「はぁ~」

大きくため息をつく

いくら冷静ではなかったとはいえ、

勝負ですら負けたのだ

剣技にはかなりの自信があった

あったからこそ今回の負けが悔しかった

しっぽをつかまれた以上に、

そのことが彼女の心を大きく沈ませていた


「ユリスの鬼神・・・馬鹿だな私は・・・」


1年前の事件で彼女はそう呼ばれるようになっていた

だが、この二つ名のせいでリーナは少し天狗になっていた

私に勝てるやつなどいないとすら思っていた

でも、今回はいともあっさり負けた

突きはすべて防がれ

挙句に刀の頭で小手打ちをされ

剣を落としたのだ

なんとも情けないことか


「はぁ~」

また大きくため息をつく

「ついた」


考えているうちに家に着いた。

レンガ造りの3階建て

大きな煙突が特徴的で

小さな庭には草花が植えられ

屋敷を華やかに彩っていた

普通の家屋に比べれば大きいが

領主の屋敷にすればやや質素なものだ


「ただいま戻りました」

落ち込んだ表情のままリーナが家に入る


「おかえりなさい・・・どうした

浮かない顔して?何かあったのか?」

領主である父親が心配そうに尋ねてくる


父親の名前はガイル・フリード

眼光は鋭く筋肉隆々な逞しい

見た目ではあるが

性格は極めて温厚な人物であり

自身は金の無駄遣いはしない

倹約家ではあるが領民

のためならば金を出すことは

いとわない人物である

そのため領民からは慕われて

いる人物である


「実は・・・・」

リーナが話しづらそうに口ごもる

「話してみなさい、私たちは親子だ

気にすることはない、話せばきっと

気持ちも晴れるはずさ」


実はリーナとこの父は

血はつながっていない。

10年前の戦乱で孤児になった

リーナを養子として引き取ったのだ。

養子にもかかわらず

血のつながった子供たちと同じように

愛情を注いでくれた


「実は今日私のしっぽをつかんだ相手

と真剣勝負をして敗れたのです」

すると父親は少し驚いた表情を見せた

「そうかそうか、で?そやつの名は?」

「パーフェクトヒューマンと名乗っていました」

すると父親はにっこりと笑って

リーナの肩を両手で軽くたたいた

「私に任せておきなさい何とかして見せるから」

「はあ?そうですか」

何を?とリーナは思ったがとくには気にしなかった

普通に考えればしっぽを掴まれたことについてなのだが

今のリーナは負けてしまったことのほうにしか頭はなかった




ー翌日ー


「絶対に見つけ出すぞおおおおおお」

外が何やら騒がしい

外の声で起こされたリーナは重たい瞼

をこすりながら窓の外を見る


「なんなんだあ~朝から」


今日は非番であったリーナは不満そうにつぶやく


「パーフェクト・ヒューマンを血祭りにあげろーーー」


その声を聞いたときリーナは血の気が引いた

(そうか私が父上に話したからだ)

リーナはすぐに状況を理解した

おそらく父親が領民に昨日はなしたことと

同じことを伝えたのだろうと

それを聞いた領民は怒り

そして今の状態に至るのだろう


(まさかこんなことになるとは)

温厚である父親がこんなことするはずはないと

思っていたのにまさかこんなことになるとは

とリーナは思った、どうすればいいのだろうか?


(私が話せば領民は止まってくれるだろうか?)

彼女は急いで着替えをすまし外に出た

「リーナ・フリード様お待ちください」

家を出てすぐに男に呼び止められる

よく見るとどこかで見覚えがある男だった


「あなたは誰だ?」

「私は山田健太というものです」


顔を見てリーナは思い出した

たしか勝負の時に実況をしていた男だ


「何かご用件でも?」


問いかけると男は地面に頭をつけた


「リーナ・フリード様、私の友人が大変ご迷惑を

おかけしました。 しっぽを掴んだことは決して

許されることではありません しかしどうか

命を取るのだけはどうかお許し下さい

私の友人は大変な世間知らずで しっぽを掴む

意味の重大さを知らなかったのです

ですからどうか、どうか、どうか」


男はこれでもかと謝り続けた。

リーナははなから命など取るつもりなどない

確かにあの時は、頭に血が上っていたが

冷静になった今、その気はさらさらなかった

その上そいつ友人にここまで謝られれば

許さないはずがない


「頭をあげてくれ、私ははなから命を取るつもりはない

父や民が暴走してしまっているだけだ

だからそこまで気に病むな」


そういうと男がゆっくりと頭をあげた


「ほんとですか?ご慈悲感謝いたします。

このご恩は一生忘れません。

では、ついてきてほしいところがあるのですが。」

「ついてきてほしいところ?」

「無礼を働いた友人のいるところです」


そうして二人は神山俊太のいるところに向かうのだった。



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