第四章、その四
『──最初はナキウサギであった。少年が逃がしてしまったその小動物を、俺が投げたナイフがあっけなく行動を封じたことで、妙な尊敬を得てしまったようだった』
『それからその少年は、俺のあとをちょろちょろとついてくるようになり、何かにつけてまとわりついてきた』
『正直少々うざったくも思っていたのだが、案外あれで可愛らしいところもあり、気が向いたら腕ならしにしとめた、鳥や小動物のおこぼれをあずからせてやったりもした』
『驚いたことに、その少年は何のためらいもなく、与えられた獲物を生肉のまま食べ始めたのである。最初は奇異に思ったものの、慣れればどうってこともなく、彼との交遊はそのあとも続いていった』
『そのうち俺がねぐらにしていた座敷牢にも、ちょこちょことやってくるようになり、しかも俺に教わった狩りのやり方でしとめた収穫を持参してくることすら、時にはあった』
『──そんなころである、俺があの不思議な夢を見るようになったのは』
『まあ、独身男にはよくありそうなやつで、早い話が煌々と輝く満月の夜空の
『それはそれで大歓迎ではあるのだが、問題はその少女ってのがあまりにも、あの少年──「
『けして俺にはそっちの趣味はなかったと思っていたんだが、深層心理的にはあれこれ思うところがあるのだろうか。一度思春期カウンセラーにでも相談してみるとしよう』
『鞠緒のやつも、黙っていれば素材的には問題はなく、そこら辺の美少女顔負けの、端整さと
『──しかし、そんなのんきな感慨は、
『何とあの奇妙なる夢のすべては、鞠緒の巫女の力によって創られたものだったのだ』
『その夜。体の調子が悪かったのか、夢の中の少女とタイミングが合わず一人先に夢から覚めてみたら、あの少年が布団越しに俺の体の上に覆いかぶさっていたのだ』
『脱兎のごとく逃げようとするのを押さえつけて、少々手荒に問い詰めれば、巫女の力を利用すれば他人の夢に干渉できることを白状した』
『年端もいかない子供にコケにされたことに激昂した俺は、夢のシチュエーションそのままに、少年の華奢な肢体を思う存分陵辱した』
『これでガキとのお遊びも終わりだと清々しつつも、一抹の罪悪感と虚しさを感じていたところ、なぜだか鞠緒が懲りもせず、遠巻きに俺のことを見つめていることに気がついた』
『試しに放り投げた狩りの獲物に、予想通りに飛びついたことに少々あきれながらも呼びつけてみれば、意外にも素直に招きに応じたのである』
『あの夜のことがまるで無かったかのように、以前と変わらず無邪気にすり寄ってくるようになる鞠緒。いたずらに体をまさぐれば、なんと自ら素直に体を開いてくる有り様だった』
『驚きのあまり気分が萎えてむしろ冷静さを取り戻し、きょとんと首をかしげる少年を問いただしてみれば、とんでもない爆弾発言をかましやがりなさった』
『なんでもこの里の
『しかも、鞠緒もそのあと同じことを俺に対して行うことによって、すでに婚姻の承諾が確認されていたことになっており、彼はあくまでも一人前のパートナーのつもりで俺にまとわりついていたのだ』
『つまりあの夜の俺の行為はけして、幼い同性の子供に対する倒錯的強制行為なんかではなく、単なる正式なつがい同士の「夜のおつとめ」にすぎなかったのだ』
『いまいち納得はいかないものの、あくまで通俗的な考え方で言えば、どうやら俺はこの少年の「餌づけ」に成功したようなものではなかろうか』
『しかもこの一族の習性の不可思議さは、そんなことだけでは済まなかった』
『彼らの「愛情」とは、まさに物理的にも精神的にも、文字通り相手のすべてを受け容れることであり、それと同時に自身のすべてを相手に捧げることであったのだ』
『──そのことは、鞠緒の行動のすべてに、端的にあらわれていた』
『彼は俺の大人の雄としての行為だけでなく、戯れに行う暴力的行為にすら従順に従ったのだ』
『彼らにとって最初に相手との間に愛情の確認さえ行っていれば、それ以降両者の間で行われるいかなる行為も、「愛情表現」の一つだと認識されてしまうのである』
『けして暴力を容認しているわけでも耐え忍んでいるわけでもなく、自分が相手に愛を感じているうちはそのすべてが、「愛の行為」へと変換され昇華されるのだ』
『最初のうちは戸惑いを隠せなかった俺だが、隠し持っていた生来の嗜虐性が徐々に頭をもたげ始め、気がつけば思うがままに少年を嬲り傷つけ獣欲のはけ口にする、「ケダモノ」と成り果てていた』
『もしも、自分のことを盲目的に愛してくれて、その身を投げ出しすべてを受け容れ赦してくれるような相手が目の前にいて、聖人君子を気取れる野郎などいやしないだろう』
『しかし同時にその少年のほうも、徐々にこちらの心と体のすべてを、自分のものとしていっていることに、俺はまったく気づくことができなかったのだ』
『ある夜のいつも通りの情交のあとで、その少年は俺の腕の中でこうささやいた』
「──我はいつか必ず、
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