第五章、その二
………………………………はあ?
「……僕がすでに、この世界の神様的存在になっているだって?」
「ええ、むしろそのためにこその、私の未来操作を駆使しての、現実の事件とあなたの小説との完全なる
なっ⁉ 現実のほうを小説に合わせて変えてしまうだと?
「いやいやちょっと待って、何かもう今の段階で早くも頭がこんがらがってきたんだけど。僕が現実と小説とでシンクロしているから小説が現実化するのか、小説が現実化しているから僕が現実と小説とでシンクロするのか、いったいどっちが先でどっちが後なんだよ⁉」
そんな今や大混乱に陥っている僕の問いかけに対して、むしろ我が意を得たりといった感じに表情を輝かせる目の前の少女。
「そう、そうなのです! まさにそのような『鶏が先か卵が先か』といった状態こそが、小説の現実化のメカニズムを一言で体現しているのですよ! 御安心ください、これについてもこれから詳しく御説明しますから。そもそもですね、先ほども申しましたように多重的自己シンクロ状態下においては、どちらが先か後かとか因果関係とかは、まったく考慮に入れる必要はなくなるのですよ。なぜならたとえ私がやったように人為的かつ後付け的に無理やりに現実と小説とを一致させようが、その結果あなたを現実と小説とを超えて完全に
「過去や未来を好きなように変えたり決めたりできるだって? いやでも、たとえ集合的無意識を介して自他の強制的な『小説の中の自分』とのシンクロ能力を駆使しようと、あくまでも精神的にしか現実世界を改変できないはずじゃなかったのか⁉」
「だからそのための幸福な予言の巫女の全知の力を駆使しての未来操作であり、それによる現実と小説との多重的自己シンクロ状態の構築なのであって、現下の現実と小説とが完全にシンクロしてしまっている状況においては、今や真の『作者』とも呼び得るあなたは小説を書き換えることによって、精神的だけでなく物理的にも──つまり
な、何だってえ⁉
「それというのも多重的自己シンクロ状態にある現状においては、あなた自身は小説の中の『あなた』と、世界そのものは小説の中で描かれている『世界』と、完全にシンクロ状態にあり、時間的な前後関係を取っ払ってしまえば、あなたが小説の記述を書き換えれば同時にすべての連鎖世界の小説が書き換えられることになり、そしてそれはその小説内に記述されている者にとっての
──‼
「うふふ。これで幸福な予言の巫女である私があなたの描く物語の『ヒロイン』になりたいと申しました意味が、十分おわかりになられたことでしょう。何せあなたに私をヒロインとして小説に登場させていただき、作中において幸福な予言の巫女として幸福の予言を行いそれが見事的中するように書いてもらえれば、現実世界においても的中することになるのですからね。これぞすべての幸福な予言の巫女にとっての悲願である、幸福の予言を常に100%確実に的中させるための唯一の方法と申せましょう。ただしこう言うと一方的に幸福な予言の巫女である私が『作者』であるあなたに依存しているようでもありますが、実はこれはあくまでも『ギブアンドテイク』の関係にあるのです。何せそもそもあなたが真の『作者』となるために現実と小説とを超越して『小説の中のあなた』と完全に
「へ? 全知と全能がお互いに補い合う関係にあるって? 全知と全能ってどっちにしろまさに神様であるかのように、『何でもできる』って意味じゃなかったのか?」
「そこら辺のところこそ、皆さん勘違いされているようなのですが、実は何と全知と全能とはお互いに矛盾した関係にあるのであって、『全知全能なる神』なんて言葉をよく聞きますけれど、厳密に言うと神や悪魔などといった存在は、別に何の根拠もなく何でもかんでも実現することのできる反則技的な超常の存在なんかではなく、言わば『意識を有する量子コンピュータ』みたいなもので、この世の森羅万象そのものやその無限の未来の可能性をデータにして計算処理を行うことで未来予測等を実現しているのであり、確かに全知ではあるけれど、けして全能でもあるわけではないのです。なぜなら何度も申しますようにすべての大前提として、『未来には無限の可能性があり得る』のですから。例えば仮に本物の神様にたった一日後の天気がどうなるかを問うたところで、確定的に晴れるのか雨が降るのか等を断言することなんかできないし、もちろん明日の天気を自由に定めるなんてこともできないのですよ。もしそんなことができたら、『未来には無限の可能性があり得る』という大前提と矛盾してしまいますからね。むしろ未来の無限の可能性を余すところなく
そう言い終えるや、こちらにあたかも白魚のごとき繊手を差し出す、自称全知なる少女。
その姿はまるで、文字通り幸運の女神のようでもありながら、また同時に、人を誘惑して地獄へと引きずり込もうとしている、災いの魔女のようにも見えたのであった。
それでも、ただ目の前の手を取るだけですべてを手に入れることができると聞いてはとても抗いきれず、僕がもはや心ここにあらずといった体で、足を一歩踏み出した、
まさにその刹那であった。
「──ふざけるんじゃない!」
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