君と風を切って走った日々

駿 銘華

第1話 出逢い

「もしかして、ウチら入れ替わってるーっ!?」


 まあ、ありがちなオープニングと言われれば無理もない。だが、これは僕と彼女の間に起こった現実の話。まずは事の成り行きをお読み頂きたい。



***



 僕、志村仁しむらひとしは高校時代時代から自主映画の制作にハマっていた。


 学校の仲間を集めて同好会を作り、父親のデジタルビデオカメラやスマホで撮影した動画をパソコンで編集しては、動画サイトにアップロードして、そこそこのフォロアーも付いていた。


 作っていた映画は、主に特撮ヒロイン変身物。主役は学校で同じクラスだった某地方都市のミスコン・グランプリのIちゃんに協力してもらっていたが、映画の評判と言うよりはむしろその子の可愛さ目当てでアクセス数が伸びている感じがした。


 実際、コメント欄には、


「脚本がボロボロ」

「ショボいCG変身シーンはいらんから、もっとIちゃんの素顔を可愛く撮れ」

「Iちゃんは俺の嫁」

「パンチラキボンヌ」


 なんてのが寄せられていて、僕は自分の監督としての力量の無さに凹んでいた。


 そうして季節は一巡りし、僕は映像制作科のある専門学校に通う事に決めた。そこは漫画家や声優育成コースもある複合学校で、実技試験の他に面接試験も含まれていた。


 僕が面接の待合室である教室の片隅で一人ボーッとしていると、女の子達がキャイキャイ話している声が聞こえた。友達同士で受けに来たのだろうか? いや、話の内容を聞く限りそうでも無いみたいだ。どうもその中の一人の女の子が率先して喋っている様だ。おそらく声優コースを受けに来た子だろう。さすがに活発な女の子だな、と言う印象を受けた。


 教室のドアが開き、先生が「光岡沙羅みつおかさらさ〜ん!」と呼ぶと、あの活発な女の子が「は〜い!」と返事をして面接室に向かって行った。


 しばらくして僕は自分の名前を呼ばれたので、教室を出て面接室に向かっていると、さっきの子とすれ違った。


 光岡沙羅は僕の顔を見るなりニコッ微笑んで、


「頑張ってね」


 と声を掛けて来た。


 僕はドキッとしながら、自分はあんなに教室の端っこに居たのに彼女が僕の事を覚えていてくれた事の嬉しさと、僕好みのボブカットで卵形の顔立ち、クリっとしたつぶらな瞳に完全にやられていた。


 そう。その瞬間、僕は恋に落ちていた。

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