第三章
そんなある日、シフォーはディオを伴って、馬で遠乗りに出かけた。
長く続く道は遠く国境まで続いている。
たまに二頭仕立ての馬車が凄い速さで駆け抜けたりするが、大抵は牛に引かせた荷馬車ばかり。
周りは葡萄畑とじゃがいも畑。たまに牛や羊が見渡す限りの広い草原に放牧されているだけの田舎道だった。
「何で俺も?」
広大な自然の中で、不満そうな顔をして、ディオは口を尖らせる。
実は、この遠乗りは、シフォーの所属する新兵隊の隊長の結婚式が、国境近い田舎町で行われることになり、そのお祝いを兼ねてのことだった。
「たまには屋敷から出てもいいでしょう?貴方ももうすぐ兵役につかないといけない年頃ですし。外の様子にも慣れてもらわないと」
シフォーはディオの方をちらりと見たが、口程には嫌がってもいない様子に少し安心したようにまた馬を走らせる。
実際シフォーが兵役をこなしている間にディオが屋敷でしていることといったら、概ね木の上の昼寝くらいで、母親と卓上のゲームなどをしているのはまだいい方だったので、こうして外の世界に触れる機会を与えてやることに、シフォーは喜びを感じていたのだが。
「・・・疲れた・・・」
ディオが根をあげたのは丁度半分くらいの距離を進んだところだった。
「町はまだまだ先ですよ」
知らん顔をしてシフォーは先を急ごうとした。
「お尻が痛い!こんなに長く馬に乗ったことないんだぞ!」
ディオの声に、慌てて彼は駆け戻った。
今まで、乗馬の練習でも長い距離を走らせたことはなかったということに、シフォーはやっと気付いたのだった。
二人は日陰を探して道を外れ、森の中に入っていく。
「ちょっと休憩してもいいだろ?」
小川の水で喉をうるおすと、ディオは自分の馬をシフォーに預け、一目散に近くの森の中に駆け込んで行く。
「遠くにいっては駄目ですよ!」
二頭分の手綱を持ってシフォーはディオの背中に叫んだが、既にディオの姿は森の中に消えていた。
「・・・」
一人にされると、さすがに彼も手持ち無沙汰になってしまい、馬に草を食ませながら自分は草地に寝転んでみた。
草の香りが匂いたち、彼は、また幼い頃のことを思い出す。
丁度同じ季節くらいだったか、屋敷の庭で遊んでいた自分を、弟が窓辺で羨ましそうに覗いていたことがあった。
弟の身体の具合など知らず、彼は弟を庭に招き入れて日暮れまで一緒に遊んだ。
その夜、弟は高熱を出し、母親から厳しく叱られたのだが。
光の下で笑う弟の笑顔は、ずっと心に刻み込まれている。いつまでもこの時間が続けばいいとさえ思った。
そういえば、あの時の声だったのかも知れない。
自分を呼ぶ声。聞き慣れた子供の声。
「・・・おい、シフォー・・・」
肩を揺すられて、シフォーは目を覚ました。
「腹減ったよ、なんか食べよう」
いつの間にか眠ってしまったらしい。シフォーは慌てて起き上がった。
一瞬、逆光でディオの髪が薄い茶色に見えた気がしたが、シフォーは目の迷いだと思い口に出さなかった。
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