目が醒めたら変な生き物がいて、何だかよく分からないけどダルいからどーでもいいや
にゃべ♪
怠惰な休日~目が覚めたらだるかった~
第1話 目が覚めたらだるかった
ある日、目が覚めるとだるかった。だるいのはいつもの事だからと寝返りを打つと、そこに見慣れない何かがいた。えーと、何だろうこれ。
一見するとその姿は悪夢を食べるあの伝説のバクに似ている。実際にもバクと言う動物は実在しているけれど、リアルなバクは夢なんて食べない、そりゃ当然だ。
ではこの生き物は何なのだろう? どれだけ考えても皆目見当がつかない。そもそも僕は一人暮らしだし、昨夜も帰った時にしっかり玄関のドアの鍵は閉めている。
って言うか、もし鍵を締め忘れていたとしても、人間以外がドアを開けて部屋に入る事は不可能だ。
じゃあ、この目の前の生き物は何なんだ?
「ああら、お目覚めのようねえ」
しゃ、喋ったァァァァ! しかも喋りながら僕の顔を興味深そうに覗き込んできた。一体何がどうなっているんだ? こう言う場合、普通は大袈裟に驚いて寝ていた布団から飛び上がったり、大声を出したりするものではないだろうか。
けれど、朝からだるかった僕はただパチクリとまぶたを何度か動かしただけだった。なんかもう何をするのもだるい。
それにしても、この生き物は何なのだろう。全く訳が分からない。見覚えのない生き物が部屋にいると言う状況だけでも理解に苦しむと言うのに、しかもそいつが喋るだなんて。
僕は布団から起き上がりもせずに、まずふたつの可能性を考えた。ひとつは幻覚、もうひとつはラノベの読み過ぎかもだけど異世界からの訪問者。どうにか前者である事を願うばかりだ。
「うふふん、どうやら驚いているようねえ」
謎の生き物はそう言うと目を三日月のような形に歪め、同時にニタアとその大きな口まで歪める。その邪悪とも言える笑い顔は何かを企んでいるようにしか見えなかった。何なんだこいつ。
それにしても日常の光景に異物がひとつ紛れ込むだけでここまで非日常になってしまうのか……。
「ほら、何か言ってみてよ。そのくらいの気力は残してあるはずよ」
「出てけよ」
僕は平穏な日常を取り戻すために必要最低限な言葉だけを発した。この生き物の正体なんてどうでもいい。こいつがいなくなれば全ては解決だ。
「あらあ、つれないわねえ。でもダメ。出ていったげない」
最初から話を聞くとは思っていなかっただけに、この反応は想定内だ。次に生き物はパカパカと愉快な足音を立てながら僕の寝ている布団の周りを歩き始めた。
これは何かの儀式なのか? 鬱陶しいので止めさせたいものの、やっぱりやる気がなくて声も出せない。
「あなた、疑問に思ってるでしょ。何故私がここにいるかを。聞きたい? ねぇ聞きたい?」
謎の生き物はついにウザ絡みをし始めた。こっちはまだ四文字しか反応をしていないって言うのにだ。折角の休日なのにこれじゃあ気分が下がったまま一日が終わってしまいそうだ。
そりゃ今日の予定なんて最初からなかったけど、やりたいと思う事は色々あったんだ。それがどうしてこうなった……。
「聞かなくていいの? 私がここに来た理由。私があなたに何をしたのかも」
「はっ?」
謎の生き物は突然意味深な事を言い始めた。コイツ、僕が寝ている間に何かしたのか? そう言われて改めて僕は自分の体に異常はないか感覚を研ぎ澄ませてみるものの、残念ながら特に何の不調も感じられない。
強いて言えばだるくて何もする気がないくらいだけど――それは普段からそうだから、まず今回の件とは無関係だろう。
「あら、もしかして何も思い浮かばないのかしら? うふふ」
謎の生き物は歩き回るのを止めると、僕の顔に向かってその面妖な顔を近付ける。ち、近い近い近い! キスでもするつもりかこのバケモノは!
生き物は10秒くらい僕の顔をじいっと眺めた後、すっとひっこめると窓の外の景色を眺め始める。と言っても、この部屋の窓はすりガラスなんだけど。
「そうね、じゃあ、分かるまで私はここにいるわ。だって大丈夫そうだもの」
「いやだから、出てけよ」
話が全く通じない生き物に僕は段々イライラしてきた。イライラしているはずなのに布団からは起き上がれない。流石にこれはちょっとおかしい。
そこで僕は目の前の生き物が何かをしたのだろうと言う結論に達する。さっき生き物自体がそう自己申告していたけれど。
「一体僕に何をしたんだよ」
「ああ、やっとその質問が来たのね。遅いわよボウヤ」
「くっ」
何この手玉に取られている感。昨日寝ている間に一体何があったって言うんだ。教えてくれよ! 僕の何の落ち度があったって言うんだ。
「私はね? ボウヤのやる気を食べたのよん。結構美味しかったわよ」
「や、やる気?」
「そう。元気、根気、やる気のやる気」
流石に説明されなくてもやる気の意味くらいは分かる。このバクモドキは夢を食べるんじゃなくて気力を食うのかよ。道理で朝から異様にダルい訳だ。
ただ、こんな厄介な生き物を今後もずっと飼う訳にはいかない。このままだと今後の人生設計が何も成り立たなくなる。一体どうすれば……。
「言っとくけど私に何かをしようと思っても無駄よん。そうさせる気力は一番最初に頂きました。大変美味しゅうございました」
コイツ、人の気力をグルメ気取りで解説しやがって。気力に美味しいとか不味いとかあるのかよ、初耳だよ。
それにしても何か策を考えない限り、この最悪な時間が延々とループするだけだ。ここまで舐められているのにまだ布団から起き上がれもしないのだから……。
「おいバケモノ、僕を生活させないとここで飢え死ぬぞ、いいのか」
「あら、起き上がれないの? おかしいわねえ。食べすぎたかしら?」
「いいからどうにかし」
最後まで言い終わる前にバクモドキは僕の口に吸い付いた。それから何かを戻し始める。ハッキリ言って気持ち悪い。何だこれ。吐きそうになりそうなのをギリで回避するものの、無理やり何かを飲まされるのは回避出来ない。一体何を飲まされているんだろう。
さっきのモドキの言動から考えて、それはきっとヤツが食べ過ぎたって言うやる気なんだろうけど、やる気って、こんな質量を持った気体なのだろうか。
そもそもそれを飲み込んだところで僕にやる気が戻るとでも――。
モドキは必要な分だけのやる気を僕に戻すとチュポンと口を離した。うえぇ……今すぐ口を洗いたい。
「ふふ、どうだった? 私のキス」
「思い出したくもない……」
「あら、つれないわねえ」
僕はすぐにこの悪夢を忘れ去りたいとガバッと勢いよく布団から起き上がり、まっすぐ洗面台に向かう。何度も口をゆすいで嫌な記憶と一緒に洗い流すと、ついでだからと歯磨きをした。
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