プリティ☆ヘル
コウベヤ
第1話 はじめまして正義
「どうして私が死ぬところを見届けてくれるんですか」
「人が死ぬところって見たことなかったからかな」
それが二人が初めて顔を合わせて交わした会話だった。
桜色の吹雪舞い散る三月の末、二人はまだ春休みだというのに高校の屋上にいた。
島津瑞穂は屋上の柵に手をかけ、舞い散る校庭の桜を物憂げな目で追っている。
「私達が初めて出会ってからもう一年がたったのですね」
そんな瑞穂の背中を見つめて大友さくらは応える。
「そうか、初めてフレンド登録したのは春イベントの時か」
瑞穂とさくらの出会いは
そして、リアルで二人が会ったのはこの日が初めてだった。
数日前、さくらにゲーム内でメッセージが来た。フレンドの「地獄将軍ミズホーン」からだ。
内容はシンプルなもので
「死にたいから見ていて欲しい」
とだけ。約束の日と一緒に指定された場所はサービス終了の日で高校の屋上だった。前から同じ高校だという話はしていたが、相手が同じ新二年生でそれもあの島津瑞穂だとはさくらも思っていなかった。
「死にたいっていうのもやっぱりゲームがサービス終了するから?」
さくらが瑞穂と実際にリアルで会って初めて出た疑問がそれだった。
さくらは一年生の頃から噂では聞いた事があったが、島津瑞穂という生徒は成績優秀で先生からの受けもよく、家は比較的裕福なのだという。そして、改めて直接会ってみるとかなりの整った顔立ちに長く艶やかな黒髪が光り、容姿で悩む事もないだろう。
そんな完璧すぎる瑞穂が死にたいというなら、それはもうゲームのサービス終了くらいしか原因が見当たらない。
「ゲームにそこまで入れ込んでないけど、リアルにもそこまで入れ込んでないんです。だから、これがいい機会かと思いました」
「そっか、未練はないんだね」
「そうですね、もうさくら☆さんと冒険することもありませんからね」
瑞穂は寂しげにそう言うと、大きめのバッグから刀と短刀を取り出した。
「これは私のわがままなのですが、これから切腹する私の介錯をしてくれませんか」
と言って有無を言わさず瑞穂はさくらに刀を押し付けた。
「随分と立派な刀だね」
その刀は古びてはいるが、柄から鞘の先まで様々に華麗な装飾が施されている。
「実家の倉にあった物です」
「介錯とかやった事ないし、失敗するかもよ」
「構いませんよ」
と瑞穂は既に短刀を抜いている。
さくらもとりあえず刀を抜いてみようとしたのだが、これが中々重くて固い。
やっとの事で目にすることが出来た刀身はさび一つなく、陽の光を反射してぎらぎらと妖しい輝きを纏っている。
「準備は出来ましたか。それでは」
と瑞穂がなんのためらいもなく腹に短刀を向け
「ありがとう」
と一言。
短刀を振り上げまさに下そうかとした瞬間、屋上の入口が勢いよく開き、十人ほどの武士風の男たちが乗り込んで来た。その拍子に瑞穂も驚いて短刀を思わず手から滑らせてしまった。
「おおっやっと生徒がいたぞ」
「お主らおとなしく我ら新世紀天誅党の人質となれ」
「まったく、立て籠もろうとした学校が春休みだなんて俺達もついてないぜ」
あっという間に、瑞穂とさくらは屋上の柵を背に取り囲まれてしまった。
「ちょっとあなた達、私達を人質に取ってどうする気」
瑞穂は刀を持った男達にも物怖じせず、さくらの前へ踏み出した。
「どうするって、お前達を人質にして我々の正義を天下万民に周知するのだ」
するとさくらは質問タイム。
「おじさん達の正義って何?」
気になった事は追求せずにはいられない。
「これはいい質問だぜお嬢さん」
「そう、我々の正義はこの国を夷敵に負けぬ強国にすること」
「その為にも一度我が国の中枢を一掃せねばならんのだ」
「つまり新世紀天誅党は君たちの身柄を人質に国民への一斉蜂起を呼び掛けようというのだ」
「そんなの、あんまりだわ。勝手に正義の為とか言って私達を人質にするなんて」
それまで出会ってからずっと静かだった瑞穂が感情をあらわにして怒っている。
「そんな、自分たちの都合だけであまりにも身勝手で独善的な正義なんて…………、私は許さない!!」
と瑞穂は刀をさくらの手から取りあげ、改めて新世紀天誅党と向き合った。
「武士十人を相手に勝てると思っておるのか」
「新世紀天誅党も舐められたものだ」
「黙りなさい、これ以上近づいたら斬ります」
瑞穂は強い言葉で威嚇している。しかし、その足が震えているのをさくらは見逃さなかった。
「人質は一人いれば十分ではないか」
そう言ったのは武士の中の一人で「今日の宮本武蔵」と書かれたたすきをかけている男だった。彼は自分を宮本武蔵の生まれ変わりだと思い込んでいる。だが、剣の実力は本物そうだ。
「いざっ」
と男が刀を抜いた瞬間、屋上の入口が勢いよく開き、七人ほどのマッチョで半裸な男たちが乗り込んで来た。その拍子に今日の宮本武蔵は鉄のドアに挟まれて気絶した。
それよりも異様なのはそのマッチョな男達の異様な風体である。それぞれが頭にはリボンを付け、丈が短く腹筋丸出しな服の袖や裾はことごとくヒラヒラしたものにまみれ、スカートは膝より上、となんともファンシーなマッチョ野郎達なのである。
「なんだ警察か!?いや変態だ!?」
新世紀天誅党も動揺して思わず切腹しそうになったほどだ。
「おおっやっと外に出られたぞ」
「お主ら異世界に来てテンション上がってるのは判るがおとなしくしろ」
「まったく、初めて来た異世界が変な施設だなんて俺達もついてないぜ」
とマッチョ野郎達は仲間内でなにやらはしゃいでいる。
「見ろお前たち、か弱そうな女子二人に狼藉を働いている変態がおるぞ」
「これは一つ成敗せねば」
よく見たらマッチョ野郎も腰に刀を下げているではないか。そして、その刀が抜かれた時、奇跡は起きた。
その場の全員が目にしたのは二本の刀から放たれる光りだった。一つはマッチョ野郎が抜いた刀の内の一本から。もう一つは瑞穂が持つ刀の内の一本から。
なんとも目映く、神々しい光が刀身から溢れ出ている。
「この輝きはまさか……」
「私の刀が……」
「間違いない、拙者の刀と共鳴しているのだ。伝説の通りならばお嬢さんの持つ刀はジャッジメント・ヘルの持ち物」
そして、さらに奇跡は連鎖する。瑞穂の刀が纏っていた光が広がり、指先から腕、腕から上半身、という具合に体の全身を巡るように包み込む。光の通った後にはひらひらとした布の衣装が施されている。そのセンスはマッチョ野郎達と大差はない。違いといえば、瑞穂の場合は衣装のベースが和装になっている事だろうか。だが、方向的には同じような衣装でも、着る人間によってここまで印象が違うものかとさくらは感心したほどだ。
そして、この瑞穂の姿を見たマッチョ野郎の一人はある事を確信した。
「この装束、間違いない。やはり拙者とお嬢さんは伝説の正義の使者ジャッジメント・ヘルなのだ」
これが二人の友情がリアルへと移り変わる季節の始まりだった。
プリティ☆ヘル主題歌
「全開☆しじみPAWAR」
作詞モスラ
作曲モスラ
しじみ達の声が聞こえるか
聞こえないからまだ戦う時じゃない
しじみ百人分のPAWAR見せてあげるから
時が動くまでしじみ続けよう
戦い続ける正義より
悪と戦う悪が好き
ネットの中では最強無敵の二人の秘密は
毎日のしじみです
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます