第51話 男の強さ~戦闘力VS知力 8


「行徳、そこのチビ女と私…どっちとペアを組むべきか、よく考えなさい!」

「そ、それは……」


 船橋の後を追い、俺がその場に到着すると、そこは修羅場と化していた。

――とりあえず俺は物影に隠れて、黙って見守ることにした。


「あんた、この学校を首席で卒業して、プロの格闘家として生涯支援してもらうんじゃなかったの?」

「べ、別に私とペアを組んでいても――」

「行徳、本当にこんな奴とペア組んで卒業目指すつもり?どう贔屓目に見ても、あなたとこの子が組んで卒業出来るとは思えないわ。」

「そ、そんなこと……。」

「私なら、あんたの強みを十二分に引き出せる!これまでのようにね。」


 船橋と習志野で行徳争奪戦が勃発しているようだが…どうやら戦況は船橋が優勢のようだ。

 船橋の言っていることは尤もなことばかりで、全て行徳の立場に立った意見ばかりだ。

 習志野にベタ惚れの行徳ですら、船橋の言っていることは理解できているらしく、時折チラチラと習志野を見る目線からはかなり迷いが見られる。

 それに加え、習志野が入り込む隙間さえ与えない船橋の徹底ぶり…。

 普段からこういった交渉事は慣れているのだろう。さすがの手際だ。

 そして、さらに船橋の説得は続く。


「行徳…正直あんたに裏切られたことはショックだった。でも、あなたを引きとめておけなかった私にも原因があると思ってるわ。だから、これを機に、お互いのことをもう一度話し合って、二人で力を合わせて目標である卒業を目指しましょう?」

「船橋……。」

「行徳、私ともう一度ペアを組んでくれる?」


 そして、船橋の口から『告白』の言葉が飛び出した。

 それを聞き、思い悩む行徳。

 好きな子を選ぶのか…それとも自分の夢の実現に直結する『卒業』に優位な方を選ぶのか…行徳は黙ったまま二人の間で心揺れている。

 そして、数分の沈黙の後、行徳の出した答えは…


「悪い…俺は習志野さんと一緒に卒業を目指す。――だから…お前とはペアは組めねぇ…」

悩みぬいた末、覚悟を決めた行徳は真摯で真剣な口調で船橋に断りを入れた。


「そんな……。」


 そして、そんな行徳の言葉に崩れ落ちる船橋。

 目には涙を溜め、俯いたまま泣いている…


「ぎょ、行徳さん…そ、その…あ、ありがとうございます…。」


 その光景を目の当たりにし、選ばれた習志野は申し訳なさそうにしつつも、行徳に頭を下げる。


「お、俺はただ自分の気持ちに従って、習志野さんを選んだだけだ!習志野さんが礼を言う必要なんてねぇよ!」


 礼を言われた行徳は、頬を赤らめ照れくさそうに目を反らしながら言葉を返す。


「ありがとうございます。」


 そんな彼に対し、習志野はにこっと笑いかける。

 そして、それを見た行徳はさらに顔を赤らめて目を反らした。

 ――行徳よ…誰も強面のデレる姿なんて欲してないんだが……。

 一方で船橋はというと……

 よっぽど行徳への告白に勝算があったのか、未だに立ち直れずにいる…ように見えた…。


「さぁ、あなた達の作戦はこんなところでいいのかしら?」


 船橋は何事もなかったかのようにすくっと立ち上がる。


「ねぇ、氷室くん?」


 そして、物影に隠れていた俺に向かって問いかけてきた。


「さすがに隠れてるのはバレてたか。」


 抵抗しても無意味だし…問いかけに応じて、俺も素直に姿を現す。


「フン、今さら出てきたところで遅ぇんだよ!この通り習志野さんはこの俺とペアを組んだんだからな!」


 俺の登場に若干びっくりしながらも、行徳は習志野の肩を抱き、顔を赤くしながら自慢気に言い放つ。

 ――恥ずかしいなら無理するなよ。

 そんな行徳に若干イラッとしたが、今はこいつに構ってる暇はない。


「どうせ私がこのまま行徳に2回フラれて退学になることを期待してたんでしょうけど、残念だったわね!そんなの初めから分かってたから、逆にそれを利用してあなたをおびき出してやったわ!」


 船橋は姿を見せた俺に向かって勝ち誇った様子で俺を追い詰めようとしている。


「あなたの猿知恵なんて所詮こんなもんよ!」

「なるほど。そういう作戦もあったのか。今後の参考にさせてもらうわ。」


 しかし、俺は何でもないようにその挑発を受け流す。

 なぜなら…


「まぁ、そこら辺の反省はこのこの勝負を片付けてから考えるわ。――勿論俺達の勝利で!」


 俺がニヤリと笑うと、船橋が若干後ずさりし、顔を引きつらせる。


「…別に無理して余裕ぶらなくていいのよ?あなたが見つかった時点で私達の勝ちは確定何だから!――行徳!さっさとこの生意気な男黙らせなさい!!」

「フン!言われるまでもねぇ!!」


 船橋に呼応し、行徳がこちらに駆け出してきた、

 そして、気付けばその巨体は目の前まで迫っていた…。


「安心しろ!習志野さんは俺が責任を持って幸せにしてやる!」


 行徳が拳を振り上げる。

 しかし、俺は全く避ける気もなく、逆に不敵に笑って見せながら、


「悪いな。その必要はねぇよ。」


 とある人物にアイコンタクトを送る。その直後…


「ギブアップ!!」


 行徳の背後からいつも耳にしている少し舌っ足らずな叫び声が聞こえてきた。

 その声を聞き、行徳は驚いた様子で後を振りかえる。

 そして、少しの静寂の後…


「フン、怪我しなくて良かったな。優しい習志野さんに感謝しとけよ。――まぁ、お前はこのまま退学だからお別れの言葉も一緒に言わなきゃいけねぇだろうけどな。」


 そう言って、行徳は見下した目で俺を嗤う。

そして、


「はははっ!生意気なこと言うから何をするかと思えばただのギブアップだなんて!!もしかして勝負は捨てて笑いを取ろうと思ってたの!?はははっ!!」


 少し後ろでは船橋が腹を抱えて爆笑している。

 ――この勝負の『本当の結末』など知らずに……


「おいおい、お前ら何呑気に笑ってんだよ?現実逃避も良いけど、さっさと自分の生徒端末でも見て現実見た方がいいぞ。」


 そんな二人に、俺は逆に見下した目を向けながら笑いかける。


「フン、最後までムカつく奴ね!いいわ!そこまで言うなら――」


 船橋は自分の端末を見て、表情を一変させた。


「……うそ…でしょ…?なんで…何で…?」


 その様子に気付き、行徳も急いで自分の端末を確認する。

 そして…


「な、何なんだよ!!どうして…どうして、俺達の負けになってんだよ!!!」


 自分の端末を投げ捨て膝をついて絶叫する。

 その端末には…


『行徳VS氷室 喧嘩タイマン勝負…氷室辰巳の勝利。したがって、行徳拳・船橋恵の全生徒ポイントは氷室辰巳・習志野栞に譲渡する。』


 そして…


「習志野、俺ともう一度ペアを組んでくれ。」

「はい、勿論です!」


 俺達は何が起こっているのか理解できずにいる敵方二人をよそに、『予定通り』再びペアを組み直した。

 そして、行徳と船橋は茫然とこちらを見つめている。


「悪いな、行徳。習志野はこれからもずっと、俺のパートナーだ。」


 今度は俺が習志野の肩を抱き寄せ、行徳を見下ろしながら嫌みを一つ。

 さらに、ニヤリと笑いながら、未だ自分達の負けを理解できていない様子の二人に再度現実を突きつけてやるべく、宣言する。


「この勝負、俺達の勝ちだ!」

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